医療機関におけるWebサイトの重要性【前編】 2025年11月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

1995年、Windows 95の登場により家庭用パソコン(以下、「PC」という。)にインターネット接続機能が標準搭載され、Yahoo!などの検索エンジンの登場により、URLを知らなくても誰もがWebサイトへアクセスすることが可能になった。さらに、1999年、NTTドコモの「iモード」登場により、携帯電話でもWebサイトが閲覧可能になった。

近年では、スマートフォン(以下、「スマホ」という。)の普及拡大により、若年層のみならず高齢者までもスマホを使いこなすようになり、Webサイトの閲覧件数に関しては、PCよりもスマホからのアクセス数が多くなっていることは、皆さんご承知のことと思う。

このような状況下において、巷ではWebサイト上にありとあらゆるコンテンツが登場し、誰もが必要とする情報を手軽に得ることができるようになった半面、情報量の多さやデザイン性・操作性の悪さなどにより、Webサイト閲覧者が本当に必要とすべき情報に容易にたどり着くことができているか、疑問が残るWebサイトも多々見受けられる。

今回は、これからの医療機関におけるWebサイトの重要性と在り方について、まずは注意すべき項目を整理したいと考える。

1.Webサイトに必要とされる全体的要素

まず、Webサイトの構築にあたっては、当該サイトの目的とターゲットを明確化すべきことは言うまでもないが、一般的要素として、以下のことが重要視されている。

1)デザイン性と操作性

PCのみならず、スマホやタブレットなど、様々な端末での検索・閲覧を容易にするためには、各種モニタ(画面)に合わせたサイズに自動調整するための機能として、レシポンシブWebデザイン(自動サイズ切替)の採用が効果的とされている。

2)アクセシビリティ対応

高齢者や障がい者など、誰もがストレスフリーで閲覧・検索できる仕組みを構築するためにも、文字サイズの変更や高コントラストな配色をはじめ、代替テキスト(alt属性)の設定や視覚障がい者が利用する自動音声読み上げソフトへの対応など、Webアクセシビリティへの対応強化が必要不可欠である。

3)セキュリティ対策

個人情報の保護とサイトの安全性を確保(第三者による盗聴や改ざん防止)するためにも、SSL(Secure Sockets Layer)機能(通信内容の暗号化)を実装し、安全なサイトであることを利用者に認識してもらう必要がある。

4)CMS(注1)機能の充実

タイムリーな情報発信を行うためには、専門的な知識がない管理者であっても、Webコンテンツ制作、管理が可能となるようなCMSを活用できる環境を整える必要がある。

(注1)コンテンツ管理システム:Webサイトやデジタルコンテンツを簡単に作成・管理・更新できるソフトウェア

2.医療機関のWebサイトに求められるガイドライン

次に、患者の安全と信頼を守るため、厚生労働省が定めた「医療広告ガイドライン」と「医療機関ホームページガイドライン」の2つの指針があり、広告が禁止されている事例として、以下の事例が挙げられている。

その中で、いくつかの事例を紹介する。

事例1:加工・修正した術前術後の写真等の掲載(虚偽広告)


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「加工・修正した術前術後の写真等」の掲載や「絶対安全な手術」「○%の満足度」などの表現、治療後の定期的な処置等が必要であるにもかかわらず、全ての治療が短期間で終了するといった内容の表現は、虚偽広告として取り扱う。

事例2:最上級の表現など(比較優良広告)


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「日本一」「No.1」、「最高」など、特定又は不特定の他の医療機関(複数の場合を含む)と自らを比較の対象とし、施設の規模、人員配置、提供する医療の内容などについて、自らの医療機関が他の医療機関よりも優良である旨を示す表現は、仮に事実であったとしても優良性について国民・患者を誤認させ、不当に誘引する恐れがあるものであり、Webサイトに掲載すべきではない。

また、著名人との関連性を強調するなど、「国民・患者に対して他の医療機関より著しく優れているとの誤認を与える恐れがある表現は、国民・患者を不当に誘引するおそれがあることから、Webサイトに掲載すべきではない」とされている。

事例3:科学的根拠が乏しい情報による誘導(誇大広告)


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  • 特定の症状に関するリスクの強調
  • 特定の手術・処置等の有効性またはリスクの強調

などにより、医療機関への受診誘導や意図する手術・処置への誘導を行ってはならない。

ほかにも、「国民・患者を誤認させ、不当に誘引する恐れがあるものや内容については、Webサイトに掲載すべきでない」とされている。

なお、「国民・患者を誤認させ、不当に誘引する恐れがあるもの」とは、国民・患者がWebサイトに掲載されている内容から認識する印象・期待感と実際の内容とに相違があることを常識的判断としていえれば足りるものであり、国民・患者が誤認することを証明することや、実際に誤認したという結果までは必要としない。

事例4:体験談(省令禁止事項)


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治療等の内容又は効果に関して、患者自身の体験や家族等からの伝聞に基づく主観的な体験談の広告をしてはならない。医療広告ガイドラインでは、こうした体験談について医療機関への誘引を目的として紹介することは、個々の患者の状態等により感想が異なり得るものであり、誤認を与えるおそれがあることを踏まえ、医療に関する広告としては認められない。

※事例1~4の図面等の出展は、全て厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」より抜粋

上記以外にも、公序良俗に反するものや、薬事法や健康増進法、不当景品類不当表示防止法、不当競争防止法など医療法以外の法律で禁止されているものも掲載不可とされている。

詳しくは、以下のWebサイトを参照願いたい。

厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」https://www.mhlw.go.jp/content/001439423.pdf

3.医療機関のWebサイトに見受けられる問題・課題

医療機関のWebサイトには、よくある問題・課題がいくつか存在する。それぞれの医療機関が個性を出そうとする一方で、検索・閲覧するユーザー視点が置き去りになっていることも多々見受けられる。代表的な例としては、

1)情報のわかりにくさ

  • 診療科目や医師の担当領域が曖昧
  • 初診・再診の流れが不明瞭
  • 料金や保険の取り扱いについての記載が不足

2)ユーザーインターフェースの不備

  • スマホやモバイル端末での閲覧に対応できていない
  • フォントが小さ過ぎたり、色使いにより読みにくかったりする
  • メニュー構成が複雑で、必要とする情報になかなかたどり着けない

3)更新頻度の低さ

  • 休診日やイベント情報が古いまま
  • 医師の異動や新しい設備導入が反映されていない

4)アクセシビリティの配慮不足

  • 音声読み上げ対応がなされていない
  • 高齢者や視覚障がい者に優しくないデザイン

5)問い合わせ導線の不明瞭さ

  • 電話番号や問い合わせフォームが見つけにくい
  • LINEやメールでの対応可否の記載がない

などが掲げられており、その改善が求められている。

4.医療機関のWebサイトに求められる役割

医療機関のWebサイトには、以下のような役割が求められる。

1)正確でわかりやすい診療情報などの提供

診療科目や診療時間、医師のプロフィールや専門分野などの紹介、導入設備、駐車場を含むアクセス情報などを正確に掲載することで、患者の不安を軽減することができる。

2)信頼感の醸成

清潔感のあるデザインや誠実な情報発信により、医療機関としての信頼性向上につなげることができる。

3)多言語対応

近年、日本国内に居住する在日外国人が増加していく中、英語や中国語、韓国語をはじめとする多言語表記により、国際的な対応力が向上できる。

4)地域医療連携

紹介状の受付体制や連携医療機関の情報提供などにより、急性期から回復期、在宅医療までをスムーズに行うことで、医療資源の有効活用と患者満足度の向上につなげることができる。

5)採用・広報ツールとしての活用

医療従事者向けの採用情報を掲載することで、人材確保にも貢献できるとともに、地域医療への取り組みやイベント情報などの掲載により、地域貢献を含む広報活動にも有効となる。

5.まとめ

今回は、医療機関におけるWebサイトの重要性に関し、求められる役割と現状における問題・課題などについて記述した。

厚生労働省による「受療行動調査(令和5年)の概要」によると、外来で受診した患者のうち、病院情報を公式サイトから入手した割合は28.8%となっており、令和2年の調査結果23.5%から5ポイント程度増加するなど、ますますWebサイトでの情報発信や情報更新が重要になってきている。特に、若年層や働き世代はスマホで医療機関を探す傾向が強く、モバイル対応が不十分なサイトは機会損失につながってしまう傾向にある。

また、初診前に医師の経歴や診療方針を確認できることで、来院への心理的ハードルが下がり、患者との信頼関係構築がスムーズになることも容易に想定できる。

次回は、今後の医療機関におけるWebサイトの在り方について、今回の問題・課題解決策などについて記述したい。

少しでもお役にたてれば幸いである。

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