院内待合エリアにおける外来患者導線の見直しについて
~コロナ禍における感染症予防を見据えた対策として~

院内待合ホールにおける外来患者導線の見直しについて(前編)
2021年12月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

幾度の緊急事態宣言がなされてきた中、医療機関においても更なる感染症対策が求められてきている。

このような状況下において、今回は、外来患者が利用する院内待合エリアにおける感染症対策を見据えた患者導線について、1,000床規模の病院で当社が行った調査・分析事案を記述したい。

なお、本文中の「動線」は実際に患者が動く軌跡を、「導線」は施設側が考える患者の流れを示している。

1.各医療機関における主な感染症予防対策

現在、各医療機関においては、来院時の手指消毒やサーマルカメラによる検温をはじめ、待合席のソーシャルディスタンス、発熱外来の設置など、さまざまな感染症予防対策が講じられている。

最近では、タブレット端末等を利用したWEB問診や自動再来受付機や自動精算機の導入により、窓口職員との非接触化も進んできている。

各医療機関における主な感染症予防対策

しかしながら、主に外来患者が利用する待合エリアについては、朝早くから来院する患者による受付窓口等の混雑や、診察前後の患者導線の錯綜による特定エリアの輻輳が見受けられ、今後、これらの改善策を講じていく必要があると考える。

2.現状調査と課題の抽出

今回の調査・分析業務にあたっては、バックヤード(医事課や薬剤部など)を含めた大規模なレイアウト変更ではなく、あくまでも既存の施設利用面での課題抽出と改善策の提案が条件であったことから、バックヤードに付随するカウンター窓口の配置変更は行わないことを前提とした。

その上で、現状における課題が何なのかを正しく把握する必要があったため、窓口担当部署へのヒアリングの他にも以下のような調査を行った。

1)施設平面図上での配置確認及び主要箇所の実寸計測

当該病院から入手した施設平面図を基に、各窓口の配置や自動再来受付機等の設置状況を実寸計測したところ、特に自動再来受付機付近のエリアで

  • 車いすや松葉杖利用者が通行しづらい
  • トリアージ対応時のストレッチャー導線として利用できない

などの問題があった。

さらに、平面図上に診察前後の患者導線を描いてみると

  • ある特定エリア【図1の赤囲み部分】での集中的な錯綜
  • 初診記載台(固定)による移動空間の限定
  • 院外処方箋案内窓口が出入口側に配置されていることによる受診済み患者動線の手戻り

などが判明した。

また、事前ヒアリングにおいて

  • 朝8時の受付開始時には院内の通路【図1の黄囲み部分】に外来患者が溢れかえってしまう
  • 再診患者のうち保険証確認を要する患者の並び(列)がエリア内の混雑に拍車をかけている

ことも問題となっていた。

【図1:院内待合エリアにおける外来患者導線】

【図1:院内待合エリアにおける外来患者導線】

2)動線分析カメラ設置による画像分析

次に、1)の机上分析で判明した結果が課題として事実かどうかを検証するため、180°の広角で撮影でき、人の動きをヒートマップ化できる動態分析カメラを待合エリア内に設置し、実態の確認を行った。

  • 調査箇所:待合エリア内全体と自動再来受付機周辺
  • 撮影時間:8時(受付開始)~17時(外来診察終了)、月曜~金曜日の1週間

上記調査の結果、施設平面図を基にした分析結果同様、受診前後の外来患者が交錯するエリア【図2:イ】が午前・午後共に最も輻輳していた。また、朝一番の時間帯は曜日に関わらず、自動再来受付機付近【図2:ア】が受付待ち患者で溢れ返っていた。

その反面、増設している相談室周辺【図2:エ】が閑散としており、当該エリアの有効活用がなされていない事実も判明した。

【図2:動態分析カメラによる調査結果】

【図2:動態分析カメラによる調査結果】

3)院内各種システムの稼働状況等調査・分析

前記1)2)により、施設(窓口等)や機器の配置による患者導線の課題が明らかになった。

しかしながら、システム運用上の問題がないかも検証する必要があると思われたことから、以下の調査・分析を行った。

(1) 自動再来受付機の稼働状況

自動再来受付機(7機)の稼働状況は、対象エリアが混雑している8:00~8:30と混雑が解消した後の8:30~9:00の処理(受付)人数を比較してみると、前者260人に対し後者240人となっており、その差はほとんどなかった【グラフ1】。

このことから、朝一番の混雑の大きな要因は、受付開始時間前に来院する患者数が多いことではないかと想定された。

【グラフ1:自動再来受付機の稼働状況】

【グラフ1:自動再来受付機の稼働状況】

(2) 診療予約時間の設定状況と実際の受付時間

次に、各診療科の予約時間枠の設定状況と実際に外来患者が受付した時間を調べてみた。

すると、朝一番の時間帯に受付した外来患者のうち、予約時間の1時間以上前に来院している患者が44%近くいることが分かった【グラフ2の赤枠内】。

やはり、朝一番の混雑は、これらの患者に起因することが判明した。

【グラフ2:受付時間帯別の外来患者来院状況分布】

【グラフ2:受付時間帯別の外来患者来院状況分布】

また、時間ごとの予約枠設定状況を見てみると、原則30分単位での設定ルールとなっているにもかかわらず、午前・午後での設定や、朝の時間帯に集中して予約を受け付けているものも見受けられた【表1】。

これもまた、朝の早い時間帯に患者が集中してしまう要因とも考えられる。

【表1:診療予約枠の設定・予約状況(抜粋)】

区分 予約時間 予約枠数 実際の予約者数
A科 9:00~12:00(180分) 50人 13人
B科 9:00~11:00(120分) 40人 22人
C科 9:30~10:00(30分) 10人 24人

(3) 保険証確認端末の稼働状況

保険証確認を要する外来患者600人(うち100人程度が初診)中400人を8:00~10:00までの2時間で処理していることが分かった【グラフ3】。

この人数は、ほとんどが1)で示した錯綜エリア内に並ぶため、このことからも全体的な外来患者導線の見直しが必要とされる。

【グラフ3:保険証確認端末の稼働状況】

【グラフ3:保険証確認端末の稼働状況】

(4) 自動支払(精算)機の稼働状況

自動支払機については、午前中の利用が多く見受けられるが、設置台数5機で最大30分あたり130人が処理できており、特に問題点はなかった【グラフ4】。

ただし、周辺のスペースが手狭なことから機器への並びが並列型となっており、機器のトラブル発生時等においては並んだ機器の場所により待ち時間が左右されるなどの不公平感も生じることから、フォーク並びの検討の必要性も感じた。

【グラフ4:自動支払機の稼働状況】

【グラフ4:自動支払機の稼働状況】

今回は、「院内待合ホールにおける外来患者導線の見直しについて(前編)」について記述した。

次回は、「院内待合ホールにおける外来患者導線の見直しについて(後編)」として、今回の調査・分析結果を基に提言した改善策(案)等について記述したい。

少しでもお役にたてれば幸いである。

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