院内待合エリアにおける外来患者導線の見直しについて
~コロナ禍における感染症予防を見据えた対策として~

院内待合ホールにおける外来患者導線の見直しについて(後編)
2022年1月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

前回は、院内待合エリアにおける外来患者の導線に関する現状調査と、各種分析結果に基づく課題抽出等について紹介した。今回は、これらの分析結果を基にした課題の整理と改善策(提言)等について記述したい。

なお、本文中の「動線」は実際に患者が動く軌跡を、「導線」は施設側が考える患者の流れを示している。

1.調査・分析結果に基づく課題の整理

1)施設平面図上での配置確認や主要箇所の実寸計測、動態分析カメラによる調査結果から見えた課題箇所

(1) 自動再来受付機の設置間隔

自動再来受付機の設置間隔が狭いため、車いすや松葉杖利用者が通行しづらい【図1:ア】。また、トリアージ対応時のストレッチャー導線として利用できない。

(2) 初診記載台の設置箇所

初診記載台(固定)が待合エリアの中央付近に設置されているため、移動空間が限定【図1:イ】され、患者動線が阻害されている。また、トリアージ対応時は記載台によりエリアが分断【図1:ウ】されてしまう。

(3) 院外処方箋案内窓口の設置箇所

院外処方箋案内窓口が出入口側に配置されているため、受診済み受付窓口から会計窓口に流れる際の患者動線の手戻りが生じ、受診前患者の導線と錯綜【図1:エ】している。

(4) 相談室(増設)の設置箇所

相談関連コーナーが分散【図1:オ】されているため、利用効率が良くない。また、終日利用率が低い相談関連コーナー付近の待合席を含めたエリア【図1:カ】の有効活用が必要。

【図1:調査結果に基づく課題箇所】

図1:調査結果に基づく課題箇所

2)院内システムの稼働状況から見えた課題

(1) 自動再来受付機の受付時間

受付開始可能時間を設定しておらず、診療予約時間に関係なく受付が可能となっていることから、予約時間の1時間以上前から来院している患者も多く、特に朝一番の混雑の要因となっている。

(2) 診療予約枠の運用

診療予約時間ごとの予約枠が運用ルール(30分あたり〇人)に沿って設定されていないものがあり、これも患者集中の一因と考えられる。

(3) 保険証確認

保険証確認端末の処理能力には特に問題はなかったが、確認のため窓口に並ぶ再診患者の導線が他の受診前後の患者導線と交錯することから、当該エリアの錯綜解消が必要とされる。

(4) 自動支払機への並び方

処理能力には特に問題はなかったが、機器のトラブル発生時等、並んだ場所によって違う処理待ち時間にかかる患者の不公平感解消のためには、フォーク並びへの変更を検討する必要がある。

2.課題解決に向けた対応策(案)

これまでの調査・分析結果の整理と課題の抽出から、課題解決に向けた対応策として、実施すべき優先順位を含め以下のことを提案した。

1)すぐにでも取り組むべき対応策(必須事項)

(1) 初診記載台及び院外処方箋案内窓口の移設【図3】

初診記載台及び院外処方箋案内窓口の移設により、受診前後の患者による動線上の錯綜が緩和されるとともに、自由な移動空間の確保並びにトリアージ対応時の柔軟なエリア活用が可能となる。

(2) 相談受付窓口及び相談室(増設)の移設・集約と待合席の整理【図3】

相談関連施設は既設の相談室周辺に集約を図り、運用面での効率化を図るとともに、周辺の待合席の配列整理により、見通しが良く患者動線としても活用できる配置とする。

なお、これにより、会計済み患者の新たな帰宅導線が確保できるとともに、自動支払機のフォーク並びを実現すべくスペース確保にもつながるものと思われる。

(3) 自動再来受付機の配置見直し【図3、図4】

現在、ほぼ等間隔に設置されている機器の配置を見直し、車いすや松葉杖利用者のみならず、ストレッチャーの動線としても利用できるスペース(間隔)を確保する。

【図2:院内待合エリアにおける外来患者動線(現状)】

図2:院内待合エリアにおける外来患者動線(現状)

【図3:院内待合エリアにおける外来患者動線(変更案)】

図3:院内待合エリアにおける外来患者動線(変更案)

【図4:自動再来受付機設置間隔の変更】

図4:自動再来受付機設置間隔の変更

2)患者の理解を得ながら早期に取り組むべき対応策

(1) 診療予約枠の適正運用と予約受付可能時間の設定

受付開始時間における外来患者による混雑解消を図るためには、予約枠の適正運用と受付可能時間の設定(診療予約時間の1時間前~など)が有効的と考えるが、患者の理解を得るためには相応の周知期間が必要と思われることから、実施までの猶予期間を設けて実施すべきと考える。

(2) 各種窓口のフォーク並びへの変更

患者が並んだ受付機の不具合等によるトラブルを減少させるためにも、各受付窓口への並び方は銀行のキャッシュコーナーなどで採用しているフォーク型を取り入れるべきと考えるが、待合フロア等の諸事情によりなかなかスムーズに変更できないことも事実である。 しかしながら、適切な現状把握によるエリアの有効活用により、その対応策を見出していくことも大事である。

3.まとめ

コロナ禍における感染症対策を踏まえた施設運営に関しては、各医療機関においてさまざまな取り組みがなされていることと思う。今回、院内待合エリアにおける外来患者による混雑緩和を図るための取り組みを紹介した。

レイアウトの変更というと、「窓口やバックヤードの配置を含めた大掛かりな対策が必要なのではないか」と思われる方もいるかもしれないが、今回の記述のとおり、まずは現状を的確に把握し課題を整理するとともに、配置的な問題やスペース的な無駄を洗い出し、その対応策を見出していくことも一つの手法である。

今後、ウィズコロナの状況下において、感染対策や効率的な患者動線を検討する上においても、一度、自院の現状について整理・分析されてみることを推奨したい。

今回は、コロナ禍における感染症対策を踏まえた施設運営改善に向けた「院内待合ホールにおける外来患者導線の見直しについて(後編)」として記述した。

少しでもお役にたてれば幸いである。

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