経営に役立つコラム

勝ち残る企業とリーダーの条件

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第2回
企業を伸ばすリーダーの条件

株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長 新 将命
(元ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 代表取締役社長)

第1回は、優れた企業の普遍的な特徴となる「原理原則」から、勝ち組企業が実践してきた企業創りの流れについて新氏に語っていただいた。全四回の第2回目では、「ジンザイ」を最重要経営資源と定義して、企業を伸ばすリーダーの条件について紹介します。

「そもそも企業にとってのジンザイとは何か?」という素朴な疑問がある。私はジンザイを「企業の戦略を戦術に落とし込んだ上で遂行し、期待する結果を出すための最重要経営資源」と定義付けている。と言うことは、そもそも我が社がどういうジンザイを必要とするかを理解するためには、その前に、我が社に戦略が存在することが大前提となる。“戦略なくしてジンザイなし”である。

私は“ジンザイ”を4つに分けて考えている。

ジンザイの4つの型

上のマトリックスで、横軸のスキルとは仕事力のことである。経営のボトムライン(最終結果)は税引き後の純利益であり、利益を出すためには当然仕事のスキルが必要である。それが営業であるか、経理であるか、人事であるか、製造であるかは会社イロイロ人イロイロだが、ビジネスであるからには仕事上のスキルが無ければ箸にも棒にも掛からない。“手に職がある”ことが必要であり“私の得意技”を少なくとも1つ、できれば複数身に付けていることが肝要だ。また、スキルは「人後に落ちない」というレベルであることが望ましい。このスキルに関しては社内でナンバーワン、あの人に任せれば間違いない、と言う高みを狙いたい。

一方、縦軸のマインドとは日本語で言えば人間力である。人間力という言葉では一寸漠然としているので、もう少し具体的に分かり易く、となれば、私は人間力を構成している重要な要素として「信頼・尊敬・意欲」の3つを挙げたい。その人が他の人から信用され信頼されるような人か、尊敬を受けるような人か、そして何よりも意欲は高いか。自分の意欲が高いだけでなく、部下の意欲を高めることが出来る人か、というイメージである。

信頼される人の共通的特徴というと、「嘘をつかない」、「約束を必ず守る」、「有言実行」、「言行一致」等の言葉が浮かんでくる。また、私利私欲を越えて他利を考えることのできる人にはおのずから尊敬が集まる。

経営者・リーダーはどの型か

右上の象限は、「スキル高・マインド高」という人である。

仕事の能力に優れている上に人間力も高く、人から信頼され尊敬される。その上やる気満々という優れ者である。こういう人こそが人を動かし、仕事を動かし、会社を動かす。

我が社の成長や発展の原動力となるリーダーであり、会社にとっては最も貴重な財産である。
私はこういう人に対しては、「リーダー人財」という尊称をたてまつっている。一般的に企業の中にはスキル高・マインド高のリーダー人財は5%から10%位いる、というのが私の経験的実感である。

右下の象限のジンザイは、「スキル高・マインド低」という人である。スキルが高いので上司から指示された仕事はよく出来る、結果を出すことも出来る、という「デキル人」である。ところが、この人にはひとつ残念なことがある。言われたことはソツなくこなして所期の結果を出すが、自分から積極的に手を挙げるということはない、ということだ。上から指示や命令が降りてくるまでは自分からは動かない。イニシアティブ(率先垂範)がない。ただそこに大人しく存在しているのみ、というイメージで、存在の在という文字を当てた「人在」と呼ぶことにする。右上が指導者であり統率者であるのに対して下は追随者である。右上のリーダーに対してさしずめフォロワーといえる。こういう人が全社員に占める割合は80%以上である。

右上(リーダー人財)と右下(フォロワー人在)の基本的な違いは何かというと、前者が上司から言われたことをキッチリと行う上に自ら仕事を創ることが出来る人であるのに対し、後者は、良い仕事をするのだが、言われたことしかやらないという人であるという点である。指示待ち族であり請負人であり、残念な人である。

次は左上の象限。マインドは高い、意欲満々ではあるが仕事はサッパリという人である。大方の新入社員はこの「スキル低・マインド高」の象限に入る。若いだけに元気一杯だが仕事は全くと言ってよいほど出来ない。将来的には使えるリーダー人財になるかも知れないが今日のところは未知数である。まだ原材料にしか過ぎない、ということで原材料の材をあてがって「人材」と呼ぶことにする。何%いるかはその年に採用した人数によりケース・バイ・ケースである。とりあえずビギナー(初心者)と呼ぶことにする。

最後は「スキル低・マインド低」という左下の人である。仕事もできないし、やる気もないし信用もできない、というお粗末なジンザイである。この人の存在は企業の成長や発展に寄与貢献するどころか、むしろ邪魔になる、という困り者である。その人の存在そのものが会社に対して罪を形成する、という意味で「人罪」と呼ぶのが相応しい。いわばルーザー(敗者)である。通常、企業の中には、こういう人罪が3%から5%位は生息している。

魚は頭から腐る

そこで結論。企業の中には右上の「リーダー人財」が一人でも多いことが望ましい。

理由は簡単で、もし我が社の中に右上に入る人が皆無だとするならば、それは取りも直さず、我が社にはリーダーが一人もいないということを意味するからだ。そんな企業が勝ち残る企業になるとは考えられない。

「魚は頭から腐る」というロシアの諺がある。魚は尻尾からは腐らない。頭から腐る。企業も同じことで、新入社員から腐るといことはあり得ない。腐るとすれば頭から腐り始める、トップであり、経営者であり、社長から腐る。

「馬鹿な大将敵より怖い」という皮肉な言葉がある。我が社を勝ち組会社としたいならばひとりでも多くの社員を右上の「リーダー人財」に育てる必要がある。それならば、誰から始めて右上の象限入りを図るべきか、というと“自分から”ということになる。「まず隗より始めよ」ということである。

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株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長
新 将命(あたらし・まさみ)

外資系企業の経営中枢で活躍してきた国際派経営者。早稲田大学卒業。日本コカ・コーラ株式会社市場開発本部長、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社社長、サラ・リーコーポレーション副社長、日本フィリップス株式会社副社長などを歴任。現在は、株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役を務める。

(監修:日経BPコンサルティング)