今回も、「医療機関における統計データの活用に関する考察」としてお話をしたい。
医療機関には、様々なデータが存在する。診療データから看護、薬品、放射線、検査、物品、会計、経理、その種別は数多くあり、各種データが持つ意味や意義も多岐にわたる。その中から今回は、データの二次利用に関する事例として、放射線機器の使用分析や室料差額の分析がもたらした効果(収入と意識改善)等について、お話をしたい。
まず、最初に放射線機器についての分析であるが、一般的に、放射線機器の購入の際には、ほとんどの医療機関で、損益分岐についての分析を行い、一日あたりの検査件数や回収率等についての検証を行っているものと思われる。しかしながら、経年的に検証内容についての追跡統計が実施されず、購入時のみの検証で終わっている医療機関が多い印象である。そこで今回、ある医療機関にて実施した放射線機器に関する使用分析と医療機関の今後の方向性について、記述したい。
まず、検証を行うきっかけになった要因としては、
という状況で、検証をスタートした。
最初に着手したのは、診療圏における他院の診療情報収集である。近隣の病院はどのような特徴(診療科別患者数等)なのかを把握し、対象医療機関(以下自院)がどの位置にいるかを検証した。その上で、自院の診療科別患者数や放射線科への依頼件数等を調査し、診療科等の特徴を把握した。
その後、各現場へのヒアリングを行い、現場での問題点や今後の要望等を確認した。他院との比較をすると診療科ごとに各医療機関の特徴がつかめ、自院の位置づけが明確になる。その結果、現在の在り方を確認でき、今後の方向性を検討するための大きな材料となった。
次に、診療科別にモダリティーごとの検査依頼件数を抽出し、診療科ごとのモダリティー使用割合を算出することで、モダリティーの特徴を確認した。その後、各現場のヒアリングを行った。このヒアリングにおいては、現場が今感じていることと今後の自院の方向性との相違を中心に確認したが、幸いにして調査機関においては、ほぼ病院意向と同じ方向を向いており、更なる進歩と発展が見込める内容が多く、次なるモダリティー別の詳細分析に期待を持たせるものであった。
漠然とした表現で申し訳ないが、端的に言うと現場の職員が積極的かつ意欲的に将来を見据えた発言が多かったという印象を受けたということである。主なキーワードとしては、医療の質の向上と人材育成が挙げられる。
さて、実際の分析についてであるが、使用したデータは、病院決算書、医療機器システム構成図、医療機器仕様書、購入金額、保守金額、人員配置、人件費、レセプト(マスターコードを含む)、患者数(診療科別、モダリティー別)等、多岐にわたるデータを収集した。それらを診療科と部署別、モダリティー別に分けて集計し、患者数や回収率、収益率等の分析を行った。結果として、当初の想定以上に放射線科の病院経営における貢献度は大きく、各部署とも大きな黒字を計上していることが分かった。
機器についてもほとんどの機器が、約3年たらずで、回収率100%を超えており、稼ぎ頭は、300%を超える結果となった。また、部署においても一般撮影、CT/MR部門においても単独黒字を計上し、その結果は、各部署での職員のモチベーションを上げる大きな材料となった。
しかしながら、残念な結果もあった。透視部門が大きな赤字を計上していたのである。あくまでも数値上の結果なのだが、これには明確な原因があった。患者別、行為別の材料がデータとしてとられておらず、材料配置=全消費でのデータしか存在しなかったためである。材料費の算出の方法によっては、このような結果になることをお話しし、使用割合(想定)で算出しなおしたところ、ここも黒字の部署となった。
これを機会に、材料費の消費算定の方法を改め、新しく入れ替える医療情報システムの中にこの考え方を組み込むことを推奨した(カテーテル等の高額材料については、ロス費用を確実に算出する運用も重要なポイントである)。
今回の分析を行った結果についての感想としては、部門別収益は、病院経営を行う上で非常に重要な分析のひとつであるということである。現場職員のモチベーションを向上させるファクターにもなるし、病院経営の在り方を考える上に置いても大切なデータとなる。
今回は、放射線機器という切り口から分析を行ったが、それ以外の機器においても同様の分析ができる。とある大学病院の方とお話をする機会があったが、その方も今後の医療機関において、重要なのは分析力であるという。同感である。以前にもお話したが、アナライザーを駆使できる人材の確保と育成が、今後の病院経営に大きな影響をもたらすことは、間違いのない事実であると感じている。
最初の話に戻るが、医療機関には、様々なデータが存在する。室料差額のデータもその一つである。これを分析してみると職員意識とデータの見える化の有効性につながる結果があった。この件については、次回、お話をしたい。
少しでもお役に立てれば幸いである。