今号から、国際ビジネスブレイン 代表取締役社長の新将命氏に、勝ち残る企業とリーダーの条件について4回に分けて語っていただく。第1回は、勝ち組企業が実践してきた企業創りの流れについて紹介します。
最近の統計によると、日本企業の平均寿命は18年であるという。一方、日本人の平均寿命は83年。人間の寿命は企業の寿命よりも5倍近く長い。ところが---である。
どんなに長生きしても人間は精々100歳か110歳までしか生きられない。ところが、企業は、メンテナンスによっては100年も200年も生きることができる。
現に、日本には創業以来200年以上の歴史を持つ企業が3,500社もあるという。
「あなたは外資系企業の経験が長いですが、外資系企業の強みは何ですか」という質問を受けることがある。私は「そんなものはありません。あるとすれば“優れた会社の強み”があるだけです」と答えることにしている。評論家や学者の中には、「経営の国際比較」的な論評に熱心な人がいる。「アメリカ企業は短期志向、日本企業は長期志向」、「アメリカ企業は人を大切にしない。日本企業は人を大切にする」のような二項対立的論議である。だが、私の長年に亘る現場経験から言えば、優れた企業には基本的に国籍や国境はない。国籍や国境を越えた普遍的な特徴があるのみだ。
そもそも企業は好むと好まざるに拘らず3つのグループに分類される。①つぶれる企業、②生き残る企業、③勝ち残る企業、である。1千万円以上の負債を抱えて倒産した企業が昨年(2013年)は、9,850社あったという。一日平均27社が倒産している。ベンチャー企業の80%以上は3年以内に倒産するという説もある。残った約20%の企業の中の80%以上がその後の3年以内にこの世から姿を消す。次の“生き残る会社”とは“とりあえずつぶれない”という“そこそこ企業”である。どの業種、業界を見てもこれが全企業の90%以上を占める。最後の“勝ち残る企業”とは業績が好調で売上げや利益の伸びが業界平均や競合他社よりも高い、しかも将来に向かっての右肩上がりが読めている、顧客には評価、感謝されている、働いている社員が金銭的にも、精神的にも充実感や満足感を味わいながら仕事に当たっている、という感じの“イキイキ企業”、“ワクワク企業”のことで、これが全企業の10%以下を占める。
アメリカ、イギリス、オランダ、日本の代表的企業で40年以上に亘る経営経験を積んだ
結果として分かったのは、前記の勝ち残る企業、強い企業には洋の東西、業種業界、企業規模の大小に関係なく普遍性高く共通する「原理原則」があるということである。
原理原則の対極には「我流・自己流・無手勝流」がある。後者に固執して、前者を学ばないと、企業は早晩壁に突き当たる。パタッと伸びが止まってしまう。
一方、「原理原則」を学び実行に移すと壁を破って一段と成長することが可能になる。「成功している会社は何故成功しているのか。成功するようにやっているからだ。失敗している会社は何故失敗しているのか。失敗するようにやっているからだ」。これは、故松下幸之助氏の言葉である。勝ち組企業は成功するための原理原則を身に付けて実行に移しているのだ。
それならば成功する企業、勝ち残る企業の原理原則は何か、ということを示したのが
次に示す、私の手製のフローチャートである。
このフローチャートから言えることが3つある。第1は、株式会社にとって最も重要な最終的責任の対象としての株主に対する責任を継続的に果たし、株主満足を実現させるためには、その前段階にキッチリと行なわなければならないことがいくつかある、ということである。顧客、取引先、社会、社員を含むステークホルダー(利害関係者)に対する責任がそれである。第2は勝ち残る企業になるための流れの原点は、“経営者”と“社員”という“ヒト”であり、順番からいうと、商品という“モノ”や“サービス”は“ヒト”の後に顔を出している、ということでる。第3は、流れの最原点には“経営者品質”が来るということである。ロシアには「魚は頭から腐る」という諺がある。魚でも企業でも腐る時は尻尾や新入社員から腐るということはあり得ない。頭から腐り、社長から腐り、経営者から腐る。「馬鹿な大将敵よりも怖い」という言葉もある。会社にとって最も重要なのは経営者品質、即ち社長を頂点とする経営者の品質であり、その次に社員の品質が続く。正に“企業は人なり”である。
“企業は誰のものか”という議論がある。所有という観点から言えば、企業は株主のものに決まっている。だが「企業は誰のためのものか」となると「みんなのためのもの」即ち“ステークホルダー全員のためのもの”と考えるべきである。
企業が株主満足を継続的に果たすためには前述のフローチャトが示すように、顧客、社会・環境、社員等のすべてのステークホルダーを含む、「みんな」の満足をバランスよく果たす必要がある。この連鎖がどこかでプッツリと切れると企業のサステナビリティー(持続可能性)は覚束なくなる。
企業の価値を短期間で最大化して株主満足、それも、短期的満足の実現を狙うことのみに明け暮れる経営スタイルを“株主資本主義”と言う。対するに、ステークホルダー全員に対するバランスのとれた、短期に加え長期的配慮を前提としたスタイルを“ステークホルダー資本主義”という。正に、近江商人のいう「我よし、人よし、世間よし」という三方よしの世界である。単に生き残る企業ではなく、勝ち残る企業であるためにはステークホルダー資本主義を採らなければ会社の寿命は18年又はそれ以下で終わってしまう。
経営者が、上記の勝ち残る企業創りのための「原理原則」としてのフローチャートを理解して、時間の助けを借りながら、このフローチャートをキチンと創り上げた場合、会社は年を取らない。活性度の高い、若々しい会社であり続けることが可能となる。そこには、「不老(フロー)チャート」が生まれる。反面、フローの中のどこかに大きな欠点や欠陥があると、「不良チャート」と化してしまう。
経営者の最大の責務は「不老(フロー)チャート」を創ることである。
さて、あなたの会社のフローチャートは「不老チャート」か?それとも「不良チャート」か?
若し、「不良チャート」だったとすれば、どの点が不良なのか。どう手直しするのか。
経営者が身に付けておきたい最も重要な「原理原則」とはこういう視座のことである。
株式会社国際ビジネスブレイン 代表取締役社長
新 将命(あたらし・まさみ)
外資系企業の経営中枢で活躍してきた国際派経営者。早稲田大学卒業。日本コカ・コーラ株式会社市場開発本部長、ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社社長、サラ・リーコーポレーション副社長、日本フィリップス株式会社副社長などを歴任。現在は、株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役を務める。
(監修:日経BPコンサルティング)