DPC(注)対象病院にとって、出来高で算定している「手術」の件数を増やすためにも、手術室の運用カイゼンは欠かせません。そのため、前回は、手術室の運用カイゼンが困難だった事例をもとに、トップのコミットメントの重要性を解説しました。
そこで、今回は、成功事例をもとに、手術室の運用カイゼンを実現させていくためのポイントをチェックしていきたいと思います。
これまで手術室のコンサルティングを手掛けてきたなかで、手術室には、共通する7つの課題があることを発見しました。まず、手術件数を増やす上での課題として、
の5つです。
次に、手術室の運営体制上の問題として、
の2つがあります。
こうした問題を解決していくためには、「自病院の現状を分析し、抽出された課題を、誰がいつ、どのように関わることで解決改善していくのかを整理すること」が重要です。
この手術における7つの課題が、各部署にどうまたがっているのかを図1に示しました。ご覧いただくと各問題がいくつもの部署にまたがっていることが分かると思います。
そのため、ある課題を解決するためには、それに関わる複数の部署が、同時に課題解決へ向けて動き出さなければ、効果が出にくく、限定的になる可能性が高いのです。こうした複数の課題を抱えている病院は少なくありません。
では、こうした課題を解決するためにはまず何をすべきなのでしょうか。
それは、解決すべき課題に優先順位を付けて各部署に落とし込み、具体的なアクションプランを定めることです。できるところから少しずつ手をつけはじめ、小さな成功体験を積み上げることによって、解決への歯車を回すことができるのです。
具体的には、手術室関係者のみですぐに実行できる「運営委員会の機能カイゼン」や「手術枠の見直し」(図1の(2))といったところから始めていきます。
図1:手術室の各課題に対応する部署(画像をクリックすると拡大表示します)
このうちの「手術枠の見直し」のカイゼン手順を簡単に説明していきます。
はじめに麻酔科と看護部門のマンパワーを踏まえて最大の枠数を決定します。枠数が定まったら、手術の需要やマンパワーに応じて各診療科に枠を配分し、可能な限り効率よく枠を埋めるようにするのです。
最大枠数の設定は、麻酔科や看護部門の役割で、配分された枠の有効利用は各診療科の役割という形が一般的です。
こうして責任の所在と範囲を明確化していきます。この段階になると、限定的とはいえ、手術件数も確実に増えますので、関係者は取り組みの効果を実感するようになります。
手術枠の配分では、過去の実績をもとに手術の需要を予測して手術枠を決めていくため、多少の過不足が生じてしまいます。それでも、落としどころを探し、回し始めなければ、何も変わりません。
そして、これまでの取り組みを着実に実施し、手術室の運営をカイゼンしていくためには、手術室運営委員長のリーダーシップが欠かせないのです。それでも、歯車がうまく回らなかったり、迅速な対応が必要だったりする場合は、われわれのような外部の力を利用してみるのも良いでしょう。
スタッフの数や彼らの業務に合わせて手術枠を調整することによって、2~3か月以内に効果が表れ始める病院もあります。ただ、これらだけでは効果は限定的になってしまいます。
そこで次のステップとして、数か月~1年程度をかけ、スタッフを増やしたり委託業者を利用したりして、マンパワーを最大限に生かせるように業務を調整していかなければなりません。効果を最大化するためには、緻密なマイルストーンの設計が必要なのです。
図2は、B病院で設定した部署ごとのアクションプランです。
例えば、手術室看護部の「非本来業務の切り分け」では、「レベル1(清掃、洗浄、物品補充、請求業務)」、「レベル2(医療材料のピッキングなど手術の準備や、部屋の入れ替え)」、「レベル3(器材組み、展開業務)」に非本来業務を分け、これらを段階的に助手に移譲させました。
ここでの要点は、一連のプロジェクトがどこを目指していくのか、すべてのスタッフに分かるように必ず目標値を設定し、進捗を確認していくことなのです。
図2:アクションプランと目標(例)
今回取り上げたB病院では年5000件ほど手術を実施しており、カイゼン活動により1割アップを目標に掲げました。一連のプロジェクトを通じて午前中の手術件数を増やすことができ、最初の1年間で350件増加しました。手術件数は現在も増え続け、同時に午後5時以降の手術室の稼働を減らすことで、残業代の削減にもつながったのです。
「戦略は細部に宿る」と言われます。
こうした手術室改善の確度を高めるには、定量・定性調査に基づく十分な情報量の確保と広い視野での分析、緻密なアクションプランの作成が必要になります。
手術室にかかわらず、病院経営をカイゼンさせていくためには、問題点を洗い出し、できるところから確実に実行に移し、一定期間内にプランを見直し再設定するといった、いわゆる「PDCA」のサイクルを回し続けることが必要不可欠なのです。経営カイゼンに決して終わりはありません。
(注)DPC(診断群分類別包括払い)制度とは
DPCとは従来の診療行為ごとの点数をもとに計算する「出来高払い方式」とは異なり、2003年に導入された入院期間中に治療した病気の中で最も医療資源を投入した一疾患のみに厚生労働省が定めた1日当たりの定額の点数からなる包括評価部分(入院基本料、検査、投薬、注射、画像診断等)と、従来どおりの出来高評価部分(手術等)を組み合わせて計算する方式です。1日当たりの定額の点数は、「診断群分類」と呼ばれる区分ごとに、入院期間(I、II、特定入院期間)に応じて、入院期間が長くなるほど点数が下がる設計です。DPC対象病院は現在1,496病院(2013年4月1日現在、厚生労働省発表)あります。