病院IT化 成功のカギ
-電子カルテ導入プロジェクトマネジメントをしっかり考える(2)-

病院IT化のいろは・・・(第4回)
2015年12月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

医療ITコンサルタント・コーディネーターの米山正行です。
シリーズ「病院IT化 成功のカギ」今回は第4回「電子カルテ導入プロジェクトマネジメントをしっかり考える(2)」としてキックオフからシステム稼動とその後までを各フェーズに分けて筆者の考えやポイント等を書かせていただきます。

フェーズ1 キックオフ

システムベンダーが決定しますと、早速導入作業に入ります。
キックオフ時にはベンダー側の営業担当者や導入担当SEなどの紹介、今後の導入スケジュール等の提示があります。いわゆる「顔合わせ」もしくは「決起集会」といった感じと思ってください。
キックオフが終わると、担当SEは常駐して導入作業に入りますので導入作業スペース(部屋)の確保をして下さい。

パッケージシステムでは導入開始から稼動までの期間は6か月から8か月です。
キックオフ以降は時間との勝負となります。それまではプロジェクトメンバーが月に数日間、病院IT化に向けて労力を費やしてきましたが、キックオフ以降はさらに労力を費やす日数が増加します。そのような状態になると、稼働までの期間は現場スタッフ1名ないし2名欠員状態となることが考えられます。これは現場スタッフへの負担が増えることを意味していています。出来るだけ短期間で稼働までの作業を終了させることが重要となります。

また、稼働日を延長することによる弊害としては、追加費用の発生や導入担当SEのサポート体制が縮小するケース等もありますので、病院スタッフは一致団結して稼働に向けて作業を遂行していくことが重要です。

フェーズ2 ワーキンググループ

ワーキンググループ(以下WG)とは専門部会です。WGは関係部署から募った最小人数で運営することをお勧めします。
WGではシステム導入後の具体的な運用やシステム内での表示について等、システム運用の詳細を決定していく機関となります。WGの運営で最も大事なことは、運用に関する決定権をWGに与えることです。

また、細分化して多くのWGを作ってしまうとWG開催日数も多くなり期間が延びてしまうので、10WG前後で運営するとスムーズにいくと思います。一つのWGだけでは決定できない内容も発生します、各WGは連携を取ったり、小WGを開催したりして問題解決をして臨機応変に対応することが必要です。

フェーズ3 マスタ作成

WGの話し合いが終了すると、次はマスタ作成になります。マスタ作成ではコ・メディカルスタッフが重要な位置を担います。
マスタ作成は大きく分けて以下の2つのことを行います。

  • 施設で使うオーダーメニューの作成
  • システムの画面構成の作成

病棟のベッドマップを作成したり、オーダー選択画面の表示をわかりやすいものにしたりと、マスタ作成は“システムをいかに使いやすくするか”のカギになりますので非常に重要な作業となります。

まずは、病院内で使われていた依頼伝票などを元に考えると効率よく作成できると思います。

フェーズ4 帳票整理

帳票整理では、病院内で「今使われている、これから使う」書類について整理をします。
以前は電子化で「ペーパーレス!」なんて言われた時代がありましたが、今は「何が何でもペーパーレス!」という時代ではありません。必要のない書類、必要とする書類をシステム運用からしっかり検討して、必要となる書類は何か?電子保存する必要のある書類は何か?その電子保存書類はどういう形で電子化して保存するのか?などを検討します。

現在のパッケージシステムにおいては「いかに紙を上手に使うか!」がキーワードとなります。
パッケージシステムでは、上手な紙運用を考えたシステム運用の設計が重要です。運用で使う紙についてはWGでも検討内容に入ってきます、WGでの結果と合わせて帳票整理を進めることをお勧めします。

フェーズ5 操作研修について

WG、マスタ作成、帳票整理まで行けば、稼働まではもう少しです、その段階で始まるイベントが「操作研修」となります。操作研修には「集団研修」と「キーマン研修」があり、それぞれメリット・デメリットがあります。それを理解して施設に合った研修を行うことが重要と思います。

また、この段階で研修を行いますがシステム自体はまだ未完成で施設の仕様になっていない部分もあります。研修参加に際しては、おおよそ「こういう使い方をするシステムなんだ!」ってところを理解する気持ちで臨んでいただくことが大切です。

フェーズ6 リハーサル

さて、稼働まで1か月と迫ってくるとリハーサルとなります。
開催回数としては2回ぐらいが一般的ではないかと思いますが予備日を作って3回開催を予定している施設もあります。

リハーサルではシナリオ(模擬患者)を作り、実際にシステムを使って「運用現場での動き」などの問題点を確認します。シナリオに関しては、看護師を中心としたチームで作ると色々なバリエーションのあるものをスムーズに作成できます。

1回目はよくあるパターンのシナリオを多く回すことが重要で、2回目はちょっとレアケースのシナリオを回すことで現場での問題点などが見えてきます。各部署プロジェクト担当者は、リハーサルでの問題点をプロジェクトで公表して早期に問題解決を行う、それがリハーサルの目的となりますので些細なことでも問題提起して話し合うことが重要です。

フェーズ7 稼動

いよいよ稼働日です、ベンダー側は立会いスタッフを通常3日から7日程度までは多くの人員を配置しますが、その後は導入担当SEのみになるケースが多いと思っておいて下さい。

そしてプロジェクトとして重要なことは、稼働日から1週間程度は毎日反省会等をして問題点を早期解決することが重要です。稼働後は問題の先延ばしはできません!問題はその日のうちに解決するようにしましょう。

フェーズ8 稼動後のプロジェクト

稼働後1か月程度で導入担当SEも引き上げ、病院主体のシステム運用に移行します。病院は、導入プロジェクトを解体し委員会を立ち上げます。その後の運用は委員会主導となるようにします。

また、電子カルテに関しての運用管理規定などの整備が必須となります、病院の運用に合わせて運用管理規定等の作成を行いましょう。運用管理規定を元に、電子化による患者情報の保護やシステムトラブル等の問題に対処していくことが委員会の使命となります。

また第1回に掲げた「目的・目標」に関しての評価をすることによって、電子カルテ導入に関する効果を検証・確認することが重要です。

まとめ

今回は病院IT化の成功に向けて、各プロセスにおけるカギを4回に分けて書かせていただきました。

第1回 意思決定時および目的・目標の設定のカギ
第2回 予算設定時の成功のカギ
第3回 プロジェクトチーム設立からベンダー決定時のカギ
第4回 導入作業からシステム運用開始のカギ

今後、病院経営はますます厳しい時代に突入していきます、しかしそのような環境の中でも病院IT化は進めなくてはいけないテーマのひとつです。

病院IT化の進まない要因として「費用効果が見られない」という意見もありますが、導入後そのようなことにならないためにも病院IT化するためのしっかりとした「目的・目標」を定め、病院に見合ったシステム構成を考えること、根拠に基づいた「予算設定」を考えることが重要と考えます。また導入後には第1回に掲げた「目的・目標」に照らし合わせて評価を行うことで費用効果を確認することができると考えます。

最後に・・・

今回、病院IT化に向けた筆者の考えを述べさせていただきました。
病院IT化には莫大な費用が掛かります、少しでも無駄を省き、病院にとってのメリットを引き出せるような「コンサルタント・コーディネーター」として今後も活動を続けていきたいと思っております。

シリーズ「医療IT化 成功のカギ」を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

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