経営に役立つコラム

勝ち残る企業とリーダーの条件

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第4回
グローバルリーダーの条件

株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長 新 将命
(元ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 代表取締役社長)

第3回は、社員満足(ES)と顧客満足(CS)の関係性について語っていただきました。最終回の今回は、世界を舞台に活躍して実績を上げることが出来るグローバルリーダーになる条件を3つ紹介します。

今何故グローバルリーダーが求められるのか

IMF(国際通貨基金)のデータによると、世界のGDPの中に日本の占める比率は、1990年15%、2000年14%、2012年8%、そして直近の2013年では、6.6%。一方、ロンドンエコノミストの予測では2030年には3.4%、2050年には1.9%にまで下落するというショッキングな推計である。少子高齢化の波が進む中では経済が国際比較の面から相対的地盤沈下を呈することは避けられない。それにしても15%(1990年)から1.9%(2050年予測)というのは凄まじいばかりの凋落である。

国内の総需要に陰りが出て精々2%~3%程度の経済成長しか期待出来ないというマクロ環境の中で、企業が勝ち残るためには事業活動の軸足を国内のみに置いていたのではさしたる成長は望むべくも無い。国内での競争力は保ち、地盤は確保しながらも軸足を海外にシフトする必要がある。

「フォーチュン」誌の調べによると、「フォーチュン・グローバル500」の企業の中に占める日本企業の数は、1995年は141社で全体の28%であった。それが2010年には71社(14%)と下がり、2013年には62社(12%)と、この18年の間に半減している。これまた凋落と言わざるを得ない。

この凋落傾向に少しでも歯止めをかけ、世界の中での日本及び日本企業の存在感(PRESENCE)を保つために日本という国が最も必要としている最重要国家資源は、世界を舞台として活躍して実績を上げることの出来る人、即ちグローバルリーダーである。そして我が国に最も枯渇しているのがグローバルリーダーなのだ。

米国のフォーチュン500社の中で、副社長以上の経営職にインド人が就いている企業の数は200社に及ぶという。一方、日本人はというとゼロである。一人もいない。シリコンバレーで起業するのは大半がインド人、イスラエル人、台湾人である。日本人はこれまたゼロである。

「源氏・陸軍・国内派」、「平家・海軍・国際派」という言葉がひと頃流行った。その心は、前者は主流派、後者は非主流派という、一種の二元論である。

GDP比率が15%もあり、国内経済がロバスト(たくましい)という時代には経営の目は主に国内に向けていれば、ある程度の成長を遂げることは出来た。ところがグローバル化、IT化、多様化の大波が押し寄せて来て、国内だけを相手としているだけでは埒が明かないというマクロ環境の中では、企業の采配を振るうトップリーダーはドメスティックジャパンのみに留まらずグローバルに通用する人でなければならない。今こそ「源氏・陸軍・国内派」ではなく、「平家・海軍・国際派」の出番である。「グローバルな時代、マルドメではマルダメ」ということになる。「我が社は海外には興味はない、未来永劫日本だけ!」という固い決意の企業は別として、経営の軸足を海外にも移したいという企業の場合、求められるのは世界で通用するグローバルリーダーなのである。

グローバルリーダーに求められる条件

それならばグローバルリーダーにはいかなる能力や資質が求められるのか。

私は「優れたグローバリストになる前にはその前に優れたローカリストでなければならない」という持論を唱えている。優れた国際人であるためには優れた国内人、すなわち日本人であるべき、ということである。日本の文化、歴史、宗教、文学などについての幅広い知識と教養があり、正しい日本語が話せるという基本中の基本である。英語が話せる前には正しい日本語が話せなければならない。シェイクスピアを読む前には源氏物語を読みたい。ワインについての薀蓄を傾ける前に日本酒の味は知っておきたいということである。

もうひとつ、自分の国(日本)に対して誇りを持ち愛している、と言う条件も加えたい。極端な国粋主義(NATIONALISM)ではない。自国を愛し、郷土を愛するという純粋な愛国心(PATRIOTISM)である。そもそも自国に関して必要以上に卑下して悪しざまな発言をする人はまともな日本人とは考えられない。

優れたグローバルリーダーになる前には優れたローカルリーダーであるべきだ、という前提を置いた上で、それならば、これからのグローバルリーダーには如何なる条件が必須なのかということに話を移したい。

特に重要な条件は3つある。

第一に、何と言ってもダントツに重要な条件は、「殻を破る力」である。「狂気とは昨日までと同じことをやり続けて明日が変わると期待することである」という一寸ひねった表現がある。環境や経営のパラダイムがビシビシ、ガタガタと大きな音を立てて急激に変わっている時代には、企業でも個人でも今までと同じ殻に閉じこもっていたのでは変化に取り残されてしまう。早晩、競争に敗れて没落するという運命が待っている。国内市場という快適ゾーンからのブレークスルーが必要である。日本固有の農耕民族的な村文化の特徴である“しがらみ”や“前例主義”や“序列”などの桎梏(しっこく)からの脱却を思い切って、それもスピーディーに図らない限り、国内派はいざ知らず、国際舞台では勝ち残るどころか生き残ることさえも出来ない。

「この道はいつか来た道」ではなく「新しい道」を切り開く必要がある。地球上には新しい道がいくらでもある。ビジネスモデルや意識の面でガラガラポンと従来のムラ文化をご破算にして、地球儀の上に立ってものを考える意識と能力が求められる。故盛田昭夫氏の“グローバリゼーション”という言葉は今でも命を失っていない。グローバルリーダーはチェンジエージェントでなければならない。「大変の時代、大変しないと大変だ」。これは私の造語である。

第二に挙げたいのは、リーダーシップ能力である。ローカルリーダーであれグローバルリーダーであれ、リーダーにはリーダーシップ能力が必要である、という当たり前過ぎるほど当たり前の話である。リーダーシップ能力は次の3点でほぼ説明出来る。

  1. ①企業の方向性(=理念+目標+戦略)を説得性と納得性高く明示することにより、人の心に火を付け「やらねばならぬからやる」という強制動機ではなく、「やりたいからやる」という内燃動機をインスパイアー(鼓舞)できる。
  2. ②自分及びチーム目標を、法的及び道徳的に正しいプロセスを経ることにより達成して、結果が出せる。
  3. ③スキル高、マイルド高のリーダー人財を育成することにより企業の継栄(継続的繁栄)に貢献できる。

第三として、最後に挙げたいのは「英語によるコミュニケーション能力」である。

「優れたリーダーは優れたコミュニケーターである」という言葉がある。ジョン・F・ケネディー、ロナルド・レーガン、ビル・クリントン、サー・ウィンストン・チャーチルなど、西欧の優れた政治家はコミュニケーション能力に秀でている。コミュニケーションにより、人の心を動かし、人を望ましい方向に動かすことが出来る。反面、「すべてのビジネスの失敗の80%以上はコミュニケーションの不備に起因する」とも言う。

グローバルビジネスの共通言語は英語である。中国語を話す人は14億位いるが、所詮中国語はローカル言語にしか過ぎない。世界的汎用性は無い。従って、これからの日本人、それもグローバルリーダーたらんことを目指す人にとって欠かすことの出来ない最も重要な能力のひとつは、「英語を武器としたコミュニケーション能力」である。と同時に、英語力とコミュニケーション力というこの2つの能力は、世界のどの先進国のビジネスパーソンと比較しても、日本人が最も劣っていて、最も苦手とする能力でもある。この2つのスキルに磨きをかけない限りはグローバルリーダーになることはまず不可能である。「英語能力よりは、話すコンテンツやサブスタンスの方が大切だ。英語はどうでもいい」と言う人もいるが、これは本当のビジネスを知らない人の暴言であり妄言である。どんなに立派な中味があっても相手に伝わらなければ無いのと同様である。

私は日本のグローバル化を阻む最大の壁は英語力とコミュニケーション力だと考えている。

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株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長
新 将命(あたらし・まさみ)

外資系企業の経営中枢で活躍してきた国際派経営者。早稲田大学卒業。日本コカ・コーラ株式会社市場開発本部長、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社社長、サラ・リーコーポレーション副社長、日本フィリップス株式会社副社長などを歴任。現在は、株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役を務める。

(監修:日経BPコンサルティング)