前回は、日本看護協会が掲げる看護実践能力習熟段階の概要について紹介したが、今回は、看護実践能力習熟段階の中から「専門的・倫理的・法的な実践能力」及び「臨床実践能力」について内容を記述したい。
最初に、前回の概要から全体像を下記に示す。
| 能力 | 能力の定義 |
|---|---|
| 専門的・倫理的・法的な実践能力 | 自らの判断や行動に責任を持ち、倫理的・法的規範に基づき看護を実践する能力。 |
| 臨床実践能力 | 個別性に応じた適切な看護を実践し、状況に応じて判断し行動する能力。 |
| リーダーシップとマネジメント能力 | 組織の一員として看護・医療の提供を効率的・効果的に行うために、状況や役割に応じたリーダーシップを発揮しマネジメントを行う能力。 |
| 専門性の開発能力 | 看護師としての資質・能力を向上し、適切かつ質の高い看護実践を通じて、看護の価値を人々や社会に提供し貢献する能力。 |
| 能力 | 能力の構成要素 | 学習項目数 |
|---|---|---|
| 専門的・倫理的・法的な実践能力 | アカウンタビリティ(責務に基づく実践) | 3項目 |
| 倫理的実践 | 4項目 | |
| 法的実践 | 4項目 | |
| 臨床実践能力 | ニーズをとらえる力 | 7項目 |
| ケアする力 | 9項目 | |
| 意思決定を支える力 | 3項目 | |
| 協働する力 | 2項目 | |
| リーダーシップとマネジメント能力 | 業務の委譲/移譲と管理監督 | 2項目 |
| 安全な環境の整備 | 4項目 | |
| 組織の一員としての役割発揮 | 3項目 | |
| 専門性の開発能力 | 看護の専門性の強化と社会貢献 | 4項目 |
| 看護実践の質の改善 | 3項目 | |
| 生涯学習 | 3項目 | |
| 自身のウェルビーイングの向上 | 3項目 |
| レベル | 全体的な求められる行動 |
|---|---|
| 新人 | 必要に応じ助言を得て実践する |
| Ⅰ | 標準的な実践を自立して行う |
| Ⅱ | 個別の状況に応じた判断と実践を行う |
| Ⅲ | 幅広い視野で予測的に判断し実践を行い、ロールモデルとなる |
| Ⅳ | より複雑な状況において創造的な実践を行い、組織や分野を超えて参画する |
公益社団法人日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」
PP27-28 表1.看護実践能力を改変
PP30-33 表2.看護実践能力に基づく学習項目を改変
PP36-39 表3.看護実践能力習熟段階を改変
https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/learning/support-learning-guide-all.pdf
閲覧日:2025年12月26日
まずは、「専門的・倫理的・法的な実践能力」について記述する。この分野は「アカウンタビリティ(責務に基づく実践)」「倫理的実践」「法的実践」の3項目から構成されており、その中から「倫理的実践能力」について考えてみたい。
看護師として倫理的に意思決定・行動し、人々の生命や権利、多様性、プライバシー等を尊重し看護実践を行う。
| 区分 | 知識や考え方等 |
|---|---|
| ア:基本的人権の尊重 | 健康(ウェルビーイング)、日本国憲法、自己決定権、性と生殖に関する健康と権利(リプロダクティブヘルス・ライツ) |
| イ:多様性の理解と推進 | 多様な文化・価値観の尊重、共生社会、社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)、ジェンダー平等(LGBTQ 等) |
| ウ:医療・看護実践における倫理 | 生命倫理、医療倫理とその原則 |
| エ:倫理的課題への気づきと行動 | 倫理的な課題や葛藤への気づき(倫理的感受性等)、倫理的な決断と行動(協力、対話等) |
| レベル | 求められる能力 |
|---|---|
| 新人 | 倫理指針等と目の前の実践を紐づけて理解し、倫理的指針に基づき行動する |
| Ⅰ | |
| Ⅱ | 個別的な状況においても自身で判断し倫理的に行動するとともに、倫理的問題が生じている可能性に気付き他者に共有する |
| Ⅲ | 顕在的・潜在的な倫理的問題について問題提起し、同僚に働きかけモデルを示す |
| Ⅳ | より複雑かつ多重な顕在的・潜在的な倫理的問題について、解消のために組織や分野を超えて参画する |
公益社団法人日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」
PP27-28 表1.看護実践能力を改変
PP30-33 表2.看護実践能力に基づく学習項目を改変
PP36-39 表3.看護実践能力習熟段階を改変
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閲覧日:2025年12月26日
医療における倫理問題は多岐にわたり、その理解や思考及び対応によってケアの質も変わってくる。基本的実践項目の一つではあるが、明確に実践していくことの難しい分野でもある。
各医療機関では、倫理委員会が毎月開かれていると思うが、その議題における討議内容に対してもなかなか明確な回答が出ないことが多いのではないだろうか。そういう時には、弁護士などの専門家の助言を得て解決に導くことも必要である。
また、新人の頃から医療倫理には何が該当するのか、具体的な事例の中には、どのような問題(例:本人と家族の思いのズレへの対応、意思決定が困難な患者対応、宗教的輸血拒否患者対応、終末期患者対応、身体抑制、DNAR、退院拒否患者対応、異文化における習慣の違いへの対応など)があるのかを常に意識し、知識として蓄えておくことを推奨したい。
医療人は、これら倫理問題を避けて通ることはできないのである。
次に、「臨床実践能力」について記述する。この分野は、「ニーズをとらえる力」「ケアする力」「意思決定を支える力」「協働する力」の4項目から構成されている。
この中から「ニーズをとらえる力」と「ケアする力」について述べていく。
体系的な情報収集とアセスメント(整理・分析・解釈・統合)を行い、看護問題の優先順位を判断し、記録共有する。
| 区分 | 知識や考え方等 |
|---|---|
| ア:対象者との信頼関係の構築 | 自己理解と他者理解、信頼関係構築のためのコミュニケーション、ラポール形成 |
| イ:情報収集の方法 | ニーズ把握のためのコミュニケーション技法、面接の技法 |
| ウ:アセスメント(身体面) | 臨床病態生理、臨床推論、フィジカルアセスメント、検査結果のアセスメント(臨床検査・画像検査等) |
| エ:アセスメント(心理・精神面) | 認知機能評価、精神状態のアセスメント、心理的発達のアセスメント |
| オ:アセスメント(社会面) | 生活のアセスメント、家族アセスメント、社会資源のアセスメント |
| カ:アセスメント(スピリチュアル) | 死生観や信条等のアセスメント、文化・宗教の理解、スピリチュアルペイン |
| キ:アセスメントの統合 | 情報の整理、多様な情報の統合と理解、全人的アプローチ |
| レベル | 求められる能力 |
|---|---|
| 新人 | 助言を得てケアの受け手や状況(場)のニーズをとらえる |
| Ⅰ | ケアの受け手や状況(場)のニーズを自らとらえる |
| Ⅱ | ケアの受け手や状況(場)の特性を踏まえたニーズをとらえる |
| Ⅲ | ケアの受け手や状況(場)を統合しニーズをとらえる |
| Ⅳ | ケアの受け手や状況(場)の関連や意味をふまえニーズをとらえる |
公益社団法人日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」
PP27-28 表1.看護実践能力を改変
PP30-33 表2.看護実践能力に基づく学習項目を改変
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閲覧日:2025年12月26日
ニーズをとらえるということは、患者の立場に立ったケアの質を向上させるために、必要不可欠である。現在の状態のみならず、その後の状態変化を予測し、患者の立場に立った推測的行動が求められる。
そのためには、常に記録を心掛けておく姿勢が大切である。特に新人の頃は、いつもメモ帳を持って歩き、細かいことでも記録する習慣を身につけることが肝要である。これは、看護師の誰もが心掛けていることである。常日頃から患者の状態を把握し、記録しておくことで、いつ誰がケアにかかわってもその患者の状態が明確になり、スムーズなパーソナルケアにつながるものと考える。
ケアの受け手とのパートナーシップのもと、それぞれの状況に合わせた看護計画を立案・実施・評価し、実施した看護への対応を行う。
| 区分 | 知識や考え方等 |
|---|---|
| ア:看護計画 | 看護問題・看護診断、看護計画の立案方法、クリニカルパス |
| イ:看護の実施と記録 | 看護計画に基づく看護の実施、看護師の臨床判断、看護記録の監査と評価 |
| ウ:実施した看護の評価 | 看護実施後の評価、看護計画の評価と変更、クリニカルパスのバリアンスへの対応 |
| エ:看護技術 | 日常生活援助技術、治療・処置に関する技術、医療関連機器の取り扱い、セルフケア向上に関する技術・教育方法 |
| オ:状態や疾病に応じた看護・医療提供 | 主要疾患の病態と治療、病期に応じた看護、緩和ケア、メンタルヘルス不調への支援、意思表示が難しい人々への支援、人生の最終段階にある人々への支援 |
| カ:地域での療養生活支援 | 疾病予防、ケアマネジメント、療養と生活を支える社会資源 |
| キ:臨床薬理 | 薬物動態、主要な薬物の薬理作用と副作用、与薬 |
| ク:疾病・臨床病態 | 主要疾患の臨床病態と治療 |
| ケ:緊急時の対応 | 一次救命処置、二次救命処置、災害時の支援 |
| レベル | 求められる能力 |
|---|---|
| 新人 | 助言を得ながら、安全な看護を実践する。 |
| Ⅰ | ケアの受け手や状況(場)に応じた看護を実践する。 |
| Ⅱ | ケアの受け手や状況(場)の特性をふまえた看護を実践する。 |
| Ⅲ | 様々な技術を選択・応用し看護を実践する。 |
| Ⅳ | 最新の知見を取り入れた創造的な看護を実践する。 |
公益社団法人日本看護協会「看護師のまなびサポートブック」
PP27-28 表1.看護実践能力を改変
PP30-33 表2.看護実践能力に基づく学習項目を改変
PP36-39 表3.看護実践能力習熟段階を改変
https://www.nurse.or.jp/nursing/assets/learning/support-learning-guide-all.pdf
閲覧日:2025年12月26日
この「ケアする力」には、看護を実践するための基本行動が盛り込まれている。患者は病を患って医療機関を訪れる。そのために必要不可欠な知識と技術の習得が重要なポイントとなることから、看護力を上げるためにもしっかりとクリアしておきたい項目である。
また、近年、専門特化した看護ケアに関する職種(専門看護師、認定看護師)が増えてきており、それだけ医療の技術の進化と患者の個別性が顕著になってきていることの表れでもある。
専門看護師や認定看護師として、ある分野を極めることも、看護師自身の成長を支えることにつながるものと考える。
今回は、日本看護協会が掲げる「看護実践能力習熟段階」の一部(看護師は自らを成長させ、医療人としての倫理や知識、技術を習得しなければならない)について記述したが、筆者が常日頃から公言していることのひとつとして、医療機関は多種多様な専門職の集団であり、それぞれに重要な役割を持っている。
その中でも優秀な人材の育成のための「教育」は最重要項目であり、看護師以外の他職種においても同様の教育システムが必要である。他職種においても同様に「教育・育成」のためのプランを公表すべきであり、さらには、それをシステム化(例:医療機関のホームページには、看護部専用のエリアが存在し、そこには、必ずといってよいほど、教育プランが載せてある)していくことを推奨している。
医療専門職としての自覚と職務に対するやりがい、自分自身の成長のためにも、ぜひともこの段階別教育制度を活用してもらいたいものである。
「看護実践能力習熟段階」の他の項目においても、大変参考になる項目が数多く存在する。機会があれば、また触れていきたい。
以上、少しでも皆さんの人材育成への参考になれば、幸いである。