2020年1月、新型コロナウイルス感染症が日本で確認されて現在に至るまで、未だに収束が見えない状況である。また、これまでに2回の緊急事態宣言が発出されるなど、経済へのダメージは大きい。
病院経営に関しても極めて大きなダメージを与えている。
政府による支援策もあり、病院倒産は回避されている状況と考える。また、一方では支援策に頼っているだけでは、いずれ病院倒産ということも考えられると意見を述べる方も少なくない。
筆者はダメージを受けた今だからこそ、病院の状況確認をし、今後の医療提供体制のあり方や病院方針(ビジョン)などを考えるべきだと思う。
本コラムでは「新型コロナウイルス感染拡大により顕在化した課題と今後の医療提供体制構築における展望」と題して、医療経営の現状とアフターコロナに向けたニューノーマル社会の構築という部分に視点を向け、まず行うことを考えたい。
病院経営の状況は2020年4月から2020年12月を見るとダメージは大きい。
2020年4月の緊急事態宣言時には全体として医業利益がマイナス10%からマイナス13%と落ち込み、その後は一時改善の兆しが見え9月にはプラスとなるが、その後の感染拡大で再度マイナス傾向となっている。
出典:一般社団法人日本病院会 日病文書配信
「2021.2.16 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第3四半期)-結果報告-(概要版)」
感染症患者の受入れありの病院と受入れなしの病院を見ると、報道などで耳にされていると思うが、受入れありの医療機関ではマイナスが多くなっている。
出典:一般社団法人日本病院会 日病文書配信
「2021.2.16 新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況の調査(2020年度第3四半期)-結果報告-(概要版)」
受入れをしている医療機関の7割は公的病院、受入れをしていない病院の多くは一般病院と言われている。
資料1より、一般病院の医業利益の状況としては2020年5月のマイナス7.1%が最大で、2019年との差(資料2)を見るとマイナス2.1%となっており、「受入れあり」の医療機関のマイナス5.1と比べると差が少ない。
一方で、この状況への対策として医療機関向けに用意された「独立行政法人福祉医療機関による無利子無担保融資」では、8月末時点で1,475件、総額3,728億円の融資を実施しているという記事を目にした。一般病院数が約7,200施設であるので、借り入れで現状をしのいでいる病院は少なくはないと考える。
この状況が収束しても、医療が以前の状況に戻るまでには時間がかかると言われている中、医療機関の倒産ということも考えられる。
また、アフターコロナの先には人口減少などの問題が控えている。この先、病院経営は新型コロナウイルス感染症による経営問題と、その先にある2025年さらに2040年問題まで見据えて考えないといけない状況になっている。
病院経営における状況と今後については前項で記載した。これを踏まえてまずやること、それは再確認だと考える。
再確認する内容としては各医療機関が掲げている病院理念と、それを実行するためのビジョンである。
理念達成のためのビジョン(戦略)が、この先の施策として明確になっているか、その方向性は正しいのか、この確認が重要だと考える。
皆様の病院では病院理念が職員に浸透していて、かつ理念を踏まえたビジョン(戦略)が掲げられ、それに向かった施策を講じられているでしょうか。
ある企業調査のデータをたまたま見る機会があった。それは企業理念などの状況を調査したしたもので、病院を対象としたものではない。しかし興味深いデータであったのでご紹介させていただきたい。
理念が必要と感じている人は98%である反面、理念が社員へ浸透しているかとの問いには「そう思わない・あまりそう思わない」という否定的な意見が53%を占めている。
また、理念浸透の施策を講じていない企業が32%存在するという内容だった。
これはあくまで企業の状況ではあるが、皆様の病院ではいかがでしょうか。
それぞれ国家資格を持つ専門家の集合体となる病院では、基本理念が浸透していない状況では、適切なビジョンは生まれないのではないかと考える。
また基本理念は、今回のような経営危機が起こった場合、方向性や施策の判断に迷うような状況でも的確な判断に向けるための重要なツールだと言われている。
筆者が今まで関わった医療機関でも、病院理念が明文化され、それを実現させるためのビジョンがあり、施策を講じている病院の多くは経営状況が良い傾向にある。
今、世の中が大きく変わろうとしている。
一般企業ではニューノーマルとしてビジネスモデルの変更や、リモートワークなど働き方改革が進んでいる。
しかし、医療機関は保険制度の中でサービスの提供をするといった特殊なサービス提供を行っており、なかなかビジネスモデルを大きく変えることは難しいのが現状である。
筆者は、医療におけるニューノーマルは、まず従来の医療提供体制や経営方針をアフターコロナとその先に向けて、新たな施策を検討することがスタートではないかと考える。
2020年2月に本コラムで、地域医療構想、医師の働き方改革、医師偏在対策の「三位一体改革」について書かせていただいた。
2017年より改革の基本方針を定め、すでにその中にも地域医療構想実現が明記されており、2019年の方針において公的病院のダウンサイジング、機能連携・分化を進め、2020年でそれらを検証する方針を出している。新型コロナウイルス感染拡大の影響がこのような深刻な状況になる前から、三位一体改革の施策がスタートしていたのである。
そのため2020年2月当時でも、働き方改革が進んでいる医療機関では無駄な会議を削減し、業務分担いわゆるタスクシフトなどを実施し改革は順調に進んでいた。一方で、働き方改革が進んでいない医療機関も少なくなかったと記憶している。
上述の地域医療構想で計画していた2020年における検証に関しては新型コロナウイルス感染拡大により一時停滞していたが、地域医療構想については現状を考慮した形で検討が始まり動向が注目されている。
またICT利活用の推進に関してはすでに、患者との接触を減らす仕組みとして問診システムなどの利用が注目される状況となっている。
さらにICTの利活用に関しては、今後の施策に向けて現在の病院状況を判断するといったことから、データの二次利用も注目されている。
これらの内容以外にも各医療機関の現状を考慮した場合、それぞれに注目すべきことはあると考える。
筆者は上述のコラムの中で三位一体改革に向けた施策の具体例として以下を記載した。
改めて、この内容から病院内の取り組み状況を再確認することはいかがだろうか。
病院理念やビジョン、それに基づく病院での施策実行状況などを再度確認し、アフターコロナやその先に向けた動きとして適正であるかの判断をすることが重要だと考える。
また、必要に応じてそれらを思い切って変更・改変することも念頭におくことが大切ではないだろうか。
医療におけるニューノーマル構築として、まずは現状の再確認であると、ここまで書かせていただいた。
それでは、ニューノーマル構築に向けて必要な人材、特にキーマンとなるのは誰であろうか。それは事務長ではないかと筆者は考える。
病院長(理事長)は状況確認し最終決定をする、これは現状でも当たり前なことである。
病院長(理事長)の最終決定をサポートし、判断する材料を準備して助言をしていく、という役割として事務長の関わりが重要である。
1.国の施策、2.病院内部の現状、3.地域での役割・状況など、事務長は多岐にわたる情報収集や分析をすることが可能な職種ではないだろうか。
今後は、優れたマネジメント能力を発揮し、それらの情報(状況)を的確に判断し病院長(理事長)へ助言し、方針決定に大きく寄与することができる事務長が必要だと考える。
その構図ができた場合、病院にとって最適なニューノーマルが構築されると思う。
今回はアフターコロナとその先に向けたニューノーマル構築について筆者の考えを述べさせていただいた。
ニューノーマル構築には医療機関それぞれが、アフターコロナや2025年・2040年問題に向けた施策を理解すること、また病院内でそれに向けて必要なもの(改革・設備投資含め)は何か?それを検討し無駄なく改革していくことが重要ではないかと考える。
次回コラムでは、今回の内容を踏まえ「いよいよ始まるオンライン資格確認は病院にとって必要か」という内容で考えてみたいと思う。
今回の内容が少しでも新たな取り組みに向けて参考になれば幸いである。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。