医療機関における人材育成と実践能力の向上について(看護師編) 2026年2月

執筆者:株式会社アイ・ピー・エム
    代表取締役 田中 幸三(たなか こうぞう)氏

医療機関においては、医師や看護師、薬剤師、技術士、事務など、多職種が協働し質の高い医療・看護・ケアの提供が求められている。

最初に、その医療機関における事業利益率と経常利益率の推移を記載する。一見してわかるように、いずれも低下傾向にあり、この状況はコロナが5類に変わった現在でも状況の改善には至っていない。


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出典:厚生労働省HP「医療機関をとりまく状況(経営状況・人材確保等)」

今後、医療機関が健全な経営を行う上においては、「収益の確保」や「物価高騰への対応」「優秀な人材の確保」など、様々な事柄が存在する。

その中から、今回は「医療機関における人材育成と実践能力の向上について(看護師編)」と題し記述したい。

1.人事評価システムの在り方

人材の育成及び実践能力の向上においては、公平で透明性のある人事評価システムの構築が組織運営に欠かせない仕組みとなっている。今後の人材育成においても、人事評価のみが給与・昇格に反映されるだけでなく、キャリア形成やモチベーション向上、教育体系との連動に重きを置かれなければ、良い人材の確保並びに優秀な人材の育成にはつながらない。

特に、直接患者と接する機会の多い看護師においては、その能力と器量が大きく問われるところである。評価が医療機関全体の評価になるといっても過言ではない。

他の職種においても同様のことがいえるため、人事評価システムの在り方から述べたい。

1)人事評価の必要性

目的 効果
適正な処遇や昇格 給与や役職などの妥当性を示すことで、経営の基盤を構築する。
組織の目標と個人の意思を連動 組織の方針を理解させ個人のスキルアップにつなげる。
教育の質の向上 面談を通して、個々人の医療に対する資質を向上させる。
業務の標準化 標準化することで、時短及び平準化と効率化が向上する。

2)人事評価の優位点

  • ア)評価基準を明確にすることで、業務への取り組み姿勢が定まる。
  • イ)人材の定着や離職防止へつながるツールとして活用できる。
  • ウ)多職種との連携により、より高度な医療の提供を実行することが可能となる。
  • エ)個々人の特性を理解することで、効率的な人材配置に寄与できる。

3)人事評価導入時の課題と対応策

目的 対応策
評価の属人化 評価者による評価格差を無くすため、しっかりとした評価者研修が必要。
書面での作業負担削減 紙媒体ではなく、今後はICTの活用を推進する。
職種別の評価レベルの統一 求められる医療人としての評価につき、医療機関全体で方向性を同一化する。

※ 当社においても「メディカルグローアップ」という人事評価システムを構築しているが、それぞれ「診療部版」「看護部版」「診療技術部版」「事務部版」などの特性を考慮しながらも、評価レベルを統一化した内容に配慮したシステムとして提供している。


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出典:株式会社アイ・ピー・エム「メディカルグローアップ」参考画面

2.看護実践能力習熟段階

さて、今回は「看護師の人材育成と実践能力の向上について」をテーマに記述していくが、そのために最も有効であると思われるのが、公益社団法人日本看護協会の「教育等看護の質の向上に関する事業」に掲げている「看護実践能力習熟段階」である。ここからは、その看護実践能力習熟段階を通した看護師の人材育成と実践能力の向上について記述する。

看護師の育成において、学びの指標として、求められる「看護実践能力」とそれに基づく学習項目、看護実践能力習熟段階について述べていく。

1)看護実践能力

日本看護協会では、看護師が看護実践を行うために必要な能力を「看護実践能力」とし、「専門的・倫理的・法的な実践能力」「臨床実践能力」「リーダーシップとマネジメント能力」「専門性の開発能力」の4つの能力で構成することを示している。

能力 能力の定義
専門的・倫理的・法的な実践能力 自らの判断や行動に責任を持ち、倫理的・法的規範に基づき看護を実践する能力。
臨床実践能力 個別性に応じた適切な看護を実践し、状況に応じて判断し行動する能力。
リーダーシップとマネジメント能力 組織の一員として看護・医療の提供を効率的・効果的に行うために、状況や役割に応じたリーダーシップを発揮しマネジメントを行う能力。
専門性の開発能力 看護師としての資質・能力を向上し、適切かつ質の高い看護実践を通じて、看護の価値を人々や社会に提供し貢献する能力。

各々の能力には構成要素が掲げられており、それぞれの構成要素にも定義付けがなされている。

2)看護実践能力に基づく学習項目

1)で掲げる能力を向上させるために、どんなことを学んでいく必要があるのか、「看護実践能力に基づく学習項目」では、看護師が様々な機会や方法で学習する必要のある学習項目と知識や考え方などの例を示している。

能力 能力の構成要素 学習項目数
専門的・倫理的・法的な実践能力 アカウンタビリティ(責務に基づく実践) 3項目
倫理的実践 4項目
法的実践 4項目
臨床実践能力 ニーズをとらえる力 7項目
ケアする力 9項目
意思決定を支える力 3項目
協働する力 2項目
リーダーシップとマネジメント能力 業務の委譲/移譲と管理監督 2項目
安全な環境の整備 4項目
組織の一員としての役割発揮 3項目
専門性の開発能力 看護の専門性の強化と社会貢献 4項目
看護実践の質の改善 3項目
生涯学習 3項目
自身のウェルビーイングの向上 3項目

3)看護実践能力習熟段階

学びを進めるときには、今、自分の看護実践能力がどの段階にあるのかを客観的に評価して、次の段階に向けて学ぶことが効果的である。その能力の開発・到達の状況を確認し、さらに次に向かう先を示す指標として、各種習熟段階(ラダー)が活用できる。

「看護実践能力習熟段階」では、必要に応じ助言を得て実践する「新人」から、より複雑な状況において創造的な実践を行い、組織や分野を超えて参画する「Ⅳ」までの5段階で、各能力の習熟段階が示されている。

レベル 全体的な求められる行動
新人 必要に応じ助言を得て実践する
標準的な実践を自立して行う
個別の状況に応じた判断と実践を行う
幅広い視野で予測的に判断し実践を行い、ロールモデルとなる
より複雑な状況において創造的な実践を行い、組織や分野を超えて参画する

さらに、能力及び能力の構成要素毎に求められるレベル毎の行動目標が設定されている。

以下は、臨床実践能力に関する看護実践習熟段階の一例である。

臨床実践能力
  新人 基本的な看護手順に従い、必要に応じ助言を得て看護を実践する
  標準的な看護計画に基づき自立して看護を実践する
  ケアの受け手に合う個別的な看護を実践する
  幅広い視野で予測的判断をもち看護を実践する
  より複雑な状況において、ケアの受け手にとっての最適な手段を選択しQOLを高めるための看護を実践する
  ニーズをとらえる力
  新人 助言を得てケアの受け手や状況(場)のニーズをとらえる
  ケアの受け手や状況(場)のニーズを自らとらえる
  ケアの受け手や状況(場)の特性を踏まえたニーズをとらえる
  ケアの受け手や状況(場)を統合しニーズをとらえる
  ケアの受け手や状況(場)の関連や意味を踏まえニーズをとらえる
  ケアする力
  新人 助言を得ながら、安全な看護を実践する
  ケアの受け手や状況(場)に応じた看護を実践する
  ケアの受け手や状況(場)の特性を踏まえた看護を実践する
  様々な技術を選択・応用し看護を実践する
  最新の知見を取り入れた創造的な看護を実践する

出典・「改変」:公益社団法人日本看護協会「看護実践能力習熟段階」
https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/learning/support-learning-guide-ex.pdf
閲覧日:2025年12月14日

このように、能力及び構成要素毎に看護師に求められる行動が掲げられている。

詳しくは、日本看護協会が発行している「看護師のまなびサポートブック(https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/learning/support-learning-guide-all.pdf)」を参照願いたい。

まとめ

今回は、一例として日本看護協会が掲げる看護実践能力習熟段階の概要について紹介したが、それ以外の構成要素についても同様に、一つずつ階段を上っていくことで自身の実力を向上させ、医療全体にとって、より良い実践能力の向上につながっていくと考える。

職員を正しく育成していくことは、その医療機関への愛着を深めることにつながる。これにより離職率の低下も期待できる。さらに、実践能力の向上は、本人のスキルアップとやりがいの向上をもたらし、その結果として医療の質の向上や医療安全の確保が実現できる。次回は、看護実践能力習熟段階における「専門的・倫理的・法的な実践能力」及び「臨床実能力」についての内容を記述したい。

少しでも皆さんの人材育成への参考になれば幸いである。

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