今回も前回に引き続き、2018年6月に開催された医療セミナー2018のセミナー後記IIとしてお話をしたい。
セミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。
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今号では、以下の2つの講演について記述したい。
【DACS導入と電子カルテ更新、医療データのAI活用について】
【中小規模病院におけるシステム担当の役割】
みどりヶ丘病院様においては、2011年に電子カルテシステムを、2015年に診療記録統合管理ソリューション(DACS)を導入した。
システム導入前は、ソフトウェア・ハードウェアの老朽化や非効率・安全面などの問題点を抱えており、これらを改善すべく約9か月の導入期間を経て電子カルテを導入した。しかし、導入後の達成度は全てが満足のいく状況ではなかったため、2016年にシステム更新に取り組み、その結果、可搬性(携帯性)の向上と紙媒体からの脱却、診療の標準化へと導かせることができたのである。
システム導入計画の教訓としては、「現状を把握し、(ハード、ソフト、機能、セキュリティ、コスト面で)どこまで先を見据えるかがカギ」ということであった。また、紙媒体からの脱却に関しても、「ここになければどこにもない」というコンセプトのもと、「診療記録統合管理ソリューション(DACS)」の導入に踏み切ったのである。
システムイメージは、電子署名、タイムスタンプの付与、真正性を担保できるシステムであり、スキャンされた紙文書を永久保存することなく原本性を担保でき、カルテ開示作業が容易になるイメージである。
導入前の問題点としては、
等があったが、導入後は、
などの声があった。
導入にあたってはフェーズを2つに分け、フェーズ1では“文書種一覧の再構築”を中心に行い、フェーズ2では“作成文書の標準化・効率化”を中心に構築した。その結果、当初851種類あった文書種数が641種類へと削減でき、文書管理業務の効率化に導くことができた。
どこの医療機関でもそうだが、電子カルテや文書管理システム導入などのイベントの際に、文書管理を強化し、整理することで、効率化と省スペース化が図れることは言うまでもない。
さらに、もう一つのテーマとして、医療データのAI活用についての話があった。
AI活用としては、現在進行中のものとして、以下の2つがある。
これからも更なるAI活用によって、様々な実証実験結果を報告されることであろう。今後の展開に大きな期待を抱かせる活動内容であった。
講演のまとめとして、
そして何より大切なものとして、
を述べておられた。まさしくその通りであり、情報やデータを正しく活用し、生かすためには、体制の整備が必要であり、それを基に統計や分析を行うことで、健全な病院経営に寄与できるものと考える。
講演の最後に、本セミナー3日前の大阪府北部を震源とする地震についてのスライドを拝見したが、震災の被害はかなり甚大で、病院運営にも大きな支障を来たしていた。ただ幸いなことに、システム(サーバー室)と電気関連には影響がなかったようである。
復旧へ向けての多大な作業を行わなければならない状況でも、救急病院としての使命を全うしなければいけないという姿勢が強く感じられた。
電子カルテを導入した医療機関におけるシステム担当者の役割は、かなり大きなものとなる。筆者自身も数々の電子カルテ導入支援に携わってきたが、その際、システム担当者がいるかいないかによって職員の負担割合が大きく変わった。今後、益々システム化が進む医療機関において、システム担当者は重要なポジションの一つである。
富士見高原病院様においても、経営企画課内にシステム担当者がいる。その方々の意識が、電子カルテの導入を契機に変わったとのことである。
電子カルテは、「止まってはいけないシステムであり、守らなければならない情報資産」となった。そのためにも、クライアント管理やサーバ管理、ネットワーク管理、そしてシステムの保守性を重要視した。さらに、守らなければならない資産としての「見えない物(システム)を管理」する難しさもあったことから、バックアップの確実性向上とセキュリティ対策強化に務めたのである。
システム担当者の主な業務としては、以下が挙げられた。
システム保守については、サーバを仮想化し、物理サーバを半減させた。併せて、クライアントビューの導入により、遠方拠点PCの一括管理も実現できた。
内部開発システムについては、院内で「小児科予防接種管理システム」を開発・提供している。院内の汎用データを活用し、ツールなどを使って業務の効率性を高めることは、非常に有効な手段の一つであると考える。他の医療機関においても、医療情報室で新規システムを開発したりしているが、富士見高原病院様のシステム担当者は“現場からはとても重宝がられている”とのことである。
ネットワーク管理も重要な業務の一つである。院内だけではなく、院外に設置されているネットワーク機器類の死活監視も適切に遠隔管理することで、安定した医療サービスの提供にもつながるのである。
各委員会への参加もシステム管理を行う上で重要である。院内の情報共有という観点からも、システム担当者が様々な状況を把握することにより、システムを活用した業務の効率化や改善に役立てることができる。さらに、医療安全対策という観点からも、インシデント/アクシデントなど医療情報システムに起因した事象の詳細分析を行い、再発防止に努めることはとても有効である。
最後に、今後の課題として、
を挙げていた。
連携に関しては、今後、介護記録の電子化推進と電子カルテとの連携、地域の基幹病院や開業医との電子的な連携の重要性が、益々高まってくる。
情報セキュリティについては、新たな脅威に対する情報収集と防御策の構築、障害対応マニュアル(サイバー攻撃によるシステムダウン時の対応手順等)作成、並びに、これらに対応できるシステム担当者のスキルアップが重要となる。
継承については、守らなければいけない情報資産を確実に残していくためにも、ドキュメント類の整理とシステム簡素化の重要性を述べていた。これらの作業はシステム担当者1名でできるボリュームではなく、さらに、後継者育成を図る上でも、担当チームの育成が重要な課題となり、そのためにも、現資産の整理とシステム構成のシンプル化は重要なポイントとなる。
まとめとしては、医療機関におけるシステム担当者の役割として、以下の4つをキーワードとして挙げていた。
今後も情報システムは急速に進化し、その中で、システム担当者の役割は益々重要なものとなる。極端な言い方をすれば、情報システムの管理が医療機関の根幹を支えていく重要な業務の一つとなっていく。人材育成を含めて、システムの効率化に期待したい。 様々なチャレンジと努力が垣間見えた講演内容であった。
今回は、病院経営セミナー2018のセミナー後記IIとして、
【DACS導入と電子カルテ更新、医療データのAI活用について】
【中小規模病院におけるシステム担当の役割】
について記述した。
次回は、「電子カルテの導入における医学管理料の効率的算定について」について記述したい。少しでもお役にたてれば幸いである。
(注)病院向けソリューションについては、こちらのページで詳しく紹介しています。 病院向けソリューション |