2022年診療報酬改定に関わる方向性について
診療報酬改定の基本方針(骨子案)から 【前編】
2022年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

新型コロナウイルス感染症への迅速な対応が求められている中、厚生労働省は、社会保障審議会・医療保険部会で、2022年度診療報酬改定の基本方針の骨子案を示した。

その中には、閣議決定された経済対策を踏まえ、看護の現場で働く人たちの収入の引き上げや負担軽減に資する取り組みを推進する方向性などが盛り込まれている。

今回からは、その骨子案及び医療機関の方向性について記述したい。

今回の診療報酬改定は、小規模改定にとどまることが予想される。その要因としては、

  • 中医協総会での「次期改定の論点等」の整理が約3カ月遅れたこと
  • 経過措置期間が延長された項目が多く、前回改定の影響を正確に測れていないこと
  • 最優先事項でもある新型コロナウイルス感染症対策のための医療提供体制を構築しなければならないこと
  • 2025年問題を前提に、2024年が医療・介護の同時改定になること

などが考えられるためである。

骨子案の全体像としては、

  1. 改定に当たっての基本認識
  2. 改定の基本的視点と具体的方向性
  3. 将来を見据えた課題

から構成されており、今回は、まず、「1.改定に当たっての基本認識」について記述する。

1.改定に当たっての基本認識

1)新興感染症等にも対応できる医療提供体制の構築など医療を取り巻く課題への対応

  • 新型コロナウイルス感染症の拡大により医療提供体制に多大な影響が生じ、地域医療の様々な課題が浮き彫りとなり、地域における医療機能の分化・強化、連携等の重要性が改めて認識された。
  • 病院間等の医療機関間の役割分担や連携など、関係者が連携の上、平時と緊急時で医療提供体制を迅速かつ柔軟に切り替えるなど、円滑かつ効果的に対応できるような体制を確保していく必要がある。

2)健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現

  • 2025年にはいわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となり、2040年頃にはいわゆる団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となって高齢人口がピークを迎えるとともに現役世代が急激に減少していく。
  • 健康寿命の延伸により、高齢者をはじめとする意欲のある方々が役割を持ち活躍できる社会を実現するとともに「全世代型社会保障」を構築していくことが急務の課題である。

3)患者・国民に身近であって、安心・安全で質の高い医療の実現

  • 患者が安心して医療を受けることができる体制を構築し、患者にとって身近でわかりやすい医療を実現していくことが重要である。
  • 医師等の働き方改革等について、医療の安全や地域医療の確保、患者や保険者の視点にも留意しながら、医師等が高い専門性を発揮できる環境の整備を加速させる。
  • 医療分野におけるICTの利活用をより一層進め、医療機関間における医療情報の連携の推進等により、質の高い医療サービスを実現していく。

4)社会保障制度の安定性・持続可能性の確保、経済・財政との調和

  • 国民皆保険を堅持するためには、経済・財政との調和を図りつつ、より効率的・効果的な医療政策を実現するとともに、国民の制度に対する納得感を高めることが不可欠である。
  • 新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響にも配慮しつつ、保険料などの国民負担、物価・賃金の動向、医療機関の収入や経営状況、保険財政や国の財政に係る状況等を踏まえるとともに、無駄の排除、医療資源の効率的・重点的な配分、医療分野におけるイノベーションの評価等を通じた経済成長への貢献を図ることが必要である。

【考察】

基本認識からは、以下のキーワードが浮かび上がってくる。

  • ア)地域医療体制の再構築と病院機能の明確な役割分担(新型コロナウイルス感染症対応と外来機能報告制度)
  • イ)「全世代型社会保障」の構築(高齢者雇用の拡大と教育指導体制の充実)
  • ウ)医師等医療従事者の働き方改革等(業務の効率化とICTの活用)
  • エ)医療機関連携の重要性(ID連携及び電子カルテ機能の平準化)
  • オ)保険料の改定(国民負担の増加)

基本認識としては、新型コロナウイルス感染症対策のための医療提供体制の構築をはじめ、医療機能の分化を明確にし、それぞれの施設の規模や機能にあった体制を再構築していくことが求められる。

さらに、ICTを活用した標準化や平準化を進めていくことで、より効果的な改善を迫られていると言えるのではないか。

医療機関としては自院の基本方針の確定が必要になってくる。曖昧な状態の中、今後の改革に臨むと、医療機関そのものが崩壊し継続すら難しくなることが予想される。まずは、管理職のしっかりとしたリーダーシップの下、今後の方針を決定していく必要があり、将来のビジョンをしっかりと描くことが重要なのである。

そのためには、病院経営のキーマンでもある事務部長の役割が大きく、理事長の意向を汲み取り、常に情報提供と提案を行いながら現場の意識改革を実行していく行動力が求められる。

今後ますます、医療現場を取り巻く環境は厳しくなると言わざるを得ない。そのような中、生き残る病院となるには、常に先を読んだ現場改革の実践が大きな分かれ目となる。

今回は、「2022年診療報酬改定に関わる予測について」と題し、診療報酬改定の基本方針(骨子案)から「1.改定に当たっての基本認識」について記述した。

次回は、「2.改定の基本的視点と具体的方向性」及び「3.将来を見据えた課題」について記述したい。少しでもお役にたてれば幸いである。

尚、「2022年度診療報酬改定のポイントと医療機関の対応について」は、2月中旬からお届けする【医療オンデマンドセミナー2022】にて、お話をしたい。

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