医療経営戦略セミナーについて
データを読み・解く~目の前の宝物(データ)をどのように活用するか~(高知開催分III)
2017年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療経営戦略セミナー

今回も、2016年11月に開催された医療経営戦略セミナーについてお話をしたい。前回は、他の講演の中から「看護師不足対策なんてない。みんなの幸せを目指します。」についてお話ししたが、今回は、もう一人の講師の講演から、「データを読み・解く~目の前の宝物(データ)をどのように活用するか~」について、お話しする。

「データを読み・解く」

「データを読み・解く」については、最初に、ハル・ロナルド・ヴィリアンの「これからの10年で魅力的な職業は、統計分析(データサイエンティスト)になるであろう」という言葉から始まった。同感である。常々申し上げてきたが、アナリストを駆使できる人材は、今後のすべての経営において重要であり、その確保と育成は、企業の経営はもちろんのこと医療機関の健全経営においても大きなポイントとなる。

さて、実際のお話の内容であるが、主な項目を列挙する。

データサイエンティスト

統計とICTの能力、ビジネスの問題を発見し解決する能力、創造的な提案を行う能力の確保と育成が重要なポイントとなる。

病院が目指す姿(事例)

内科・外科の協力強化により、「消化器病センター」を実質稼働、救急・連携活動を積極的に実施、在宅復帰を強力に支援する病院にシフトした。併せて、患者入退院経路についても検証を行い、病床への誘導を含め効率的な経路を実現した。

PDCAサイクル

PLAN(目標値の設定と目的の確認)、DO(計画の実践、進捗の確認、手段・方法の遂行)、CHECK(効果の分析、現状の整理、推移比較環境、変化の差異、計画と実績の乖離分析)、ACTION(障害要因の特定、改善策の検討・実施)、これら全てをデータがつなぐ。

BIツール

Excel、Access、クリックビュー等を駆使して適切なBIを構築した。

外部要因データの活用

病床機能報告、人口動態⇒二次医療圏内の地域医療構想比較分析、病院指標の公表⇒医療機関データ⇒医療機関比較分析等、公表されている各種外部データを活用し、シェアや機能分析等の比較分析を行った。

手順を確認

情報・データ取得から分析帳票作成までの手順を確認

  1. 何を計画し、何を確認したいのか?誰に見せるのか?
  2. どのような情報・データが必要か?
  3. ExcelやAccessで集計してみる。
  4. 仮説を立て、証明へ

【事例】

1. 自院の状況をいち早く分析するためのデータ活用事例

  • 計画のベースとなる資料を作成する
  • 計画・実績状況を確認する
  • 今後の展開を確認する資料(モニタリングを行う)
  • 3か年の比較表を作成する(病院全体のみではなく、項目指定で表示を切り替えできるExcelマクロの設定)
  • 稼働額を技術料収入・薬剤科収入・材料収入で集計

2. 地域医療構想に基づく機能別境界点による分析

  • 地域医療構想調整会議の取りまとめ結果(2025年に必要とされる病床数の推計を行い、二次医療圏における必要病床数を提示する)
  • 地域医療構想調整会議の取りまとめ結果と病床機能報告との乖離(二次医療圏における必要病床数との乖離を提示する)
  • 自院の機能別境界点の分析(EFファイルデータによる機能別境界点分析を実施)
  • 月別境界点の分岐を検証して、回復期か地域包括ケアかを検証

3. 厚生労働省公開データの資料を活用する

  • 公開されるデータのうち必要なデータの選択
  • 二次医療圏医療機関情報の取得
  • 二次医療圏内医療機関別分析の実施
  • 二次医療圏内施設別占有比率一覧:病院シェアの見極め

4. 病院指標の公表

  • 各医療機関HPで公開されるデータのうち必要データの選択
  • 対象医療機関との比較分析を実施
  • 自院の立ち位置と今後の方向性が見える

まとめ

総合的な能力が求められるデータサイエンティストだが、統計やICTの能力を身につけるだけでも大変なのに、更にビジネスセンスまで必要となれば、そう簡単なことではない。統計とICTの専門家、各職場・職種とのコーディネートに長けた人物、柔軟な発想により多角的な視点から創造的な提案ができる人物とのコラボレーションにより、データサイエンティストの資質を補完しあう。

チームとして得意分野を補完することにより、データサイエンティストの役割をこなすことが重要であると考える。

実際のデータを提示しながらの内容であったため、医事関係者及び情報分析等をメインに行う情報企画及び経営関係者層には、とても有意義な講義内容であったと思う。Excelマクロでここまでの分析を行うことは並大抵ではないが、上手にBIを駆使できれば事業体にとって、大変有効な手段となるという印象を抱いた。

今回も、医療経営戦略セミナーでの講演内容についてお話をした。事例の報告の中には、多くのヒントや方法が示されている。各医療機関に対して、活きた情報として、ご活用いただきたい。

次回は、1月に開催された医療セミナー(NECネクサソリューションズ主催)のセミナー後記についてのお話をしたい。少しでもお役に立てれば幸いである。

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