医療機関におけるWebサイトの重要性【後編(その2)】 2026年1月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療機関のWebサイトは、単なる情報発信の場から、患者との接点、医療サービスの提供、地域医療連携、そして医療DXの中核へと進化している。前編および後編(その1)では、Webサイトの基本的な役割や機能設計、アクセシビリティ、多言語対応、地域連携などについて述べてきた。

今回は、その最終章としてWebサイトを戦略的に活用するための「運用体制」「法令・情報セキュリティ対応」「患者体験向上のための運用」「導入・改善のステップ」について、実務的な視点から整理する。

1.Webサイト運用体制の構築:継続的改善のための組織設計

1)運用体制の基本構造

医療機関のWebサイト運用には、専門的な知識と継続的な更新が求められる。院内にWeb担当者を配置するか外部の制作会社と連携するかは、医療機関の規模や方針によって異なるが、いずれにしても医療現場との密な連携が不可欠である。

さらに、セキュリティ対策を含め、Webサイト構築後の運用が成否を分けるケースが見られることから、以下のような役割分担が必要となる。

役割主な責任・業務内容
経営層(院長・理事長など)
  • 情報セキュリティ方針決定
  • 予算確保、最終意思決定 など
医療情報システム安全管理責任者
  • システム全体の安全管理
  • 運用規程の整備
  • 情報セキュリティ方針策定
  • インシデント対応
  • 教育訓練の推進
  • リスクマネジメント など
サイト管理責任者
  • 技術的対応(CMS管理を含む)
  • 外部業者との連携
  • セキュリティ対応
  • トラブル対応
  • 内部監査対応
  • 教育訓練の実施 など
実務担当者(Web担当)
  • 日常のサイト更新
  • コンテンツ管理
  • アクセス解析
  • SNS連携
  • 患者対応
  • マニュアル整備 など
外部業者
  • サイト制作・保守
  • システム運用やセキュリティ対策などの技術的サポート

このような多層的な体制により、ガバナンスと現場運用の両立、責任分界の明確化、継続的な改善が実現できる。特に、中小規模の医療機関では、専任IT担当者が不在の場合も多いため、外部業者との連携や運営管理が重要なポイントとなる。

2)外部委託と内製のバランス

タイミング対応など
初期構築・リニューアル 専門業者への委託が望ましい
日常的な更新 CMSを活用し、院内で対応可能な体制を整備
定期点検・改善提案 年1回程度の外部専門家によるレビューを推奨

3)データ活用の体制化と人材育成

WebのアクセスログやWeb予約データを分析することにより、来院ピークの最適化や患者への事前情報提供の充実、院内動線の効率化に活かすことができる。また、Googleアナリティクスを活用したアクセス解析も有効な手段の一つである。ただし、PDCAサイクルを回す担当チームの設置が必要となる。

あわせて、医療スタッフ向けにWebリテラシー(Webを理解・運用できる能力)、SNS運用、オンライン診療のマナー教育を実施すると、より効果的と考える。

2.法令・情報セキュリティ対応:信頼性と安全性の確保

1)情報セキュリティと個人情報保護の徹底

患者情報は、医療法や個人情報保護法に準拠し、暗号化通信(TLS)はもとより、アクセス制御やログ管理の実装が有効的である。さらに、問診票や検査結果の送受信は安全なチャネルの使用が必須となる。

項目行動内容
SSL/TLSの導入 通信の暗号化(必須)
個人情報保護方針の明示 プライバシーポリシーの掲載
アクセスログ管理 不正アクセスの監視と記録
CMSの脆弱性対策 定期的なアップデートとパスワード管理

2)医療広告ガイドラインの遵守

前編でも述べたが、医療機関の表現は、以下に記載するような過度な誇大広告を避け、エビデンスのある情報提供に限定する必要がある。

  • 加工画像や誇大表現(例:「絶対安全」「No.1」)の禁止
  • 体験談の掲載禁止(省令により明確に禁止)
  • 科学的根拠のない誘導表現の排除
  • 掲載内容と実態の乖離を避ける(印象による誤認もNG)

詳しくは、以下のWebサイトを参照願いたい。

厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001439423.pdf

3)障害時の冗長化

サーバ障害やサイバー攻撃などに備え、バックアップ体制と代替連絡手段(電話回線やSMSなど)を事前に確保しておくことが「医療サービスを止めない」ための社会的責務と考える。

3. 患者体験(PX: Patient Experience)を高める運用

1)患者目線のUX(注1)/UI(注2)設計

患者体験を高めるためには、Webサイトが「診療前~診療後」まで一貫して患者をサポートする設計であることが求められる。予約のしやすさや問診票の事前記入、アクセス案内、FAQ、診療後の注意事項やアンケート・フィードバック機能など、患者の不安や疑問を解消する導線設計が重要となる。

患者体験向上のための主な施策内容例
予約体験のスムーズ化
  • 診療時間案内(トップページに表示)
  • 「予約」ボタンの設置(トップページが好ましい)
  • 3ステップでの予約
  • スマホ最適化 など
診療前の案内
  • 院内フローや検査手順の図解説明
  • わかりやすいアクセス案内(特に、公共交通機関を利用した場合の所要時間を含む案内)
  • 問診票ダウンロード
  • 専用フォームを活用したオンライン記入
  • FAQの充実(特に、患者からの問い合わせが多い項目(保険適用、持参するもの、検査前の注意点、受診の流れ)など)と目的情報への誘導
  • チャットボットの活用と目的情報への誘導 など
診療後のフォロー
  • 処置後の注意事項
  • アンケート
  • 地域医療連携情報
  • 薬局連携情報 など
ブランディング強化
  • 安心感のあるカラー設計
  • 医療機関の特徴
  • スタッフ(医師)紹介(専門分野や経歴を含む) など
アクセシビリティ対応
  • 文字サイズ変更
  • 音声読み上げ対応
  • 色覚配慮 など

注1)UX(User Experience)とは、ユーザーが商品(Webサイト)やサービスを通じて得る体験のこと。

注2)UI(User Interface)とは、ユーザーがWebサービスやアプリなどで目にするすべてのものを指す。

2)インフォームドコンセントの支援

Web上での説明資料提供により、オンライン診療前に患者が十分に理解・同意できる仕組みの整備も必要である。

コアとなる説明項目としては、以下のものが挙げられる。

項目 内容
目的 行う検査や治療、手続きの目的を簡潔に伝える。
内容 手順の流れを説明。
期待される効果 治療や検査によって得られる具体的な利益を示す。
リスクと副作用 発生し得る主な合併症や副作用、頻度や重篤度をわかりやすく示す。
代替案 他の治療選択肢や経過観察の選択も含め、比較できる情報を提示。
不実施時の影響 何もしなかった場合に想定される経過やリスクを説明。
不確実性と想定範囲 効果やリスクに関する不確実性や未確定事項を明示。
費用負担 自己負担額や保険適用範囲、追加費用の可能性を提示。
代諾・代理同意の可否 成年者や認知機能低下患者などの代理同意の要否と手順を説明。
撤回の権利 同意後もいつでも撤回できる点と撤回の方法を説明。

3)集患・信頼構築のための情報発信

ブログやSNSを活用した情報発信により、医師の専門性や医療機関の取り組みを伝えることで、患者との信頼関係を構築できる。特に、地域密着型の医療機関では、地元の健康イベントや予防接種情報などを発信することで、地域住民との接点を増やすことができる。

さらに、口コミやレビューサイトとの連携(自院Webサイトへの引用掲載は不可)、Google My Businessの活用など、外部メディアとの連携も重要である。患者が医療機関を選ぶ際の判断材料として、時として第三者の評価は大きな影響を及ぼすこともある。

4)閲覧者に寄り添う言葉づかい

医療用語は平易化し、誰もがわかりやすい言葉で表現するとともに、説明文やボタンラベルにも安心感を与える文言を使用する。また、医師紹介はプロフィールや専門性だけでなく「患者対応の姿勢」も伝えると、より安心感につながっていく。

4.導入・改善のステップ:段階的アプローチで無理なく推進

1)優先順位の設定と段階的導入

Webサイト構築後の手戻りや掲載内容の重複を避けるためにも、設計段階から最終目標を見据えた優先順位の設定が有効である。各種機能を一括導入する場合も同様のことが言えるが、大まかなステップとしては、以下の流れが好ましいと考える。

フェーズ 主な施策 目的
第1段階 必須機能の整備(診療情報、アクセス、SSL対応) 信頼性と基本機能の確保
第2段階 CMS導入とスマホ対応、アクセシビリティ強化 運用効率と利便性向上
第3段階 オンライン診療、チャットボット、多言語対応 患者体験と地域対応力の強化

2)継続的改善とPDCAサイクル

アクセス解析ツール(例:Google Analytics)を活用してWebサイトの利用状況を把握・分析するとともに、ユーザーアンケートやスタッフヒアリングなどで課題を可視化。法令改正や技術進化に応じた柔軟な対応はもちろん、月次でアクセス数や問い合わせ件数・内容などを確認し、半年ごとに改善計画を策定して実行に移すことにより、より効果的なWebサイトとして運営と閲覧者に対するサービス向上につながっていく。

5. 今後の展望:医療DXとの連携

1)医療DXとWebサイトの融合

厚生労働省が掲げる「医療DX令和ビジョン2030」では、電子カルテ情報の共有、電子処方箋、オンライン資格確認、PHR(Personal Health Record)の活用などが重点施策として挙げられている。

これらの施策は、医療機関のWebサイトが単なる情報発信の場ではなく、患者が自身の医療情報にアクセスし、診療予約や問診や服薬管理などを行う「医療ポータル」として機能することも前提としている。

特に、クラウド型電子カルテの普及により、Webサイトは院内システムと連携しやすくなり、患者がスマートフォンから診療履歴を確認したり、検査結果を閲覧したりすることが可能になる。こうした機能は、患者の医療参加を促進し、医療の質と安全性を高めていくことになる。

医療DXの進展により、Webサイトは以下のような進化が期待されている。

項目 内容
患者ポータルとの統合 検査結果や診療履歴の閲覧
AIによるトリアージ支援 症状入力による診療科案内
地域医療ネットワークとの連携 紹介状の電子化、情報共有
災害時の情報発信ハブ 診療体制や避難情報の即時発信

2)オンライン診療とWebサイトの連携

新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、オンライン診療のニーズが高まり、医療機関のWebサイトは、オンライン診療の入口として機能する必要が高まっている。

診療予約や問診票の入力、診療の流れの説明、決済方法などを一元的に提供することで、患者の利便性を高めることができるのである。

また、オンライン診療に関する法制度やガイドラインに準拠した情報提供は不可欠である。患者が安心してオンライン診療を受けられるよう、プライバシー保護や診療の適正性について明確に説明することも求められる。

おわりに

医療機関のWebサイトは、医療DXやアクセシビリティ義務化、スマホ利用増加、地域医療連携、インバウンド対応など、社会的要請と技術革新の波の中で、戦略的かつ実務的な運用が求められている。法令遵守や情報セキュリティ、アクセシビリティ、患者体験向上、多言語化、API連携(注3)、AI活用など、多岐にわたる要素をバランスよく統合し、継続的な改善が可能なサイクルで回すことが、選ばれる医療機関への道の一つとなる。

今後も、厚生労働省やデジタル庁などの公式ガイドラインや最新動向を注視しつつ、現場の声と患者目線を大切に、Webサイトを「医療のデジタルフロント」として最大限に活用していくべきであると考える。

少しでもお役にたてれば幸いである。

注3)API(Application Programming Interface)連携とは、異なるソフトウェアやシステム間でデータや機能をやり取りする仕組みのこと。プログラム同士が通信するためのインターフェースを提供し、効率的なデータ交換や機能の利用を可能にする。

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