新たな「総合経済対策」のその先にあるもの
~成長への転換と地域社会の明日を考える~

シンギュラリティ前夜に描くDX戦略の核心 [第2回]
2026年2月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

2024年11月21日の臨時閣議において、高市政権が発足して初となる超大型の総合経済対策「『強い経済』を実現する総合経済対策」が決定されました。

新政権が誕生したら「また経済対策?」「これまでの政策と何が違うの?」、そんな声も聞こえてきそうですが、今回の政策パッケージ、中身を紐解いてみると、これまでの経済対策とは「熱量」が違うように感じられます。

事業規模は約42.8兆円、国費投入だけでも約21.3兆円。この金額の大きさもさることながら、その背後には「行き過ぎた緊縮財政からの脱却」と「積極財政による国力強化」という、新政権の並々ならぬ信念が見え隠れしています。

今回のコラムでは、この新たな経済対策の全貌を読み解きながら、「地方自治体への影響」や「私たちの地域がどう変わるのか」という視点を中心に考えたいと思います。

事業規模42.8兆円に見る本気度

今回の経済対策の基本スペックを冷静に見ると、事業規模 約42.8兆円、国費 約21.3兆円、これは単なる景気刺激策というレベルを超えています。

日本経済が長年抱えてきた「デフレマインド」を完全に払拭し、構造的なインフレや不安定な世界情勢に負けない「強い経済」を作るため、国家として「投資」するという意気込みが強く感じられます。

内閣府公表の資料によると、高市首相が以前から主張している「危機管理投資」や「成長投資」に重点が置かれるなど、単に現金を給付するような対症療法ではなく、「将来稼げる国・地域にするための種まき」に重きを置いている点が特徴です。

そして、今回の対策で注目すべきは「省力化投資」への支援です。人手不足で賃上げ原資がない中小企業に対し、ロボットやAI導入を強力に支援することで、「生産性を上げて給料も上げる」という好循環を図り、「良いインフレ」への適応によって物価高を克服し「構造的な賃上げ」を狙っていると思われます。

半導体、蓄電池、AIなど、これら重要物資の国内生産拠点を整備するために、巨額の予算を投入するとともに、スタートアップ支援や、中堅企業の海外展開支援など、「稼ぐ力」を強化するメニューによって、国内投資促進を目指しています。

また、大きなポイントとして、「防災・減災」にとどまらず、サイバーセキュリティ対策や、重要インフラの防御強化が含まれていることから、地政学的なリスクが高まる中、経済活動を止めないための「守り」もまた、経済対策の一部であるという、国土強靭化と経済安全保障に対する考え方に、この対策の特徴が表れています。

デジタルと強靭化の融合によるインパクト

さて、ここからが今回の経済対策が目指す「核心部分」になりますが、この42.8兆円という巨額のパッケージ、既存の経済対策と何が異なるのか、キーワードは「デジタルと強靭化(レジリエンス)の融合」です。これからの自治体政策は、以下のポイントを押さえておく必要があります。

これまでのDXでは「住民票がコンビニで取れる」など、利便性が重要視されていました。しかし、今回の対策では「安全性」が最優先事項に格上げされ、自治体の業務システム標準化が佳境を迎える今、「重要インフラとしての自治体クラウド」の確立が求められていると思われます。

この方向性は、自治体が管理する社会インフラへのサイバー攻撃を防ぐための、国レベルのセキュリティ監視網(アクティブ・サイバー・ディフェンスの一環)に接続するシステム改修費が手厚く配分されるなどの「能動的防御」支援にも表れています。

そしてその一方で、「ガバメントクラウド」への移行コストに苦しむ自治体に対して、セキュリティ要件を満たすことを条件に、追加の財政支援(移行費用の補助率アップなど)が盛り込まれるなど、「ガバメントクラウド」移行の追加支援にも配慮されています。

自治体の側から見ると、「便利になります」という企画書よりも「有事でも止まらないシステムを構築します」という企画の方が、今後は予算を獲得しやすい傾向にあると考えられます。

「国土強靭化」の予算も、単に補修するだけではなく、人口減少によって人手不足が深刻化する諸問題に対応するため、「省人化×強靭化」がセットになり、以下のような取り組みの重要度が増しています。

橋梁やトンネルの点検を自動化するため、ドローンやセンサー、AIを活用した常時監視システムの導入に対する支援が、初期投資として行われる可能性が考えられます。また、ハザードマップの紙ベースの配布ではなく、仮想空間上で水害や土砂崩れをシミュレーションし、避難計画を精緻化する『デジタルツイン』を用いた防災対策に、重点的な資源配分がなされると予想されます。

「守り」から「攻め」への転換

世界の各地で紛争が頻発し、地政学的リスクが高まる中、輸入燃料に頼らないエネルギー基盤の確保は国策の一丁目一番地であり、ここで地方に求められているのが「地域マイクログリッド」政策の推進です。

今回の経済対策では、太陽光やバイオマスなどの再生可能エネルギー設備導入支援に加え、「災害時に地域だけで電力を自給自足できるネットワーク構築」に対して、かなり踏み込んだ補助額が設定されています。

これは、単なる環境対策(GX)ではありません。海外からの燃料供給が停止しても、市役所や病院など、公共施設の機能を維持するための「防衛策」としてのエネルギー政策が求められているのです。

最後に、悩ましい「人手不足」への処方箋です。42兆円の事業規模があっても、それを執行する自治体職員の人員不足、この難題を解決するため、国は「広域連携」に強力なインセンティブを用意しています。

例えば、近隣の複数自治体にてシステムを共同で導入・運用することや、防災に関する資機材を共同購入・シェアする場合など、単独で実施するよりも補助率が優遇される仕組みが強化されると思われます。

また、共通の課題を持つ自治体同士で連携する「連携中枢都市圏」のような枠組みに対し、「デジタル人材のシェアリング費用」なども国費で面倒を見るメニューが登場しています。

近隣市町村はライバルではなく、生き残るためのパートナー。このような認識を首長や議会が持てるかどうかが、今回の経済対策の恩恵をフル活用できるかの分かれ目になりそうです。

そして、今回の政策パッケージ、地方自治体に対して「DX」と「強靭化」を武器に、自立して戦える地域になれと促しているようにも見えます。このように考えると、既存の仕組みを一気にアップデートする、またとないチャンスなのかもしれません。

「配る」から「稼ぐ」地域への転換

「強い経済」といわれても、消費者の側から見ると、日常の買い物が安くならなければ実感は湧きません。しかし、今回の政策パッケージで政府が目指すものは「給付」よりも「所得増」にあります。

中小企業の賃上げを後押しする税制優遇の拡大やリスキリング(学び直し)支援によって、物価が上がってもそれ以上に給料が上がる社会を目指しているのです。

私たち住民の側も、ただ賃上げを待つだけでなく、この機会に国の支援制度を使って資格を取得したり、スキルアップしたりすることが、「強い経済」の恩恵を受ける一番の近道になるかもしれません。

もちろん、手放しで喜べない課題も残っています。42.8兆円という予算規模は、裏を返せばそれだけのリスクも含んでいるからです。今回も巨額の国費(約21.3兆円)が投入されますが、その多くは国債つまり借金で賄われています。

高市政権では、「デフレ完全脱却までは積極財政が必要」という認識のようですが、インフレが定着しつつある今、アクセルの踏み加減を間違えれば、金利の上昇や過度な円安を招くリスクもあります。

42兆円分の事業を消化しようとしても、人手不足で入札不調が続出したり、工期が遅れたりする「消化不良」が起きる可能性が高いことも事実です。予算を使い切ること自体が目的化し、質の低い事業にお金が流れることだけは避けなければなりません。

今回の経済対策は非常に魅力的ですが、あくまで一時的な「カンフル剤」です。「国から補助金が出るからやる」のではなく、「この投資で、地域が自力で稼げるようになる」という出口戦略を持てるかどうかが重要です。

例えば、観光分野なら「補助金でWi-Fiを整備して終わり」ではなく、「それを使って富裕層のワーケーションを誘致し、外貨を稼ぐ」などのストーリーを描けるか、自治体も企業も「もらう力」より「稼ぐ力」が問われるフェーズに入ったともいえます。

地域社会の再起動へ向かって

「強い経済」とは、大企業が儲かることではありません。災害が来てもすぐに復旧できる強靭な地域や、働けば報われる賃金体系、そして、世界の変化に左右されない自律したエネルギー政策、これらを実現するための「種」は、今回の42.8兆円の中に散りばめられています。

しかし、その種を育て、花を咲かせるのは、政治家や官僚ではありません。地域の現場にいる自治体職員であり、地域の地元企業であり、そして日々働き、暮らしている私たち一人ひとりなのです。

いま、私たちに求められているのは、「国が何かしてくれる」と待つのではなく、この予算を活用してDXを推進するなど、自分たちが暮らす地域をより良くしてやろうという、「自治の気概」ではないでしょうか。

将来、過去の歴史を振り返った時、今回の「総合経済対策」が、日本の転換点だった、といわれる日が来ることを祈るばかりです。

シンギュラリティ前夜に描くDX戦略の核心

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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