以前も医療DXについて書かせていただいた。その際、医療DX推進の背景として「2025年問題」があると書かせていただいた。その2025年が目前となる中、医療DXとしては次のステージとなる「ポスト2025年問題」への対応として医療DX推進に関する工程がテーマとなり検討が進められた。
その工程が2023年6月2日内閣府医療DX推進本部より「医療DX推進に関する工程表(案)」として示され「いつ・なにを・どのように」といった具体的な工程表が示された。
今後、医療DX推進に関しては、この工程表(案)が基本となり推進することが考えられる。
今回は全2回で「医療DX推進に関する工程表(案)」を読み解き、今後の医療DX推進に関してポイントとなる内容を確認したいと思う。
前編として「医療DXのこれまでの流れと、DXの基本的な考え、実現を目指す5項目とその整備内容と時期」を書かせていただき、今後の医療DXの進む方向を確認してみたい。
これまで医療DXとして進められた状況を確認していきたい。
デジタル社会の入口として、国はマイナンバーカードの交付・普及を進めてきた。マイナンバーカードの医療利用としてマイナ保険証の登録を国民へお願いして普及推進を図ってきた。
医療機関ではオンライン資格確認は2024年3月義務化となり、患者様の診療情報や薬剤情報などの閲覧が可能となり、医療DXとしては基盤整備という部分では大きく進歩した。
また2023年11月に電子処方箋の運用が開始され、国により医療分野におけるデジタル化は急ピッチに進んでいる状況だと感じている。
一方で、オンライン資格確認運用開始直前には、先行実施した運用にトラブルが発覚し約半年ほど運用開始が遅れたことは記憶にある方も多いと思う。また直近ではマイナンバーカードの個人情報の紐づけトラブルが多発し、ニュースでも報じられる事態となっている。
ここまでの医療DX推進としては、DXを通じたサービスの効率化・質の向上により、国民の保健医療の向上を図るとともに、最適な医療を実現することを目的に進められている。
例えば、国民は処方箋を電子的に受け取れるため、オンライン診療やオンライン服薬指導をより受けやすくなる。医療機関では患者情報の参照など、患者の過去の検査結果や薬剤の閲覧、重複投薬等のチェックが可能となることにより、負担の大きい重複検査や重複投薬等が削減され、効率的な医療の提供や医療費の削減が期待できる等、医療DXとしての効果が期待されている。
また、利用側である国民のマイナンバーカードの普及とマイナ保険証の普及が課題となっていたが、マイナポイント付与などの施策を実施し一定数の普及率となった。
2023年6月4日時点でのマイナンバーカード登録状況とマイナ保険証登録状況を確認したところ、マイナンバーカード77.1%・マイナ保険証69.3%(資料1)の登録状況となっている。
個人的な意見であるが、オンライン資格確認も義務化したことで、医療機関にまずはプラットホームの窓口は行きわたったと感じている。
日本が置かれている、超高齢化社会・労働人口の減少といった問題が「待ったなし」で迫っている。このような状況の中、社会保障制度の持続を可能とすること、また医療現場における業務効率の促進や効果的・効率的な医療サービスの提供が課題となり、それらを解消するための医療DX推進として「いつ・なにを・どのように」を具体的にする必要があった。
このような状況の中、2023年5月29日第3回医療DX推進本部幹事会において「医療DXの推進に関する工程表(案)」が決定され、6月2日に公表された。
さて、具体的になった医療DX推進工程の中身を確認していきたいと思う。
医療DXの定義とは。
保険・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診療・治療・薬剤処方、診断書等の作成、申請手続き、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報に監視、最適化された基盤を構築し、活用することで、関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えていくことと定義する。
(医療DXの推進に関する工程表(案)より一部抜粋)
上記を医療DXの定義としながら、2030年度を目途に以下の5点の実現を目指すとしている。
誕生から現在までの生涯にわたる保健・医療・介護の情報を PHR(Personal Health Record)として自分自身で一元的に把握可能となり、個人の健康増進に寄与する。
本人の同意を前提として、必要に応じて全国の医療機関等がセキュリティを確保しながら診療情報を共有することにより、切れ目なくより質の高い医療等の効率的な提供が可能となる。
さらに、災害時や救急時、次の感染症危機を含め、全国いつどの医療機関等にかかっても、必要な医療等の情報が共有されることとなる。
医療機関等のデジタル化が促進され、業務効率化が進み、効率的な働き方が実現するとともに、システムコストが低減される。さらに、ICT機器やAI技術の活用による業務支援や、業務改善・分析ソフトの活用等とそれによる合理化を通じて、医療機関等自身がデジタル化に伴う業務改革を行うことにより、そこで働く医療従事者にとって魅力ある職場が実現していく。
また、次の感染症危機において、医療現場における情報入力等の負担を軽減するとともに、必要な情報を迅速かつ確実に取得することを可能とすることにより、対応力の強化も図っていく。
診療報酬改定に関する作業が効率化されることにより、医療情報システムに関与する人材の有効活用や費用の低減を実現し、ひいては医療保険制度全体の運営コストの削減が可能となる。
民間事業者との連携も図りつつ、保健医療データの二次利用により、創薬、治験等の医薬産業やヘルスケア産業の振興に資することが可能となり、結果として、国民の健康寿命の延伸に貢献する。
上記5項目については、国が進める部分・国が医療機関へ求める部分があると感じる。
医療機関としては国が構築する基盤部分の活用と医療機関自身の業務改善が医療DX推進のポイントではないかと感じている。
上記5項目の実現に向けた取り組みとして、関連する仕組みの整備を行っていくとされ、それらの内容を時系列で以下に記載したい。
整備内容と時期については上記となる。この整備内容に対する具体的な施策・到達点については次回コラムで記載させていただきたい。
今回は前編として、これまでの医療DX推進状況と今後医療DX推進の指標となる「医療DXの推進に関する工程表(案)」に記載されている「医療DXの基本的な考え方・2030年までに目指す内容・そのための仕組み整備」のポイントと思う部分について抜粋して書かせていただいた。
工程表では、今までにないぐらい「いつ・なにを」といった内容が具体的に記されていると筆者は感じている。
今後これらが具現化された際には、医療現場の業務が今より効率化されることを期待する一方で、医療DX推進に関しては、現在も発生している情報閲覧トラブルなどに不安を感じている。
安心・安全な医療プラットホームを構築し、多くの国民がこれらの利便性を感じ医療DXにより構築された医療プラットホームにより恩恵を受けられること、また医療機関に関しては業務改善が進み、医療者が安心・安全に働くことができる環境構築ができることを期待している。
次回は後編として「医療DX推進に関する工程表(案)」の「具体的施策と到達点」を確認していきたいと思う。
皆さまにとって少しでもこのコラムが役に立つことができれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。