前回は、2020年度診療報酬改定で注目される「働き方改革推進」は何をもたらすのか、また今後病院に何が求められるのかを考えた。
今回は第2回目として「働き方改革推進・ICTの利活用」におけるポイントとして、どんなことから働き方改革に取り組むのか、今後に向けたICT利活用のためのシステム構築のポイントなどを考えてみたいと思う。
みなさんご存じのとおり、今後は労働者人口の減少がさらに進んでいく。医療業界は、その業務の性質上、人が関わる部分が多い業種・職種のため、労働者人口の減少は大きな問題となる。今後、そのような状況下においても安定した医療を提供するために、病院運用のスリム化、ミニマム化など、医療提供体制の構築が急務となると考える。このような方向性で考えると「働き方改革推進・ICTの利活用」が重要であることは間違いない。
さて前回、働き方改革に関してタスクシェアリング/シフティングの重要性をお話しし、理解していただけたと思う。しかし、中小の病院では医師の数にも限りがあり医師間のタスクシェアリングに関しては難しい状況と考える。今回は他職種へのタスクシフティングに注目して考えてみたいと思う。
こちらの資料(資料1)はこれまで、タスクシフティングできる業務として2019年に提示された内容である。またもう一つの資料(資料2)では医師がタスクシフティングで他職種との分担可能業務検討の際に提示された資料である。
各コメディカルへの業務分担の検討はされているが、法整備が必要な内容が多くあり、決定までに時間もかかると思われる。今すぐに着手できる内容としては資料2にあるように「患者への説明業務・医療記録」などの分担があり、効果的であると思う。
私は2019年1月に「入退院支援加算に着目した病院構造改革」という演題で講演をした。その際に出席者からお聞きした話によると、大病院では入退院支援運用が機能し、効果が表れているところもある一方で、中小の病院では退院支援はできているが入院支援ができていないといった声が多く聞かれた。うまく機能しない理由としては「人材不足・場所の問題・協力体制の問題」とのことだ。また、できている病院とできていない病院の話の内容を比較してみると違いがあることがわかった。それは「病院全体として取り組んでいるか、そうでないか」である。
なかなか思うように進まない病院では、看護部や事務部などの一部の部門が一生懸命に運用構築に動いているが、医師や他部門の協力が得られずに苦悩している状況が多くみられる。
このように、中小病院では運用が今一歩となっている。この状況を考えると、入退院支援運用を働き方改革推進のスタートと考え、病院一丸となって取り組むことが、すぐに取り組める効果的・効率的なタスクシフティングになるのではないかと考える。
また、働き方改革には新たな人件費など多くの費用負担が発生するといった議論があるが、このような運用を絡めたタスクシフティングを効率的・効果的に行うことで、加算取得に向けたスクリーニング効果や外来患者の待ち時間短縮、手術件数の増加など、患者満足度の向上、医業収益増収、といったプラス効果も期待できるのではないだろうか。
早くICT化を進めていた大病院などは2~3回目のシステム更新が数年以内にあるだろう。また、中小の病院では新規でICT化を進めているところも多い。その中で、働き方改革推進といった状況を踏まえ、どのようなシステム更新・新規導入を考えるべきか。
これまで、電子カルテを使用した情報共有は一つ一つの患者イベントに対して「何をしたか、どのような結果であったか」など。一つの事柄に対する情報共有運用となっていることが多かったと思われる。これからの情報共有は患者の動き・動線の中で業務を効率的に進めるための情報収集をし、その情報の利活用が働き方改革に必要になると考える。
たとえば入退院支援運用を例に挙げて考える。入院支援ではタスク分担した担当者が必要な情報の説明を行う。それぞれの情報が入力され、情報を集約し、その確認は院内のどこからでもできることにより入院時に病棟看護師が行っているアナムネ作成などの情報収集時間の短縮となると考えられる。
また、入院早期から効率的なスクリーニングもおこなえることから、入院時におけるリスク分析もでき、問題点を早期に把握することにより、効率的なケアを行うことが可能となる。それにより安心、安全な入院療養の提供に繋がると考える。このような入院から退院に向けた一連の情報共有、活用が今後ますます重要となってくる。
このような、それぞれ分担された担当者からの情報取得に沿った運用構築とシステムの活用が重要となり、それが病院運用のスリム化やミニマム化などの医療提供体制構築に繋がると考える。
また、余談となってしまうかもしれないが、今後のシステム更新・新規導入におけるポイントは、業務の標準化ではないかと考える。病院ごとにあるローカルルールはシステム導入において、時としてマイナス要素となる。ローカルルール適用のために、システム導入費用の高騰や安定性の担保といったことが発生しうるということだけ付け加えたい。
前回お話ししたように、今後の医療提供体制構築に向けた取り組みとして、まず地域の医療動向・医療提供体制を知る必要があると考える。資料3・4は地域によって高齢化の進むスピード、医療需要のピークを表している。このように地域によって高齢化受容が異なることを理解し、よりミニマムな単位で地域医療動向を知ることが必要で、地域での病院の役割・使命を明確にして医療提供体制を構築することが重要である。
また、働き方改革推進に関しては入退院支援など、以前より取り組みをしているチーム医療推進を確実におこない、その取り組みの中でタスクシフティングなどを進め、働き方改革へ繋げることが重要である。
ICT利活用については、各業務の情報連携といった視点でシステム構築を行い、運用・活用することが、医療のスリム化・ミニマム化に繋がり、効率的・効果的な医療提供になると考える。
今回は2020年度診療報酬改定で注目されている働き方改革推進に向けた取り組みの1例として「入退院支援運用」に着目した。また、それに合わせたシステム構築のポイントもお話しをさせていただいた。
今回の内容が少しでも病院改革に向けた参考になれば幸いである。
最後までお読みいただきありがとうございました。