入退院支援加算に着目した病院構造改革(3)
~患者様満足、業務効率化、経営効果につなげる入退院支援システム~

医療セミナーについて(2019年1月開催分)【後記】(第4回)
2019年7月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

はじめに

前回までは、株式会社ベネットワンの代表取締役 米山 正行 氏による【入退院支援加算に着目した病院構造改革】の講演の前半部分「医療の現状」「入退院支援概要」「PFM理論の活用」についてお話をしてきたが、今回からは後半部分「入退院支援システム構築に向けた目的(効果)設定」について記述したい。

【目次】

  1. 医療の現状
  2. 入退院支援概要
  3. PFM理論の活用
  4. 入退院支援システム構築に向けた目的(効果)設定
  5. 院内体制構築について
  6. まとめ

4. 入退院支援システム構築に向けた目的(効果)設定

4-1.患者満足度(モノ(サービス)・時間)

入院に対する不安解消

入院前から予定される入院期間の説明や、退院後の生活に対する見込みとサポート状況の説明を行う。治療過程の明確な説明をすることで「追い出される!」といった患者の訴えは減ったという声がある。また、患者が積極的に治療に参加するようになったという声も聴き届く。

日曜日入院

高齢化が進むのと同時に、今後の高齢者の生活スタイルで出ていた独居や夫婦のみでの高齢者世帯が増える。これは、入院に際して患者家族の付添を考えた場合に、付添家族が平日に来られるなら良いが、そうではなく、土日を望む患者家族にとっては土日入院というのはサービスに当たると考える。

入院した際に今後のことをゆっくり話ができるチャンスにもなる。今後は、これらのことを検討することも必要ではないか。

治療の標準化

治療が標準化されることによって、入院前に的確な説明ができる。また、治療の標準化は、医療の質向上にも繋がる作用もある。それは、患者満足度にも繋がるということなる。

4-2.業務の効率化(1)

「厚生労働省は中核病院に対して、医師の業務移管(タスクシフティング)を義務付ける検討に入った」との情報が2019年1月9日の日本経済新聞に掲載されていた。

厚労省が今回検討に入った移管内容は、下記に記している内容である。検討は地域中核病院に対してではあるが、今後は、こういった取り組みは各医療機関で医師確保といった観点でも必要になるであろう。

【医師の業務移管(タスクシフティング)】

  • 初診時の予診
  • 検査手順の説明や入院の説明
  • 薬の説明や服薬指導
  • 静脈採血、静脈注射、静脈ラインの確保
  • 尿道カテーテルの留置
  • 診断書等の代行入力

4-3.業務の効率化(2) - 医師の場合 -

下記は、入退院支援で考えられる医師の業務負担軽減の一例である。

軽減業務 効果
  • 指示業務(検査代行入力、パスオーダー代行入力)
  • 説明、検査同意書の取得
  • 調整業務(検査来院日、他科受診日、入院・手術日等の変更連絡)
  • 患者情報の詳細把握(病歴・過去手術歴、かかりつけ医、内服薬、検査結果の確認)
  • 医師の業務軽減(医師の確保)
  • 外来診療の短縮(患者サービス)
  • ミスの減少(医療安全)
  • 治療件数の増加(収益アップ)

これだけ業務負担軽減へ繋げることが可能と言われているが、各施設の状況で内容は変わると考えられる。

このように、「入退院支援をすることによって医師にもメリットがある」と思わせることが医師の積極的参加へ繋がると言われている。

4-4.業務の効率化(3) - 看護師の場合 -

医師確保も大事だが、今後の労働者不足を考えた場合、看護師確保も大切である。

それぞれ業務分担をすることで、看護師の業務軽減へ繋げる効果も入退院支援でできる。

軽減業務 効果
  • 入院・手術の説明
  • 検査来院の対応
  • 休止薬の確認
  • 教育(禁煙・呼吸訓練)
  • 他科紹介の手続き
  • 病歴聴取・基本情報入力
  • 患者情報の把握
  • 検査結果の把握
  • 看護師の業務軽減(看護師の確保)
  • 看護業務の質の向上(患者サービス)
  • ミスの減少(医療安全)
  • 病床稼働率向上(収益アップ)

4-5.病院経営(医業収益増収の効果)

経営効果としては次の事が考えられる。と同時に、以下の項目についても念頭において入退院支援システムを構築すると効果的ではないかと考える。

  • 外来診療効率アップ
  • 在院日数減
  • 手術件数増
  • 関連算定の効率的な取得
  • 人件費減(時間外勤務減)
  • 人的リソースの有効活用

4-6.その他、加算取得の窓口(1)

入退院支援の目的・効果としては、その他加算への窓口であると考える。

入院時支援加算の評価は200点である(退院時1回)。これだけでは、人員配置をして体制を整えても病院的には赤字になると思われる。

入院前に支援を行うに当たっては、次の1)~8)の情報把握が必要となる。

  • 1)身体的・社会的・精神的背景を含めた患者情報の把握
  • 2)入院前に利用していた介護サービス・福祉サービスの把握
  • 3)褥瘡(じょくそう)に関する危険因子の評価
  • 4)栄養状態の評価
  • 5)服薬中の薬剤の確認
  • 6)退院困難な要因の有無の評価
  • 7)入院中に行われる治療・検査の説明
  • 8)入院生活の説明

出典:平成30年度診療報酬改定の概要より

1)~8)を確実に実施できるとすれば、3)の褥瘡(じょくそう)に関する危険因子の評価は「褥瘡ハイリスク患者ケア加算」につなげることができる。

また、4)栄養状態の評価であれば、栄養管理実施加算に繋がる。

入退院支援を確実におこなうことは、様々なスクリーニング(拾い上げ)の窓口としての効果もある。

4-7.その他加算取得の窓口(2)

区分 科目 点数
手術症例
  • 褥瘡ハイリスク患者ケア加算
  • 肺血栓塞栓予防管理料
  • 周術期口腔機能管理料関連
  • 500点
  • 100点
  • 190~300点
がん症例
  • がん患者指導管理料、栄養管理指導料
260点
既往歴
  • 特別食加算76円
  • 認知症ケア加算
  • 褥瘡ハイリスク患者ケア加算
  • 緩和ケア診療加算
  • 栄養管理指導料
  •      
  • 10~150点/日
  • 500点
  • 400点
  • 260点
ADL
  • 摂食機能療法(リハ)
  • リハビリテーション総合計画評価料1
  • リハビリテーション総合計画評価料2
  • 退院時リハビリテーション指導料
  • 130~185点/日
  • 300点
  • 240点
  • 300点
CGA
(総合機能評価)
  • 総合評価加算
  • 退院支援加算1
  • 退院前訪問指導料
  • 退院後訪問指導料
  • 100点
  • 600点
  • 580点
  • 580点
ケアプラン
  • 介護支援連携指導料
  • 退院時共同指導料2
  • 400点
  • 400点
情報共有
  • 診療情報提供料1 など

効果・加算に繋げることで確実に加算取得する。これらのシステムが構築できるのであれば、入退院支援部門の設置は絶対に無駄にはならない。

~次回に続く~

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