「『DX推進指標』とそのガイダンス」の有効活用
医療におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)とは(第2回)
2021年7月

執筆者:株式会社 Benett One(ベネットワン)
    代表取締役・診療放射線技師
    米山 正行(よねやま まさゆき)氏

前回はDXの概要についてお話しさせていただいた。しかしこれだけではDX推進に向けて実際なにをしていけば良いのか?と思う方も少なくないと思う。

DX推進に向けた考え方として「『DX 推進指標』とそのガイダンス」(以下ガイダンス)が経済産業省から発行されている。これは企業向けに出されているガイダンスであるが、想定は一般企業向けであり、そのまま活用するのは難しいところもある。ただ、理解することで医療機関でも活用できると考える。

DX推進に向けて、第2回として、今回はガイダンスの内容を中心に医療機関が行うDXについて理解を深めていただければ幸いである。

DX推進指標とは

1)DX推進指標について

DX推進指標の構成については、前回資料2として記載した。今回はこの指標について更にお話しさせていただきたい。

ガイダンスでは、経営幹部、事業部門、DX担当者、IT部門などの関係者が、現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげていくことが不可欠であると記載されている。その確認内容が前回資料2として添付した「DX推進指標の構成」という一覧になる。

ガイダンスでは、この中で定性指標となる項目状況をレベル0~レベル5の6段階で評価することで、現在どのレベルにいて、次にどのレベルを目指すのかを認識する計りに活用するものとしている。

また、この成熟度レベルはあくまでも基本的な考えとしているので、それぞれに見合ったレベル設定に変更して活用することも検討に入るのではないかと考える。

【資料1】成熟度レベルの基本的な考え方

【資料1】成熟度レベルの基本的な考え方
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出典:経済産業省ホームページ 令和元年7月「『DX推進指標』とそのガイダンス」より

さらに詳細項目による成熟度レベル評価に関しては上記に詳細項目が掲載されているので参考にしていただきたい。

2)DX推進指標の使い方

上記指標の活用方法としては、自己診断を基本とし、経営層以下関係者(経営幹部や事業 部門、DX部門、IT部門等)がDXを推進するにあたっての課題に対する気付きの機会となるよう想定しているとお話しした。

また、医療は一般企業とは異なる業種であるため、レベル5に関しては評価が難しいと考えるが、ベンチマークを使用せず院内だけで評価をするのであれば、成熟度の内容変更、もしくは6段階ではなく5段階で評価して現在の院内組織体制などの成熟度(状況)を確認してみてもいいのではないかと個人的には思う。

またベンチマークというワードをお伝えしたが、DX推進指標の評価を「DX関連政策サイト」へアクセスして送付することで、同様に情報提出している企業データよりベンチマークを入手することができる。

しかし業種別の回答で「医療・福祉」はまだ1施設も提出していない状況であるので、ベンチマークを入手されても参考になるかは不明である。

このことから、これらの指標を基に、今後DXに関わる職員間で自施設の課題、問題に対する共通認識をもって、DXの推進に充てるといったことがDX推進指標の使用方法になる。

また定量指標の評価に関しては、病院がDXによって伸ばそうとしている定量指標を自ら算出すると記載されている。

例えば、DXによって患者数の増加を目指すなら、3年後に目指す数値目標を立て、進捗管理していくという方法になる。

医療機関におけるDX推進指標は、主に自施設のDX推進に向けた体制「課題・問題」を関わる職員間で認識合わせすることに使用する。DX推進に向けては、これが第一歩ではないかと考える。

DX実現のプロセスとは

DX実現のプロセス構成には3段階あると言われている。

プロセス1:デジタイゼーション

プロセス2:デジタライゼーション

プロセス3:デジタルトランスフォーメーション

このようなプロセス構成を経てDXの実現となる。よって「デジタイゼーション・デジタライゼーション」と呼ばれる2つのデジタル化を踏んでいく必要があると言われている。

これらの意味を理解することで、病院業務の中で、どのようにDX実現に繋げていくか理解し易くなると思う。

1)デジタイゼーション

簡単に言うと、「限局的なデジタル化」になる。
例えば、オーダリングシステムが導入されている。PACSなど一部の部門システムが動いている、もしくは電子カルテの導入など。

2)デジタライゼーション

簡単に言うと、デジタイゼーションでデジタル化された情報を使って業務効率化を図る、新しい価値や行動様式を創出すること。
電子カルテなどを使って業務効率化、情報共有することにより効率的、効果的な医療提供、医療のスリム化を図るなどして医業収入を上げ職員の待遇を改善。

3)デジタルトランスフォーメーション

業務や組織、プロセスなどの変革をし、競争上の優位性を確立すること。
デジタイゼーション、デジタライゼーションを経て、成熟した組織を構築し新たな患者サービスの創出、持続的な医療提供体制を構築することによって地域の患者から選ばれる医療機関となる。

このようなプロセスを経てDX実現となると考える。DX実現後に継続的に同様なサイクルを回していくことが重要となることを付け加えたい。

DXの具体例

上項でDX実現に向けてのプロセスは3段階あるとお話しした。その2段階まで済んでいることが前提とはなるが、筆者が様々な医療機関でのDXに対する取り組みを調べる中で、ポイントとしては以下の傾向があるのではないかと考える。

  • 外来患者の院内滞在時間減少に向けたもの
  • 患者-医療者の接触減少に向けたもの
  • 医療者の業務負担軽減に向けたもの

これらの改善に向けてDXを実現している医療機関が多いと感じる。

とある地域基幹病院では、新型コロナウイルス感染拡大に対する意見の相違などから院内体制に亀裂が入り、また誤った情報伝達から患者数の激減などの大きな問題に直面した。その状況を病院長が中心となって打開し、さらに新たな改革をDXで実現したという。

キーワードとしては「デジタル化・地域医療構想・働き方改革」である。

ここから打ち出した施策

1)オンライン診療

通常のオンライン診療とは別に術前ICや人間ドックなどの結果説明にも活用。

2)前方連携

クリニックなどの紹介のやり取りをFAX+電話からオンラインへ一元化。
クリニック医師からの医療相談をオンラインで実施。(システム的には1)を活用)

3)後方連携

入院患者の転院先調整をFAX+電話からオンラインへ。転院調整をWeb上で完結。

その他で多い施策

問診システムの活用

患者スマートフォンを活用することにより、患者との接触を極力減らす。また入力された問診内容を診療録へ自動転記することにより、医師の業務負担を軽減。

会計部門でのシステム利用

キャッシュレス、カード後払いなどのシステムの活用。
会計待ち時間軽減や患者滞在時間の軽減につながるとして利用している。

まとめ

医療機関で行われているDXに関しては、やはり新型コロナウイルス感染症が契機となっている状況と考える。

これらの医療機関は新型コロナウイルス感染拡大の影響が深刻になる中、新たにDXに取り組み、患者・職員を守るための体制を構築した。

また、今後予測されている人員不足などの医療資源問題、更にそれぞれの医療機関で抱える諸問題も考慮しながら新たなサービス提供や施策を講じている。まさにこれが、医療機関におけるDXではないかと考える。

今回のDX推進の内容は、ガイダンスをベースに推進指標などの話をさせていただいた。ただ医療機関によっては推進指標のような形に当てはまらないケースもあると考える。

医療におけるDXは、新型コロナウイルス感染拡大などによる経営危機に直面した際、「自施設が競争優位に立てるといった強靭な院内組織体制を構築し、その組織が機能することにより発生する新たな医療サービスなどを、どのようにデジタルを活用して実現するか」といった考え方で進めていっていただければと考える。

今回の内容が少しでも新たな取り組み向けて参考になれば幸いである。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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