【セミナー後記I】超高齢化社会への対応と無断離院対策
医療セミナーについて(2018年6月開催分)(第1回)
2018年9月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療セミナー2018

今回は、2018年6月に開催された医療セミナー2018のセミナー後記Ⅰとしてお話をしたい。

今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。

  • 6月20日(水):関西会場
    【人口減少社会の到来に向けた医療分野における情報化モデルの可能性を考える】
     NPO法人データ・ヘルスケア・イノベーションJAPAN 代表理事
     NPO法人地域情報化推進機構 副理事長 野村 靖仁 氏

    【顔認証システムを用いた患者様無断離院対策について】
     医療法人社団 永生会 永生病院 矢澤 統 氏
  •   
  • 6月21日(木):中部会場
    【DACS導入と電子カルテ更新、医療データのAI活用について】
     社会医療法人 祐生会 みどりヶ丘病院
     事務部医事課 兼 医療情報室・メディカルクラーク課 課長 田中 龍也 氏
  •   
  • 6月22日(金):東京会場
    【中小規模病院におけるシステム担当の役割~これまでの経験と今後の課題~】
     長野県厚生農業協同組合連合会 富士見高原医療福祉センター
     富士見高原病院 経営企画課 長坂 卓也 氏

筆者自身は、各会場にて「電子カルテの導入における医学管理料の効率的算定について」の講演を行った。

主な内容としては、システム化による問題点の変化、算定漏れ・査定・返戻(再請求)となっている原因がどこにあるか、原因に対して有効な対策は何か、医学管理料に関する診療録の記載について、診療記録の質的監査について増減点の事由について等、医学管理料の効率的算定を考える視点についての内容であった。講演後の反響もあり、各医療機関において重要な問題としての認識を持っていることが窺がえた。これらの詳細については、改めて記述したい。

超高齢化社会、我々はどう変わるべきか

今回のセミナーは上記の通り、各会場にて様々な内容についての講演が行われたわけであるが、まずは、

【人口減少社会の到来に向けた医療分野における情報化モデルの可能性を考える】

について記述したい。

キーワードとしては、

いま我々は「健康」なのか・・・
我々はどこに向かっているのか?
我々は時代のターニングポイントに立っているのではないか・・・
我々は変わるべきではないのか・・・
時代を変えていく要素は・・・
我々が向かうその先にあるものは・・・
新たな仕組みが必要ではないか・・・

である。

かつて経験したことのない超高齢化社会の出現とともに、「人生100年時代」とも言われており、定年後の人生が長期化している。そんな中、高齢者の増加による高齢者医療への拠出金の増加により、健康保険組合数も10年間で、約100組合が解散をしている状況である。今、社会保障のターニングポイントとして、急激な高齢化により、社会の仕組みに対応できていない中、過去の仕組みに引きずられた固定観念が、改革・変革の障害になっていると言える。では、我々は、どう変わるべきなのであろうか。

時代を変えていく要素は、どこにあるのであろうか。大きく分けて、「モノ(ハード)⇒サービス(ソフト)」と「モノ⇒コト」の2つを挙げる。例えば近年は、所有からリースへの変化が顕著であり、モノのサービス化が社会に受け入れられるようになってきた。一昔前までは、所有が基本であったものが、シェアやリースというサービスに変革してきているのである。また、クラウドコンピューティングの進展と活用により、システムの集約と共同利用の促進が図られてきている。今後我々が向かう先には、持続的成長へ向けて、次の対応がある。

  1. 技術革新・イノベーションの加速
  2. AI・ロボットの活用
  3. 健康・長寿産業の育成
  4. シャエリングエコノミーの推進

また医療に関する事項としては、AIによる診療支援、ビックデータの共有による地域医療連携の推進、一般利用を含めて地域BWA(広帯域移動無線アクセス)による地域情報共有の活性化などが考えられる。

今までの20年を振り返ってみた。この20年でどれだけの進化があったのか、コンピューターに関してたとえるとオフコンと呼ばれるものから、パーソナルになり、今は、モバイルへと変化してきた。当時には考えられにくかったほどの進化である。また、今後20年でどれだけの進化が遂げられるのか。VRが当たり前の時代となり、全てが自動化される時代となるであろう。我々は、今、まさに岐路に立ち、新たな進化へと向かっている状況であると考える。様々な視点から情報化モデルの可能性についてのお話を伺ったが、改めて今後の在り方について考えを巡らせられる講演内容であった。

無断離院ゼロに導いた顔認証システム

次に

【顔認証を用いた患者様無断離院対策について】

記述したい。

介護・医療機関にとっては、利用者及び患者の離施設問題は、大きな問題のひとつでもある。そんな中、医療法人社団永生会様においては、以下のような様々な課題があった。

  1. 年間数件の無断離院が発生していた
  2. 捜索に警察・タクシー会社などに協力を依頼することもあった
  3. 離院対策に関する職員の精神的負担を軽減したい
  4. 病院には患者様の安全を確保する義務がある

そんな中、一番適した防止策の検討を行った。GPS、センサーゲート、顔認証の中から、患者様の体への負担や職員の負担、検知精度を考慮した結果、顔認証を選択した。

顔認証システムに求めたものとして、「精度の高い顔認証技術」「検知から発報まで1秒以内」「夜間でも認識できること(消灯時)」「現実的な価格設定であること」であった。システム導入の工程としては、3つのフェーズに分けて、現状分析から評価、仕様設計からシステム導入、情報蓄積から是正確認の工程を実施した。また、運用においては、まず登録時において、(1)患者様家族へ説明と同意を得る、(2)登録情報の収集(顔写真・特徴)、(3)登録用紙を記入後、担当者へ登録依頼、(4)担当者から運用開始の通知を行う、であった。退院時においては、(1)退院情報を担当者が受ける、(2)退院完了後、担当者が全情報を削除、(3)情報が削除されていることを管理者が再確認という手順で実施した。これらにより、事前に離院を防止することができ、昨年の離院発生件数は0件となった。

無断離院対策のシステムを運用するにあたっての注意点としては、職員が随時入れ替わるため、定期的な勉強会を開催し、システムを周知させることが重要である。その他にも、「登録者が外出する際には、事前に連絡する」「医療安全マニュアルに顔認証の項目を追加」「発報時の対応マニュアルを作成」「定期的な勉強会の開催」がある。また、個人情報保護の観点から、収集した情報は、離院防止のためのシステムでしか使用しない。患者様にとって、束縛から見守りへ顔認証を利用した安心・安全な病院づくりのモデルをご紹介いただいた。顔認証という一つのツールを使い、離院ゼロへと導いたことに、大きな有効性を感じた。

この離院問題は、各医療機関において、様々な対策を講じていることであろう。自院にとって有効な対策を早急に講じたいものである。

今回は、病院経営セミナー2018のセミナー後記Ⅰとして

【人口減少社会の到来に向けた医療分野における情報化モデルの可能性を考える】

【顔認証を用いた患者様無断離院対策について】

について、記述した。

次回は、後記Ⅱとして、

【DACS導入と電子カルテ更新、医療データのAI活用について】

【中小規模病院におけるシステム担当の役割】

について、記述したい。

少しでもお役にたてれば幸いである。

上へ戻る