電子カルテ導入後のシステム担当の役割
医療セミナーについて(2019年1月開催分)【後記】(第1回)
2019年4月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療セミナー2019

今回は、2019年1月に開催された医療セミナー2019のセミナー後記Ⅰとしてお話をしたい。
今回のセミナーは、各会場において、以下の内容にて行われた。

入退院支援加算に着目した病院の構造改革

1月23日(水):関西会場及び1月25日(金):東京会場
株式会社Benett One(ベネットワン) 代表取締役 米山 正行 氏

中小規模病院におけるシステム担当の役割~これまでの経験と今後の課題~

1月24日(木):中部会場
長野県厚生農業協同組合連合会 富士見高原医療福祉センター
富士見高原病院 経営企画課 長坂 卓也 氏

筆者自身は、各会場にて「外来診療データを活用した医学管理料の効率的算定について~医療の質の向上と病院運営(経営)への貢献を考える~」について講演を行った。

主な内容としては、

  • 医療情報のシステム化に伴う医学管理料の課題
  • 医学管理料の効率的算定に向けた具体的な取り組み(現状分析から対策案の提案)について
  • 電子カルテ導入後の理想的な運用とシステムについての提案
  • 医学管理料算定支援機能の導入等、医学管理料の効率的算定を考える視点について

の内容であった。

また、NECネクサソリューションズが展示した指導管理算定フォローシステムについても、多くの方々がご来場いただき熱心に説明を聞かれていた。講演後の反響もあり、各医療機関において重要な問題としての認識を持っていることがうかがえた。

これらの詳細については、改めて記述したい。

今回のセミナーは各会場にて、様々なテーマで講演が行われたが、今月は、【中小規模病院におけるシステム担当の役割~これまでの経験と今後の課題~】について、記述したい。

中小規模病院におけるシステム担当の役割

電子カルテを導入した医療機関においては、システム担当者の役割は、かなり大きなものとなる。筆者自身も数々の電子カルテ導入支援に携わってきたが、その際、システム担当者がいるかいないかによって、職員の負担割合が大きく変わった。

今後益々、システム化が進む医療機関においては、システム担当者は重要なポジションの一つである。

富士見高原病院様においても、経営企画課の半数がシステム担当者であるという。その方々の意識が、電子カルテ導入を契機に変わった。

電子カルテは、「止まってはいけないシステムであり、守らなければならない情報資産」となった。そのために、クライアントの管理、サーバの管理、ネットワークの管理、システムの保守性を重要視した。守らなければならない資産として、「見えない物(資産)を管理」する難しさもあった。バックアップの確実性を向上させ、セキュリティ対策も強化した。

システム担当者の主な業務としては、以下であった。

  1. システム保守(全システム)・ヘルプデスク
  2. 内部開発システム提供
  3. ネットワーク管理
  4. 新規事業へのシステムサポート(構築)、情報セキュリティ対策
  5. システムに係る契約関連業務(売買・保守)
  6. 各委員会への参加

まず、システム保守については、サーバを仮想化し、物理サーバを半減させた。併せて、クライアントビューの導入により、遠方拠点のPCも一括管理することができた。

次に、内部開発システムについては、「小児科予防接種管理システム」の開発を行った(医師・看護師等のダブルチェック体制で稼働後のインシデントは、ゼロになったとのことである)。院内の汎用データを活用し、ツールなどを使って、業務の効率性を高めることは、非常に有効な手段の一つであると考える。他の医療機関においても、医療情報室で、新規システムの開発を行っている機関もあるが、現場からは、とても重宝がられている。

また、ネットワークの管理も重要な業務のひとつであろう。特に、院内だけでなく、遠隔の管理においては、ネットワーク機器類の死活監視は、重要な業務となる。

更に、各委員会への参加もシステム管理を行う上で必要な業務である。システム委員会だけでなく、情報共有という観点から、院内の状況を把握することは、業務の効率化や改善に役立てるものである。

医療安全対策という観点からは、インシデント/アクシデントにおいて、医療情報システムに起因した事象の詳細分析を行い、再発防止に努めることは、とても有効である。

今後の課題として、「医療・介護・地域医療機関との連携」「情報セキュリティ対策(システム担当のスキルアップも必要)」「継承(自分に課された使命)」を挙げていた。

連携においては、「介護記録の電子化推進と電子カルテとの連携」「地域基幹病院との電子的な連携」「地域の開業医との電子的な連携」を推進する。

情報セキュリティについては、「新たな脅威に対する情報収集と防御」「障害対応マニュアル(サイバー攻撃によるシステムダウン時の対応手順作成等)」併せて、「システム担当のスキルアップ」が必要となる。

継承については、「ドキュメント類の整理とシステムの簡素化」を挙げていた。やはりシステム担当としては、1名でできるボリュームではないため、担当チームとしての育成が重要な課題となる。そのためにも、現資産の整理とシステム構成のシンプル化は、守らなければいけない情報資産としての役割として、重要なポイントとなる。

まとめとしては、医療機関におけるシステム担当者の役割として、「資産管理(情報資産、情報機器類)」「継続(医療機能、情報、人)」「発展(新しい技術・知識の習得と取り組み。業務への応用)」「順応(刻々と変わる時代の変化とニーズへの対応。一つの事にとらわれない、多角的な視点を持つ)」をキーワードとして挙げていた。

今後も情報システムの進化は、益々進んでいく。その中で、システム担当者の役割は、重要なものとなり、極端な言い方をすれば、情報システムの管理が、医療機関の根幹を支えていく重要な業務のひとつとなる。人材の育成を含めて、システムの効率化に期待したい。様々なチャレンジと努力が垣間見えた講演内容であった。

キーワード(ポイント)

参考までに、講演内容のキーワード(ポイント)を列挙したい。

1. 当センターの紹介

  • 事業部制となっている(富士見、原、諏訪、伊那、両小野)診療所、老健、特養、GH、訪問看護ステーション) ⇒ 医療(161床)と介護(501床)の連携
  • 本院(標榜科20科:病床数161床、外来平均患者数541.7人)

2. 電子カルテ導入を契機に変わったシステム担当の意識

  • 「電子カルテ」 ⇒ 止まっていけないシステム、守らなければならない情報資産
  • 何をどうすればよいのか ⇒ (1)クライアントの管理、(2)サーバの管理、(3)ネットワークの管理、(4)システムの保守性
  • 守らなければならない資産 ⇒ 見えない「物(資産)」を管理する難しさ

3. システム担当の業務について(取り組み事例も交えて)

  • システム保守(全システム・ヘルプデスク)他
  • 内部開発システム提供 ⇒ 小児科予防接種管理システム(汎用データ活用) ⇒ 過去の接種データから次回接種可能日を自動算出、接種前の最終確認用として活用
  • ネットワークの管理
  • アラート ⇒ クライアント管理
  • 新規事業へのシステムサポート(構築)
  • 情報セキュリィティ対策
  • 多層防御⇒ 複数の仕組みを利用して防御・検知する機会を上げる
  • セキュリティレポート ⇒ セキュリティ意識の向上(啓発)と監視情報の公開による抑止効果を目的に発行
  • 院内システム規程の整備 ⇒院内ソーシャルメディアガイドラインを策定
  • 各種委員会への参加

4. 今後の課題

  • 医療、介護、地域医療機関との連携
  • 情報セキュリティ対策 ⇒ システム担当のスキルアップも必要
  • 継承 ⇒ 自分に課させられた使命

5. まとめ

  • 医療機関におけるシステム担当者の役割とは、
  • 資産の管理、継続(維持)、発展、順応

今回は、病院経営セミナー2019のセミナー後記Ⅰとして、【中小規模病院におけるシステム担当の役割~これまでの経験と今後の課題~】について記述した。

次回は、【入退院支援加算に着目した病院構造改革】について記述したい。少しでもお役にたてれば幸いである。

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