診療録の記載と診療記録の質的監査
電子カルテの導入における医学管理料の効率的算定について(第2回)
2018年12月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

診療録の記載と診療記録の質的監査

今回は、電子カルテの導入における医学管理料の効率的算定について、医学管理料に関する診療録の記載と診療記録の質的監査について記述したい。

医学管理料に関する診療録の記載について

医学管理料は、治療計画に基づく疾患の経過管理や指導を行うものである。算定要件には診療録に記載するべき項目が示されており、記載漏れや誤った記載を行っている場合も多い。また、場合によっては、返還対象や機能評価の対象となるケースも想定されるため、運用改善や支援システムの導入などを行い、常に対処していくことが重要である。

立入検査等で指摘を受けやすい医学管理の記載に係る事項について説明すると、医学管理料の多くは、算定要件に“行った指導・管理に関する要点の記載”が求められている。これは、レセプト上ではチェックの行いようがない部分であり、いつ立入検査等で診療録をチェックされてもいいように、日ごろから、医事課あるいは診療録管理室が主体となり、量的及び質的点検、点検結果に基づく現場へのフィードバックを行えているかが重要となってくる。

診療録の記載と診療記録の質的監査

また、機能評価を定期的に受審している病院においては、診療録に関する評価がなされる部分があり(第1領域 適切な医療 1.1.1診療録の開示、第2領域 診療・ケアにおける質と安全の確保 2.1.2診療録、看護記録の質的監査、第3領域 3.1.6:診療録管理機能について)いずれにおいても、診療録の適切な記載は保険医療機関及び保険医として義務付けられているため、当然のように行っていて然るべきものである。

※ 参考資料:九州厚生局ホームページ、個別指導等における主な指摘事項(医科)医学管理料に係るページから抜粋

  1. 特定疾患療養管理料について、診療録に管理内容の要点の記載がない例が認められた。
  2. 特定薬剤治療管理料について、診療録に薬剤の血中濃度及び治療計画の要点の記載がない例が認められた。
  3. 悪性腫瘍特異物質治療管理料について、診療録に腫瘍マーカー検査の結果及び治療計画の要点の記載がない例が認められた。
  4. てんかん指導料について、診療録に診療計画及び診療内容の要点の記載がない例が認められた。
  5. 難病外来指導管理料について、診療録に診療計画及び診療内容の要点の記載がない例が認められた。
  6. 皮膚科特定疾患指導管理料について、診療録に診療計画及び指導内容の要点の記載がない例が認められた。
  7. 在宅療養指導料について、保健師又は看護師が患者ごとの療養指導記録を作成していない例が認められた。
  8. 慢性維持透析患者外来医学管理料について、診療録に計画的な治療管理の要点の記載がない例が認められた。
  9. 耳鼻咽喉科特定疾患指導管理料について、診療録に診療計画及び指導内容の要点の記載がない例が認められた。
  10. がん性疼痛緩和指導管理料について、診療録に麻薬の処方前の疼痛の程度(疼痛の強さ、部位、性状、頻度等)、麻薬の処方後の効果判定、副作用の有無、治療計画及び指導内容の要点の記載がない例が認められた。
  11. 夜間休日救急搬送医学管理料について、初診ではない患者に対して算定している例が認められた。
  12. 介護支援連携指導料について、診療録に行った指導内容等の要点の記載がない例が認められた。
  13. 退院時リハビリテーション指導料について、診療録に指示内容の要点の記載がない例が認められた。
  14. 診療情報提供料(I)について、交付した文書の写しを診療録に添付していない例が認められた。
  15. 薬剤情報提供料について、診療録に薬剤情報を提供した旨の記載がない例が認められた。
  16. 退院時薬剤情報管理指導料について、診療録に入院時に確認した患者が持参した医薬品の名称及び確認した結果の記載がない例が認められた。

診療録の質的監査について

診療記録とは、診療経過の記録であると同時に診療報酬請求の根拠である。診療事実に基づいて必要事項を適切に記載しなければ、診療記録に記載されていない医療行為は実施されなかったものとされ、診療報酬を請求することはできない。そこで、診療記録の内容を監査・評価し、現場にフィードバックする必要がある。

電子カルテの導入により、量的及び質的監査の方法も形を変えてきたと言える。

以前は、退院後に病棟から診療録管理室に入院フォルダが搬送され、製本するタイミングでサイン・印鑑の漏れ・誤字脱字など、量的点検を行っていた。しかし、電子カルテになりそれがなくなり、代わりに内容に関しての入力漏れや精度といった点検内容に移行してきている。紙カルテの時のように、すべての退院患者のカルテの中身を隅から隅まで確認することは難しいため、システムから退院患者一覧や点検の対象とするオーダの発行、または実施一覧等から患者を抽出し点検を行ったり、質的点検においては、ピアレビュー(医師同士による診療録の相互評価)を実施し、診療録管理委員会等でフィードバックを行い、診療録の質の向上に努めることが必要である。

中でも、点検対象としやすい項目が医学管理料であり、診療録の量的及び質的点検とは密接な関係にあると言える。

量的点検

主に、診療情報管理室や医事課などの事務が主体となり点検を行う。電子カルテは紙カルテの時代と異なり、入院カルテについて、退院後、病棟から入院フォルダが下りてきて製本作業と併せて行っていた量的点検がなくなるため、すべての記事をチェックすることが難しい。また、紙カルテの時代に多かった誤字脱字やサイン漏れなどの点検は、ほとんどなくなるため、その分、計画書の有無や記載内容の有無のチェックに重点が置けるようになった。

電子カルテでは、今回の話題である医学管理料に係る記載内容の有無のチェックや、計画書、同意書等の有無のチェックなど、病院ごとに漏れが多い項目について、一覧から対象患者を抽出するなどして、効率よくチェックを行える運用の工夫が必要である。

質的点検

量的点検とは異なり、内容が正しいかのチェックとなるため、事務のみでのチェックは難しい面がある。チェックする項目やポイントなどのチェック方法について、記載する医師やコメディカルを交えた検討が必要である。

また、医師の記事を医師がチェックするピアレビューも有効である。

質的監査項目(例)
  • 記載内容について、患者・家族が読んでも理解できるようにわかりやすく記載されている。
  • 主病名・疾病名が適切に記載されている。
  • 医師は、患者の問題を把握し、記録している。
  • 診療プロセス(経過)や評価が第三者に理解できるように記載されている。
  • 治療計画が記載されている。
  • 指導報告書(服薬指導・栄養指導等)、実施報告書が適切に添付されている。
  • 検査・画像所見の内容及び結果が正しく記載されている。
  • 多職種にわかるよう情報の共有化のために、外国語・略語の乱用がない。
  • 医療従事者間の記録内容に食い違いやかい離がない。
  • 医学管理料の指導内容の記載など、算定要件となる正しい記載がある。

安全かつ良質な医療を提供するためにも、診療記録の質的監査を行い、記載内容の質的向上に努めることが必要である。

次回も電子カルテの導入における医学管理料の効率的算定(増減点の事由等)について記述したい。

少しでも皆様のお役にたてれば幸いである。

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