医療機関における統計データの活用に関する考察(1)
2016年9月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療機関における統計等に関する問題点

今回からは、「医療機関における統計データの活用に関する考察」としてお話をしたい。

医療機関には、様々なデータが存在する。診療データから看護、薬品、放射線、検査、物品、会計、経理、その種別は数多くあり、各種データが持つ意味や意義も多岐にわたる。まずは、医療機関における統計等に関する問題点を列挙したい。

問題点1 院内での統一管理が確立されていない

いつ、どこで、だれが、どんな、が不明確で、多分、あそこで、こんなデータがとられているはず、が数多くの医療機関で存在する。

⇒医療機関全体を通した統計一覧(担当者・作成部署、作成状況等)を作成する。

問題点2 抽出データの根拠が決まっていない

統計抽出方法についての統一ルールが定まっていないケースが散見され、最悪は抽出した人物によって、統計結果が変わる。

⇒統計作成に関する根拠を明示し、院内での統一ルールを確立する

問題点3 結果については、報告のみで終了している

統計の結果による数値が、その後の院内業務改善等に活かされないまま報告のみで終わる場合がある。追跡統計や数値変動の理由が明確にされないで、放置されてしまうケースがあり、何のための統計か意味をなしていないことがある。

⇒転倒・転落統計から、手術実施件数への連動等、業務の改善につながる事由を明確にし、業務改善委員会等での検討を実施する。

これらの問題点を解決するための案として、以下の方法を列記する。

  • 院内各種統計について、どんな統計を取っているか、根拠となるデータは何かの調査を行う。
  • 各種統計について、定義を定め、使用するデータ種を含めた計算式等に統一のルールを定める。
  • 統計データとして使用するDBを構築する(このためには、現状の医療情報システムから抽出できるデータ群の確認と整理が必須となる)。
  • 集計、分析のためのBIツールを作成する(DWHを使用している場合は、その構造やデータの持ち方等の検証も必要)。
  • 調査結果を検証し、医療の質の向上を目指す。各種データを具体的に「見える化」することで、改善計画が明確となり、職員意識の改善や質の改善活動の加速効果が期待できる。

統計は、「原因を究明し、改善を進めるための重要な手段の一つである」ことを認識して、調査・分析に取組むべき事項であると考える。

医療機関における購入と保守について

次に、データの二次利用に関する事例をお話ししたいと思うが、その前に、まず、イニシャルとランニングについて記述したい。いわゆる購入と保守についてであるが、数々の医療機関の状況を見聞する中で、医療機関ごとに、機器等購入の金額に大きな差があるのは、大きな謎の部分である。

とある医療機関に話を伺った際には、きちんとしたベンチマークを基に購入を進めているということであったが、その購入金額は、我々が思っている価格よりはるかに高かった。販売する側にも様々な事情があるのだろうが、上手に購入をしているところとそうでないところが存在するのも事実である。

保守にしても同様である。購入は安かったが、その後の保守の金額があまりにも高いケースがみられる。最近は、ようやくその点に疑問を抱き、内容を確認する機関も増えては来ているが、保守仕様書を詳細に検討・吟味しないまま契約を行っている機関も多くある。特に、中小規模の医療機関においては、その内容と金額のバランスを分析することが少ないように感じている。保守にあたっては、必ず保守仕様書を作成し、院内作業とメーカー作業の区分をしっかりと行うべきである。

方法論の詳細については、割愛するが、同じものを購入してこれだけ差が出るのは、医療機関では、画一された購入方法に至っていない結果の表れであると思われる。

次回からは、放射線機器の使用分析や室料差額の分析がもたらした効果(収入と意識改善)等について、お話をしたい。

購入にあたってのリース契約について

最後に、購入にあたってのリース契約について、いくつかご紹介をする。医療機器等、高額物品を購入する際には、リース契約を結ぶことが多いと思われるが、調達方法とリース契約に関して記述させていただく。

現金とリースに関する調達の比較

【現金】

メリット
金利、手数料負担がない
自院所有のため、期間制限がない
定率法償却の場合、早期に費用化が可能
デメリット
一時的な資金負担が必要
メンテナンスを自院で行う必要がある
除却等の処分を自院で行う必要がある
基本的に償却資産税の対象となる

【リース】

メリット
分割で支払うため一時的な資金負担が不要(資金繰優位)
契約に含まれるメンテナンス等の手間がかからない
期間満了時に使用中止する場合、リース会社への依頼のみで終了
期間満了時に再延長する場合も低いリース料率で再契約可能
定額で費用化されるため、費用見積もりが容易にできる
デメリット
金利、手数料の負担が必要(支払総額が高くなる可能性あり)
期間満了時に再契約または、返却義務がある(所有権はない)
中途解約しても違約金等で実質的に購入した場合と同額の負担有

リース契約とその種類

リースの場合、現金取引に比べ、金利、手数料を含むため、総額では必ず現金取得の方が低くなる。借入により取得するとしても、借入の場合は金利だけであるが、リースはその他に手数料も必要になるため、総額でみれば借入取得の方が低くなる。

リースのメリットとして一番大きいのは、一時的な資金負担が低くて済むということと減価償却や動産保険等の手続きが簡易である等点である。また、近年は、料率がかなり低くなっているためリースのメリットが大きくなる傾向がある。節税という点では、取得して定率法で償却すれば早く費用化できるため、その点では自己所有の方が有利といえる。以下、リースに関する手法を記載する。

  1. ファイナンスリース(フルペイアウト)
    一定期間での支払い後、再リース契約を行い、使用期間中は、一定の金額    を支払う方法(一般的なリース契約)
  2. 購入選択権付リース
    残価設定を行うことで、月額リース料を大幅に減らすことが可能。期間終了後は、残価を一括で支払う(買取り)か、2次リース(残価再リース)、第三者斡旋(売却)等の選択が可能。
  3. メンテナンスリース
    期間中の保守及び修理等を加味したリース契約(支払額の平準化が可能)修理の状況等を勘案した場合、かなり有利な契約となる場合がある。

リース会社各社とも様々な商品を提供するようになっている。是非とも多くの情報を活用することで、自院にとって最適な購入方法の選択に努めていただきたい。

今回は、統計分析等の意義・や購入方法・保守契約の在り方についてお話をした。少しでもお役に立てれば幸いである。

上へ戻る