2024年4月より適用される「医師の働き方改革」、今回はこちらについて書かせていただきたい。
まず、働き方改自体は2017年3月に施行され、一般企業では大企業が2019年4月、中小企業は2020年4月に既に適用されている。
医療など、労働時間が長い分野に関しては現在適用が猶予されている状況であり、いよいよ2024年4月からの適用となる。
運送業界では働き方改革適用によりドライバー不足が問題となっている。最近は各企業が対策に向けて乗り出しているニュースを耳にしているかと思う。それと同じく医療への適用まで1年を切る中、医師の働き方改革の内容を理解し医療機関が取り組むべき事柄を確認したいと思う。
医師の働き方改革について、現在までの経緯を簡単に確認したいと思う。
2018年2月厚生労働省が公表した資料「医師の働き方改革に関する検討会、中間的な論点整理」の中で「労働時間の適正化や36協定等の自己点検、タスク・シフティング(業務移管)の推進」などの6項目労働時間短縮に向けた緊急的な取り組みが掲げられた。その後2020年の診療報酬改定では重点課題に位置付けられ、2024年4月に施行される医療法の改正事項には、医師の時間外労働の上限規制に向けた対応が盛り込まれるというのがこれまでの経緯である。
これら緊急的取り組みが掲げられ、各医療機関では近年タスクシフトに向けた取り組み、検討が既にされている状況と思われる。
また医師の労働時間の上限規制に関して議論が進められ、労働基準法では時間外労働の上限は36協定により原則月45時間・年360時間であるが、医療という業務特殊性から医師の時間外労働は上限規制の適用外となる。2024年以降は36協定を締結した場合は原則として月45時間、年間360時間までだが、特別条項つきの36協定を締結した場合は月100時間、年間960時間(休日勤務含む)までとなりこれがA水準となった。
また厚生労働省の調査により、時間外労働が1,860時間を超える医師が在籍する病院として以下の調査がある。
令和元年(2019年)の調査では、時間外労働が年1,860時間を超える医師がいる医療機関は平成28年調査に比べ、大幅に減少している、しかし大学病院・救命救急機能を有する病院・許可病床400床を超える病院では、週あたり80時間以上の医師が半数近くいるという現状がある。
地域医療の中枢を担うこれらの医療機関に一般病院の労働時間上限基準を一律に適応した場合、地域医療が機能不全を起こすことが考えられる。
そこで、都道府県特例水準医療機関指定を受けた医療機関は時間外労働時間の上限規制が緩和され、年間上限1,860時間・月100時間未満となった。
このことから、一般病院水準と特例水準医療機関で上限規制が異なる対策がとられた。
もう既に確認されていると思われるが、一般病院と特例水準期間指定を受けた場合の時間外労働時間規制、それに伴う措置、また特例水準機関の要件内容は以下の通りとなる。
資料2:各水準における時間外労働上限・上限を超える場合の面接指導・就業上の措置
資料3:各水準における指定要件内容
これらの指定を受けるには、医療機関は「医師の労働時間短縮計画(案)」を都道府県へ提出しなくてはならない。
労働時間短縮計画では「労働時間数、労務管理・健康管理、医師業務の見直し、タスクシフトの状況」など多くの項目を記載することが求められる。このような医療機関全体としての時間短縮計画を基に、前年度実績からどれぐらいの労働時間削減目標を提示するのかを記載する必要がある。
また申請にあたっては各都道府県に設置されている医療機関勤務評価センターへ申請することになる。
筆者が住む神奈川県では2022年9月16日よりホームページが開設され、申請について「助言・指導」を受けることができる。申請を検討している医療機関はこのような仕組みを活用して相談してみてはいかがだろうか。申請をしない医療機関でも業務改善についての相談も可能とのことだ。
また、2023年4月末時点での全国の申請状況(件数)が公開されているので情報共有させていただきたい。
医師の働き方改革については、医師の長時間労働という点がポイントとなる。
余談であるが、筆者がこれまで勤務した病院でも医師にはタイムカードがなく出勤簿で管理している病院もあった。また筆者が現場で働いていたころ、緊急性の高い診療科の医師が常に勤務しているように見え「先生いつもいますね、いつ家に帰っているんですか?」との問いかけに「家には着替えをするぐらいしか帰ってない、家賃がもったいない」なんて会話したことを記憶している。
このような医師の長時間労働の改善に向けたこの法案、重要なポイントは「労働時間管理・勤務実態の把握」といえるだろう。
最近、筆者が関わった医療機関ではICカードでの出退勤システムを導入し、医師も他職種同様にこのシステムを使って出退勤管理しているとのことで、医師の勤務管理も少し進んできていると感じる。
しかし2024年4月からは更に「外勤先の勤務状況管理」「医師の研鑽時間」など時間管理をしていく必要がある。特にこの2点については現状把握できていない医療機関が多いのではないだろうか。
とあるメーカーに話を聞いたところ、最近はそのような管理ができるシステムの問い合わせが増えているとのことだ。
このようなシステムを利用して、医師の勤務実態と時間外労働を把握するというのも今後の選択肢として考えられるのではないかと思う。
医師の働き方改革で提示されている時間外労働時間上限を超えた場合には、一般企業同様に医療機関への罰則規定がある。
労働基準法141条により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が医療機関に科せられる。
懲役はあまり考えられないような気がするが、罰金30万円をどのように捉えるか。
医療機関からみれば、そんなに大金ではないと思うかもしれない。しかし長時間労働により医師の健康に害を及ぼすことになり、家族から裁判を起こされてしまった場合や、また時間外労働上限の違反を犯した医療機関として、医療機関名の公表となってしまった場合などは、その後の経営に大きな損害を与えると考える。
また、上限を超えたら直ちに罰則規定が適応されるわけではない。罰則適応までは以下のステップを踏むといわれている。
司法処分までいってしまうと病院名公表ということも考えられる。そうならないためにも医療機関一丸となって働き方改革を推進することが重要と考える。
医師の働き方改革が適用されるまでに1年を切ったいま、医療機関がするべき事柄は以下と考える。
5)については、指定申請する医療機関は「医師労働時間短縮計画作成ガイダンス」に労働時間短縮計画案作成の雛形がある。その内容と併せ作成が必要となると考える。
また時間外労働が960時間を超える医師がいない医療機関は、申請する必要もなく働き方改革としてはある意味クリアしている状況である、しかしこの機会に雛形内容もしくは独自の計画を作成し「実施・確認」することをお勧めしたい。
これらをすることによって、医療機関全体の業務改善状況を客観的に確認することができる。また実施状況などを可能な範囲で公開することによって、積極的に業務改善に取り組んでいる医療機関として印象も良くなり、人材獲得に向けても好循環になることも期待できると考えられる。
今回は2024年4月から適応される「医師の働き方改革」について書かせていただいた。
医師は兼業や副業を行っている方も多くいる。主たる勤務先は今後それらの勤務実態も把握する必要があり、その状況に合わせて勤務間インターバルを意識したシフトを考えなくてはいけない。このような状況から医師の勤務実態の把握は必須になると考える。
また、医師以外の医療従事者についても2019年4月より一般の業種の労働者として時間外・休日労働の上限規制が適応されていることから、医師だけではなく、全ての職種で働き方を推進することが重要と考える。
例えば、医師業務のタスクシフトで看護師へ業務移管し、そのために看護師業務が逼迫し看護師の離職が進み病院経営としては大きな打撃を受ける可能性もある。
現在でも人手不足といわれる医療機関にとっては、人材の確保は医師に限らず看護師なども同様の問題と考える。
このようなことから、医師の働き方改革に向けては医師だけではなく医療機関で働くスタッフ全体の業務改善と捉え、働き方改革を推進する必要があると最後にお伝えしたい。
今回は2024年4月から適用される「医師の働き方改革」について書かせていただいた。
皆さまにとって少しでもこのコラムが役に立つことができれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。