医療セミナーについて(1月開催分)【後記II】
2017年4月
執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏
医療セミナー2017
今回は、2017年1月に開催された医療セミナー2017のセミナー後記IIとしてお話をしたい。
今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。
- 1月25日(水):大阪会場【新病院へのステップアップ 電子カルテ導入事例 - 電子カルテシステム導入達成はゴールではなく、業務改善へのキックオフ -】
医療法人社団御上会 野洲病院 常務理事 事務部長 小川 栄次 氏
- 1月26日(木):名古屋会場【戦略的投資としての電子カルテ・DACS導入と業務改善について】
医療法人社団さくら会 世田谷中央病院 法人管理部 部長 大森 均 氏
- 1月27日(金):東京会場【中規模病院における電子カルテシステム導入経験】~導入後、各部門で実施したアンケートから~
長生郡市広域市町村圏組合 公立長生病院 副院長 小笠原 明 氏
今回のセミナーは上記の通り、各会場にて導入事例を中心とした内容で、電子カルテ及びDACS(診療記録統合管理システム)の導入について、各医療機関の取り組み方法や様々な工夫、検証等に関しての講演が行われた。今回の講演の中から、いくつかのキーワードについて記述したい。
- A:電子カルテシステム導入達成は、ゴールではなく、業務改善へのキックオフ
- B:失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる
- C:電子カルテシステム導入後の効果と問題点
前回は、上記の中から、「A:電子カルテシステム導入達成は、ゴールではなく、業務改善へのキックオフ」について、記述した。今回は、「B:失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる」、「C:電子カルテシステム導入後の効果と問題点」について記述したい。
失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる
講演の中で、「B:失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる」というお言葉があったが、お話を伺う限り「チャレンジをして改革を実施し、継続させることで将来の姿を築いている。」という印象を持った。以下、いくつかのキーワードを列挙したい。
1. システム導入の目標
- システム導入により業務を平準化し組織強化を図り、病院単体収益をV字回復させる。
- 意識の問題:システムを入れても変わらない⇒システムを入れないと変わらない。
2. 二次システム導入の留意点(オーダーリングプロジェクトの失敗を踏まえ)
- システムを入れることが最終目的ではない、円滑な導入は当たり前である。
- 部門最適のくみ上げだけでは壊れる。全体最適を考えるプロジェクトのリーダーが重要な役割をはたす。
- パッケージを基本、運用を改善することがポイント(着る服に合わせて、体を変える)。
- 移行研修は、最小限にする(ベンダーとソフト会社による研修内容の見直しを実施)。一日の業務に合わせて、研修の手順を指導するように変更した。研修後に評価を実施した。
3. DACS導入について
- 当院にとっての利点は、以下の3項があった。
- 紙カルテもどきの排除(スペースの有効活用)
- 紙導線の排除(業務の効率化・医療安全向上)
- システム経費削減(細胞検査・バックアップ機能)
- 改善要望も伝えた⇒管理のための検索ができない。現場に対してサポートができない。患者での紐付けはできているが、横串機能が不足している等。
4. 今後の方向性について
- 戦略人事の重要性:必要な人材の確保(新しい血を入れて、優秀な人材の確保)⇒病院が変わる(NS:昔の慣習を引きずらない教育が必要)。
- 人事諸制度の構築:人材確保の一元化と教育の徹底、能力給の採用。
- 失敗をして、5年後10年後につながる経過の道を歩んでいる。
- 医療をめぐる環境はますます厳しくなる⇒介護施設と医療機関でともに収益は減る予想である。
- 2000年モデルからの脱却、病院で収益を確保する方式にシフトする。
システムの導入と院内の改善を行うことに、試行と改革を実施している経過のお話であったが、病院経営を健全化させるためには、投資と戦略が重要なファクターであることが伝わってくる講演であった。
電子カルテシステム導入後の効果と問題点
次に、「C:電子カルテシステム導入後の効果と問題点」について記述したい。今回は、中規模病院における電子カルテシステム導入経験として、「導入後、各部門に実施したアンケートから」と題してお話があったが、その経緯とポイントについて、列挙する。
1. 当院での電子カルテ導入の経緯
- 若い世代に就職してもらうため。
- 若い職員が入ってこなければ病院の未来は尻すぼみ⇒将来の病院経営に影響の可能性がある。
- 不安:職員の高齢化、個人情報漏えいの問題(情報セキュリティへの意識が希薄)。
- 情報セキュリティの強化:院内情報ネットワークの見える化、業務用PCとネットPCの切り分け、ファイアウォールの設置、ウイルス対策ソフト、管理規定の整備、セキュリティ勉強会。
- 導入の目的:医療情報システムの高度化(情報の共有化・スピード化)、医療安全の向上、患者利便性の向上、業務効率化の推進。
- 導入にあたっての方針:今までの流れを極端に変えない運用、病院の業務量・業務レベルに合ったシステム範囲、有料カスタマイズはしない。
2. 予算に収めるための努力
- 導入のための組織づくり:医療情報準室を設置し、決定していく。システムの仕様は必要最小限度にする。
- 導入にあたって気を付けたこと:準備室がWGの中心となって進める。協議事項は原則として、次回に持ち越さない。進行状況は随時職員に情報提供する。
3. 電子カルテシステム導入後の効果と問題点
- 外来
- 【効果】検査予約室を設置、救急外来にトリアージシステムを導入。
- 【問題点】コスト入力に診療科や担当医の選択が必要である。
- 病棟
- 【効果】入院、転棟、手術管下の情報の事前入手が可能となった。
- 【問題点】オーダーの追加・変更の連絡漏れ、入院時に作成する文書が抜ける。入院診療計画書の作成期限が遅延する。
- 手術室
- 【効果】電子カルテを患者情報収集・手術依頼の受付とスケジュール管理に使用した。
- 放射線科(簡易RIS)
- 【効果】紙伝票の移動がなくなる等、情報の取得が容易になった。
- 薬剤科
- 【効果】紙の処方箋の内容を薬剤システムに手入力する作業が不要となった。
- 【問題点】急な退院があった場合、退院会計までに入院中の処理が必要となり、業務配分の自由度が下がった。
- 検査科
- 【効果】情報の取得が迅速にできるようになった。オーダー用紙が不要となった。
- リハビリ科(部門システムなし)
- 【問題点】急に退院が決まった場合に退院時指導料の手入力が必要。退院後の予約の削除と処方箋の終了が必要。未実施の予約が残っていると医事課でコストが取り込まれない。
- 栄養科(NST支援システム)
- 【効果】他のメンバーとの情報共有や連携が取りやすい。
- 【問題点】食事オーダーの入力が複雑。
- 医事課
- 【問題点】他社システムからの変更⇒データ移行できたもの、できなかったものがあった。旧システムで個別カスタマイズをしていた未収金情報が移行できなかったため、旧端末を残して運用を行っている。
- 情報管理室
- 【問題点】電子カルテと部門システムとのデータ連携の確認を徹底する必要がある。バックアップのシステム構成は病院側もしっかりと把握しておくことが重要。医療機器との連携についても費用が発生するため、しっかりとした導入計画が必要である。
4. 稼働後の波及効果
- 操作ログを基に、事後検証ができるようになった。
- 担当医の状態(外来・検査・手術で手が離せない等)が確認可能となった。
- 利用できる連絡方法が増えた(付箋やローカルメール等の利用)。
- オーダー漏れ、文書漏れ等の確認に、紙のチェックリストが有用となった。
- 残業時間の増減⇒全体的に残業時間が減、特に看護、事務、検査、リハが顕著であった。
5. 今後のシステム拡張計画
- 前に戻りたいという意見はなし。
- 真っ暗な廊下を懐中電灯、天井電灯がついていて、廊下の先が見える。
(システム導入という一つのきっかけから、その先の様々な問題点が見えてくることで、実施・改善の道が開けてくる)
まとめ
システムの導入経緯から導入後の効果まで、一連の流れの中で、臨場感のあるお話で、システム導入を検討されている病院及び既に導入されている病院にとっても、とても役に立つお話であったと感じた。特に、導入後の検証は重要であり、その結果が次の業務改善や効率化につながる重要な資料となる。各部署の問題点を改善し、システム監査を実施・継続することで、システム化の効果の増大が期待できることをお伝えしておきたい。
今回は、医療セミナー2017(1月開催)のセミナー後記IIとしてお話をした。少しでもお役に立てれば幸いである。