最近、医療業界でもデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)というワードを耳にすることが多くなったと感じる。医療業界のシステムベンダーや機器ベンダーなどからも、DXに対する取り組みについて話を聞く機会も増えているのではないかと考える。
今回は「医療におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)とは」として、DXについて全2回でお話しをさせていただきたい。
第1回目として、今回はDXの成り立ちや背景、DX推進に向けた仕組みについてお伝えしようと思う。
DXという言葉は2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授が提唱したとされている。コンセプトは「IT浸透が人々の生活をあらゆる面でサポートし、より良い方向へ変えていく」というもので、DX実現により優れた社会が実現できるとされている。
経済産業省は、DXを推進することによって各企業の競争力維持・強化を期待するなか、推進にあたっての問題点・課題をDXレポートとしてまとめた。
このレポートで挙がった問題点・課題を参考にして「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」を作成し、よりスピーディーなDX推進を提唱している。
そのガイドラインの中で、DXの定義は以下となっている。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
DXは日本の企業、産業においてもその注目度は年々高くなっているが、一方でDX成功例はまだ多くないというのが現状である。
医療業界においても、DXという言葉が多く聞かれるようになった現状において、DXは今後ますます推進されていくと考える。
DXの背景として挙げられている内容として「2025年の崖」がある。これは、既存システムが事業部門ごとに分断・複雑化されており、またそれらの管理者が離職・退職することにより、システムがブラックボックス化してデータ2次利用などの弊害が起きる。その結果としてDXが実現できず、維持管理費の増加、セキュリティリスクの高まりなどが指摘されている。
この問題が表面化する時期が2025年前後と言われ、DXが実現できず「2025年の崖」を迎えた際の経済損失は12兆円/年と予想されている。
経済産業省は既存システムに固執することによる国際競争力の低下、経済損失に対して警鐘を鳴らしている。
このような日本経済にとって大きな経済損失や経済成長に向けた問題が背景としてある。
出典:経済産業省ホームページ 平成30年9月 「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開」より
背景(1)では日本国経済におけるDXの背景として話をした、この「2025年の崖」は、実は社会保障分野における「2025年問題」と同様と考えている。
2025年は団塊の世代が後期高齢者となる時期として皆様も十分承知のことと思われる。その結果、医療や介護など社会保障費の急増が懸念され「超高齢社会」がやってくることで、労働人口が不足すると言われている。
労働人口の減少により、社会が自動化・効率化を余儀なくされることも、DXが求められるもう一つの背景となるのである。
経済損失などの背景から、DX推進の必要性がイメージできないようであれば、医療者はこちらの方がイメージしやすいのではないだろうか。DX推進に向けては、その必要性を理解することが重要となる。
医療から見ると、このような背景がある。また、新型コロナウイルス感染症もDXを加速させている背景の一つであることも付け加えたい。
DXと同様に出てくるワードとして「デジタイゼーション・デジタライゼーション」がある、これらはDXとは若干ニュアンスが違うことから、改めて意味を確認したいと思う。
1つの工程で効率化を実現するためにデジタルツール(システム)などを導入すること。
「部分的なデジタル化」
デジタル(システム)化したもので、新しい価値や行動様式を生み出すこと。
「プロセス全体のデジタル化」
実は、この言葉を理解することでDX実現に向けた第一歩となることを理解していただきたい。実現に向けた詳細については次回コラムでお話しをさせていただく。
DX実現に向けては何が必要か? その問いに関して「デジタル化することが目的ではない」ということはまず伝えておきたい。
DXはデジタルを利用した業務改善や企業(病院)経営の競争力維持・強化と話をした。それでは、DXの取り組みに向けては何が必要であるか? これは経済産業省発行「DX推進指標とそのガイダンス」にも以下のとおり記されている。
これらは、経営側自らが回答する内容として記されている。
DX推進に必要となるのは、経営者(経営層)のコミットメントやDXを実現するための企業文化や、DXに関わる優秀人材だということが理解できる。
※キークエスチョン:経営者が自ら回答することが望ましい
サブクエスチョン:経営者が経営幹部、事業部門、DX 部門、IT 部門等と議論をしながら回答するもの。
出典:経済産業省ホームページ 令和元年7月「『DX推進指標』とそのガイダンス」より
DXとは、システム化することを目的としておらず、各医療機関のおかれている問題解決に向けたプロセスであるということは理解していただけたと思う。
医療においては社会保険制度の下でサービスを提供するという特殊な業界ということからも、ビジネスモデルのチェンジは難しい。しかし業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することについてはDXのプロセスは利用できるのではないかと考える。
今回はDXを簡単に説明させていただいた。DX実現に向けたアプローチとしては、用語と枠組みを理解することが重要と考える。
次回は「DXを実現させるために必要な考え方やアプローチ方法」として、DX実現のポイントとなる用語の解説や考え方、さらに枠組み等についてお話しをさせていただければと思っている。
今回の内容が少しでも新たな取り組みに向けて参考になれば幸いである。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。