医学管理料の算定に関する課題とシミュレーション
病院経営に影響を与える医学管理料とその課題(第1回)
2020年7月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

今回より、病院経営に影響を与える医学管理料における算定フォローシステムの概要と、システム導入前に実施したシミュレーション結果について記述したい。

医学管理料の算定については、多くの医療機関において大きな課題の一つであり、精度の高い算定を行うための仕組みづくりは、とても重要な位置づけとなる。

今回は、算定フォローシステムを使った医学管理料の請求漏れ改善について、実際のデータを用いて効果等を検証した事例を紹介する。

医学管理料の算定に関する定義等

まず、厚生労働省のホームページに掲載されている「保険診療の理解のために」の「4.医科診療報酬点数表の解釈」「(2)医学管理等在宅療養指導管理料」には、以下が記載されている。

  • 「医学管理料」「在宅療養指導管理料」は、「目に見えない技術」に対する評価が含まれている
  • 項目ごとに、具体的な算定要件が定められている
  • 医学的管理や療養指導を適切に行った上で、算定要件として定められた指導の内容の要点等を診療録に必ず記載する必要がある
  • 医師自身が算定する旨を指示し、医事課部門のみの判断で、一律請求を行わないこと

そして、文末に「算定要件を満たさずに算定していれば返還の対象となる」と記載されている。

これらを踏まえ、それぞれ以下のようなことを再認識する必要がある。

医療行為においては・・・

  • 前提として、対象患者に対し、適切な医学的管理または療養指導を行わなければ算定できない

算定にかかる行為においては・・・

  • 医療行為を行った上で、医師自身が算定する旨を指示しなければならない
  • 医療行為を行っていても、指導内容の要点を診療録に記載しなければ算定できない
  • 記載内容については、それぞれの項目ごとに詳細な要件が定められている

当然のことだが、この算定要件を満たしていなければ返還の対象となるのである。

医学管理料算定時の課題等 ~「矯正する力」と「平準化する力」~

次に、医学管理料の算定にあたり、以下のようなことが発生していないだろうか。

  • 医事課のみの判断で算定している
  • 委託会社に任せきりにしている
  • 各算定要件に沿った指導内容の要点が記載されていない
  • 診療録の質的監査で、しっかりとした記載ができていない

これらにより、医学管理料の算定漏れや、算定要件の不備などによる返還対象の発生につながっていれば、病院経営においても大きな痛手となってくる。

また、これらを回避するためには、医学管理料の算定にあたって「矯正する力」と「平準化する力」が必要となる。

矯正する力(漏れ防止=気づき)とは・・・

  • 適切な医学管理や指導をしないことに対する気づき
  • 算定の指示を忘れることに対する気づき
  • 記載忘れまたは記載項目が足りないことに対する気づき
  • 病名をつけてくれないことに対する気づき

平準化する力とは・・・

  • 医師や診療科によって、算定に関する認識や理解度に違いがあることへの平準化対応

しかしながら、上記の力を具現化するためには人的対応のみでは限界が生じてくることから、これらの対応策の一つとして、医学管理料における算定フォローのシステム化を推奨したいと考える。

ただし、システムの導入に際して、着実な効果を得るためには、動機付けから効果測定までの以下のようなライフサイクルが重要であることをご理解いただきたい。

【図1:システム導入のライフサイクル】

算定フォローシステムの概要

算定フォローシステムは、算定可能な医学管理料の課題や問題点を精査し改善することで、患者QOLの向上医療の質の向上医療収益の改善に寄与することを目的としており、「特長1~4」にも掲げているように、事前シミュレーションや適切なカルテ記載の支援、医学管理料算定要件のチェック、病名と医薬品の適応症チェックなどがシステム的に可能となる。

【図2:医学管理料算定フォローシステムの概要】

下図は、システムそのものの流れを示したものである。

【図3:システムの流れ】

なお、システム運用の流れは下記の通りとなる。

【図4:システム運用の流れ】

システムの活用により、前述した医学管理料の算定にあたって必要となる「矯正する力」と「平準化する力」が効率的に推進されるとともに、ヒューマンエラーによる医学管理料の算定(請求)漏れや算定要件不備の解消につながることとなるのである。

算定フォローシステムの導入効果

次に、システムの導入効果を検証する。

以下は、実際に21病院(平均病床数:221.5床)について、システム導入と業務改善を実施した想定でシミュレーションを行った結果である。

システム化による主な改善点としては、以下があげられる。

  1. 医事課や委託会社の判断で行っていた算定を、システム化により医師が確認・判断(可視化)できること
  2. 算定要件となる指導内容や記載項目の不備をシステムが明示することにより、記載漏れを防止できること
  3. 医師や診療科の解釈によらず、算定に対する認識や理解度を平準化させることにより、算定根拠の統一性を持たせること

これら諸条件を踏まえて行った結果、対外来総請求額における改善可能率は、最小値0.4%、最大値4.5%、平均1.8%となった。

この改善可能率を金額ベースに換算すると、最小値で年間200万円、最大値で年間1億400万円、平均で2,260万円となり、月額ベースに換算すると平均で約188万円程度の改善が可能となる。

上記はあくまでも想定値ではあるが、病院経営事情を考えると医学管理料の算定に関しては、改善の余地が大きいことを示していると言えるのではないだろうか。

医学管理料の算定にあたっては、いかに算定(請求)漏れをなくし、記載項目の不備等による返還対象をなくすことが重要なのである。

次回は、算定フォローシステムを導入した医療機関の事例について記述したい。

少しでもお役にたてれば幸いである。

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