令和6年度診療報酬改定(その3) 2024年7月

執筆者:株式会社 アイ・ピー・エム
    メディカル事業部長
    小西 英樹(こにし ひでき)氏

前回は、今年度の診療報酬改定の目玉の一つである「医療DXの推進」について触れたが、今回は入院基本料等の見直し及び「急性期一般入院料1」等の施設基準の見直し等について記載する。

入院基本料等の見直し

次に掲げる3項目は、筆者が2024年5月のコラム「令和6年度診療報酬改定(その1)」(注1)で「入院料通則に関するもの」として既にご紹介しており再度の記載となるが、これは、通則の見直しで、この基準をクリアしない場合は「入院料を取得できないことになる」非常に大きな見直しとなるので、復習としてご覧いただきたい。

(1)栄養管理体制の基準が明確化

施設基準の内容に2カ所の加筆がなされた。

  • 標準的な栄養スクリーニング
  • 退院時を含む定期的な評価

また、栄養管理スクリーニングは、GLIM(Global Leadership Initiative on Malnutrition) (2018年に世界栄養学会が策定した低栄養の診断基準)を活用することが望ましいと記載されている。

(2)意思決定支援に関する指針の作成が算定要件に!

1)入院料を算定する医療機関

本人の意思が確認できない場合でも、本人にとって最善の方針を医療・ケアチームで慎重に判断できる体制にあることが大切で、それに伴う指針の策定が入院料算定の要件とされたのは次のとおり。

  • 小児特定集中治療室管理料
  • 総合周産期特定集中治療室管理料
  • 新生児特定集中治療室管理料
  • 小児入院医学管理料又は児童・思春期精神科入院医学管理料を算定し、外来も開設している医療機関 等

2)以下の届出を行う医療機関も指針の作成が策定要件となった

  • がん患者指導管理料
  • 地域包括診療料
  • 地域包括診療加算
  • 認知症地域包括診療料
  • 認知症地域包括診療加算 等

(3)身体的拘束を最小化する体制整備

患者又は他の患者等の生命又は身体を保護するために行う場合を除き、「身体拘束が原則禁止!」になった。

この基準を満たすことができない保険医療機関については、入院基本料(特別入院基本料等除く)の所定点数から1日につき40点が減算されることになる。

しかしながら、やむを得ず身体拘束を行う場合があることは認めざるを得ないところもあり、その際は次のような対策が立てられている必要がある。

  • カルテ等への記録
  • 身体拘束最小化チームの設置
  • 日々の実施状況の周知徹底
  • 最小化のための指針作成 ※定期的な見直しが必要

いずれにしても安易に「身体拘束」が行われるべきではなく、筆者は、思春期の子供にこの身体拘束が実施され、その是非について争った民事裁判を経験している。

病院職員の賃上げを目途に行った入院基本料等の見直し

※これは、40歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げを目途に行われるもので、主な内容は次のとおり

入院基本料の名称 改正前 改正後 増減
【一般病棟入院基本料】
急性期一般入院料1
1,650点 1,688点 38点
【療養病棟入院基本料】
療養病棟入院料1 入院料G
968点 入院料25に名称変更
983点
15点
【精神病棟入院基本料】
15対1入院基本料
830点 844点 14点
【特定機能病院入院基本料】
7対1入院基本料(一般病棟の場合)
1,718点 1,822点 104点
【回復期リハビリテーション病棟入院料】
回復期リハビリテーション病棟入院料4
1,841点 1,859点 18点
【地域包括ケア病棟入院料】
地域包括ケア病棟入院料1
2,809点 40日以内 2,838点 29点
41日以上 2,690点 △119点

重症度、医療・看護必要度のここが変わる!

(1)原則看護必要度Ⅱでの算定が義務化

令和6年4月より次の入院基本料を算定する病院は、看護必要度Ⅱでの算定が義務化された。

経過措置

令和6年3月31日において現に届出を行っている病棟については、令和7年9月30日までの間に限り、必要度Ⅱを用いた評価に係る要件を満たしていると見做される。

  • 急性期一般入院料1(7対1)
  • 急性期一般入院基本料2~3(10対1)で200床以上
  • 急性期一般入院基本料4~5(10対1)で400床以上

(2)7対1病棟では、B項目の評価がなくなる!

B項目は、患者のADL(日常生活動作)とそれに伴う看護師のケア業務を評価するものであるが、「看護」というより「介護」に近い評価ということで、今回除外された。

しかしながら、測定は引き続き行わなければならないということなので、記録業務の負担は継続しそうだ。

また、急性期の中でも急性期一般入院基本料2~5(10対1病棟)では、引き続き「B項目の評価」は継続することになっている。

(3)看護必要度を満たす基準の変更

今回の改定で、7対1病棟では、次の基準⑴・基準⑵をどちらも満たすことが必要となった。

  • 基準(1):A項目3点以上またはC項目1点以上が入院患者の20%以上
  • 基準(2):A項目2点以上またはC項目1点以上が入院患者の27%以上

このように、7対1病棟を維持するには、より急性期らしさを持った病棟でなければ、高い入院基本料算定の継続は難しくなりそうである。

つまり基準(1)でも(2)でもC項目が1点以上あれば、基準を維持できるので、いかに手術入院の受け入れが大切かということがわかる。今後、外科系の医師は、益々忙しくなりますね。

(4)A項目「救急搬送後の入院」は 5日→2日へ短縮

A項目で2点の算定が可能である「救急搬送後の入院」「緊急に入院を必要とする状態」は、5日から2日に短縮されることになった。

また、急性期一般入院料1(7対1病棟)では、「平均在院日数」の条件は、18日から16日とさらに短縮された。

こうなってくると、救急搬送はされたが、搬送後あまり処置・管理の必要のない状態で落ち着いた患者等は、急性期病棟からの転棟・転院を早めに促す動きが強まっていくことになり、日々ベッドコントロールに苦戦している病院では、その業務を担当している看護師等の手腕が一層問われることになる。

(5)「注射薬剤3種類以上の管理」において、静脈栄養は除外された!

A項目の「注射薬剤3種類以上の管理」において、今まで評価期間が7日までと上限が決められていたのに加え、「アミノ酸・糖・電解質・ビタミン」など静脈栄養系の薬剤は、対象から除外されることになった。

これは、厚生労働省がレセプトデータを詳細に調べたところ、次の2点の傾向が確認されたことによるものだ。

  • 重症度・緊急度が低い病棟ほど、3種類以上の薬剤の使用が長い。
  • 使用期間が長いほど、抗菌薬・抗ウイルス薬などよりも静脈栄養系の薬剤が多くなる。

新設された地域包括医療病棟とは?

1日あたり少なくとも32,000円+出来高部分が算定できる病棟である。

項目 点数
従来の地域包括ケア病棟入院料 2,831点
増点 219点
地域包括医療病棟入院料 3,050点
初期加算(2週間まで) 150点
1日あたりの入院料(2週間まで) 3,200点

地域包括ケア病棟と大きく異なるところは、包括範囲にリハビリテーションが含まれていないことが特徴で、また、看護配置は10対1である。

このことについては、リハビリを実施しても実施しなくても「まるめ」で包括されていた地域包括ケア病棟とは異なり、理学療法士、作業療法士及び言語聴覚士は、自分たちの頑張りが「出来高」で評価されるので、モチベーションもアップすることになるであろう。

しかしながら、従来の地域包括ケア病棟の算定は継続されるが、改正前は60日まで算定できた点数が40日を超えると大きく減算される仕組みとなった。地域包括ケア病棟の算定を続けるか、新たに地域包括医療病棟として届け出るか、綿密な検討が必要のようだ。

終わりに

いずれにしても厚生労働省は、日本の医療制度において高い入院基本料を算定する医療機関は「より急性期らしい患者」を診てほしいと考えており、そのために高齢者の救急搬送の受け皿となる病棟を確保したいという意図が見える。

さて、今回で3回の連載となった筆者の「令和6年度診療報酬改正」に係るコラムであるが、次回は“その4”となる。読者に伝え忘れている内容はないか? もう一度振り返ってみようと考えている。

注1 コラム「令和6年度診療報酬改定(その1)」

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