医療機関のWebサイトは、かつては診療時間や所在地を伝える静的な広報媒体に過ぎなかった。しかし、2020年代に入り、医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速や患者の情報リテラシー(注1)の向上、オンライン診療の普及、そして生成AIなどの新技術の登場により、Webサイトは医療機関の「顔」から「中枢」へと進化しつつある。
今回は、後編(その1)として医療機関におけるWebサイトの役割(再定義)や具体的な機能設計について、そして次回に後編(その2)としてWebサイトを有効に活用していくための運用体制や法規・情報セキュリティ、導入・改善のステップについて述べていく。
(注1)情報リテラシーとは:さまざまな情報を適切に収集・理解し、活用できる能力のこと
患者が症状の調べ始めにアクセスする“最初の接点”として、正確で最新の診療科情報や担当医プロフィール、診療時間、アクセス情報を掲載することが最も重要である。誤解を招く表現や古い情報は不安を増幅し、医療機関への信頼低下につながることが懸念される。
オンライン予約や順番待ち表示、問診票の事前入力などによる来院フローの短縮により、院内接触の最小化とスタッフ負担の軽減を図ることができる。
軽度なフォローや慢性疾患管理、救急でない相談はWeb経由のオンライン診療での対応を図り、対面診療への振り分けルールを明確化して安全性を担保する。
なお、患者が安心してオンライン診療を受けられるよう、プライバシー保護や診療の適正性について明確に説明することが求められる。
病状解説や治療方針の選択肢、検査の意味、リハビリや服薬指導などをわかりやすく掲示することにより、患者のセルフマネジメント能力を高めることができる。
また、医療コラムや動画による紹介も効果的と考える。
令和6年4月1日から、障害者差別解消法の改正により、国や地方公共団体などに義務付けられている合理的配慮の提供が民間の事業者も義務化された。
高齢者や視覚障がい者を含む全ての利用者を想定したフォントサイズや色彩コントラスト、音声読み上げ対応の導入などが求められているのである。
Webアクセシビリティの詳細は、以下のサイトを参照願いたい。
■政府広報オンライン「ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説!」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202310/2.html
■デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」
https://www.digital.go.jp/resources/introduction-to-web-accessibility-guidebook
令和7年5月30日付で総務省が公表した「令和6年通信利用動向調査の結果」によると、端末別インターネットの利用状況は「スマートフォン(74.4%)」が最も多く、次点の「パソコン(46.8%)」を大きく上回っている。多くの患者がスマートフォンで閲覧するため、スマホ表示での操作性を最優先に設計する必要がある。
出展:総務省「令和6年通信利用動向調査の結果」より
なお、予約ボタンや診療時間はワンクリックでアクセスできる場所に配置することも忘れないでいただきたい。
トップページに「初診の方」「再診の方」「救急の場合」「入院について」など、利用目的別の導線を設けるとともに、症状別で診療科にたどり着ける構成にするなど、迷わせない導線設計を行うことが重要である。
あわせて、FAQから目的とする情報へのリンクも有効的である。
これらにより、電話問い合わせの減少など、スタッフの負担軽減にもつながる。
院内のフロアマップや受付~診療~会計の流れ、夜間診療動線、FAQなど図解を用い、初めて来院する患者へもわかりやすい情報を提供することにより、来院前患者の不安軽減が図られる。また、医師の顔写真や簡易プロフィールなどの掲載も、患者に安心感を与えるコンテンツの一つとなる。
なお、これらの情報は専門用語を避け、シンプルに掲載すべきと考える。
以下の機能は、利用者行動や医療安全、運営効率、法規遵守、地域性などの観点から整理したものである。
| 必須機能 | 推奨機能 |
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各機能は単独の便利さだけでなく、患者体験や安全性、スタッフの業務効率、法令遵守という複数の軸に影響を与えるため、優先順位を誤るとコストやリスクが増大する場合もあるのでご注意願いたい。
必須機能はまず外せない基盤であるが、推奨機能は患者層と運用成熟度に応じて段階的に導入するのが実務的である。
なお、必須機能にある「厚生労働大臣が定める掲示事項(保医発0327 第10号)」とは、
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となっているが、具体的な内容については、以下のサイトを参照願いたい。
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001252050.pdf
日本では外国人観光客や在住者の増加に伴い、医療機関のWebサイトにおける多言語対応の重要性が高まっている。英語、中国語、韓国語などの言語で診療案内や予約方法を提供することで、外国人患者の受け入れ体制を整えることができる。
また、医療通訳サービスの案内や、保険制度の説明など、外国人が安心して受診できる環境づくりもWebサイトの役割である。インバウンド医療の推進は、地域経済への貢献にもつながるのである。
地域包括ケアの推進に伴い、医療機関同士の連携が重要視されている。Webサイトは、地域の医療機関、介護施設、行政機関との連携情報を掲載することで、患者や家族が適切な医療・介護サービスを選択する手助けとなる。
例えば、紹介状の受付体制、連携医療機関の一覧、地域医療ネットワークへの参加状況などを明示することで、医療機関の信頼性を高めることができる。また、災害時の対応体制や感染症対策など、地域全体の医療安全に貢献する情報発信も重要である。
今後の医療機関におけるWebサイトは、単なる情報提供の場ではなく、医療DXの推進、患者との信頼構築、地域医療連携、セキュリティ確保など、多面的な役割を担う存在へと進化していく。
医療機関は、患者中心の視点を持ち、技術革新と社会変化に柔軟に対応しながら、Webサイトを戦略的に活用することが求められる。
次回は、後編(その2)として、医療の質と利便性を高めるためのWebサイトの運用と組織体制、法令などへの対応、患者体験を高める運用ノウハウなどについて述べていきたい。
少しでもお役にたてれば幸いである。