最近まちを歩いていると、大きなスーツケースを持って移動するインバウンド観光客をよく見かけるようになりましたが、そもそも彼らは何故あんなに大量の手荷物を持ちながら観光しているのでしょうか。
以前、「中華系の人々は、他人に荷物を預けるという行為を良しとしない」という話や、彼らの先祖は広大な大陸を家財道具一式を持ちながら移動する遊牧民であったという話など、色々な説を聞いたことがありますが、調べてみると別の理由が見えてきました。
私の地元、大阪の主要な駅周辺(新大阪・大阪・なんば・心斎橋)にあるコインロッカーの数は、全てのエリアを合わせても6,530個しか設置させていません。
また、首都圏の例では、1日50万人が訪れる渋谷駅周辺にあるコインロッカーは1,400個しか設置されていないのが現状です。
この絶対数から見てあまりにも少ないコインロッカーを、我々国内の人間と訪日観光客が奪い合うようなかたちになり、スーツケースやバッグなどの手荷物を預けたくても、預けることができない状況になっているのです。
ホテルなどの宿泊施設にお願いして、チェックイン前やチェックアウト後に手荷物を預けることは可能ですが、周遊を中心とした行動パターンから考えると無理があります。
関西の例でいえば、京都周辺を観光するために京都に数泊し、その後神戸へ移動してホテルに宿泊、翌日チェックアウト後に、大阪市内で観光・ショッピングして、夜に関空から飛行機で帰国する場合を想定すると、チェックアウト後も前泊地のホテルに荷物を預けるという選択肢はあり得ません。
インバウンド観光客は、手荷物をどこかに預けて「手ぶら観光」したいと思ってはいますが、コインロッカーはいつも使用中で荷物を預ける場所がなく、仕方なく大きなスーツケースを引っ張りながら、観光・ショッピングをしているのが実情なのです。
この、都市部で手荷物を預けるスペースが絶対的に不足している現状に対して、シェアリングエコノミーが解決策を提示しようとしています。この課題を何とかしたいとの思いから、空きスペースを持つ「店舗」と手荷物を預けたい「旅行者」をマッチングする、新たなシェアリングサービスが誕生しているのです。
2017年1月からサービスを開始した「ecbo cloak(エクボクローク)」では、「店舗」などの空きスペースを有効活用して、旅行者が持つ手荷物の一時預かりを可能にすることで、「荷物を預ける人」と「場所を提供する人」の双方にメリットを見い出すことができる、コインロッカーよりも便利なシェアリングサービスを展開しています。
シェアリングエコノミーの概念は、さまざまなビジネス分野で新しい価値観を生み出し、一般社会に次第に浸透しつつありますが、「ecbo cloak」のようなシェアリングサービスの出現は、利用者に寄り添った新しい旅のスタイルや理想の「手ぶら観光」の実現につながるかも知れません。
「ecbo cloak」では、サービスを提供する側の「店舗」は空きスペースを荷物預かり場所として活用し、旅行者等の「利用者」から荷物を預かることでプラスアルファの売上を生み出すことができます。
またサービスを受ける「利用者」側から見ると、荷物を預けるためのコインロッカーの絶対数が不足している社会的課題の解決に繋がりコインロッカー難民とならずに済むことができます。このように双方にメリットのあるビジネスモデルの構築が可能になるのです。
「ecbo cloak」を利用する場合、荷物を預けたい「利用者」はユーザー登録とともにクレジットカード情報を登録します。
その後は以下の手順となっています。荷物を預けたい地域の「店舗」を検索して日時等を予約し、当日その「店舗」へ荷物を預けるだけの単純なシステムになっています。
保管中に発生した事故や震災などによる被害については、荷物1つにつき20万円までが補償されるようです。
1日の利用料金については、一般的なコインロッカーの利用料、小型(300円)、中型(500円)、大型(700円)と比較しても同等程度で、妥当な価格が設定されています。
大きなスーツケースを持って、空いているコインロッカーを探し回るのは旅行者にとって大きなストレスですが、このサービスでは事前に予約が完了していますので、その必要がありません。料金の支払いは予約時に登録したクレジットカードで決済され、オンラインで全てのサービスが完結しています。
なお、「ecbo cloak」にサービス(空きスペース)を提供する側の、カフェ・レストラン等の「店舗」は、飲食店や小売店などのサービス業で基本的にはBtoCのサービスを提供しているお店が対象になり、すでにサービス展開されている地域では店舗情報を登録した後、約1週間程度でサービス提供が可能になります。
この「ecbo cloak」に加盟すると、利用料金バッグサイズ(300円)、スーツケースサイズ(600円)の70%を「店舗」側が受け取ることができます。これに加えて、空きスペースを提供する1番のメリットは、過去の利用者の約3割が、実際に荷物を預けた「店舗」で飲食したり、商品を購入するなど、実際にそのお店を利用する人が多いところにあります。
つまり、「ecbo cloak」に加盟して「利用者」の荷物を預かることで、新たな収入が発生し、さらに約3割の「利用者」が新規顧客として「店舗」を利用してくれることにつながっていきます。
サービス開始からほぼ4か月が経過し、現在は東京の渋谷駅周辺と浅草周辺のみでのサービス展開ですが、今後は関西にも提供エリアを拡げていく計画もあるようです。ライドシェアの「Uber」や、民泊の「Airbnb」が世界中で認知されるなど、シェアリングサービスに対する世間一般の認識が拡大している現状から、近い将来の全国展開も夢ではないと思われます。
手荷物預かりに関連するシェアリングサービスでは「ecbo cloak」のほかにも、「店舗」だけではなく「個人」がホストとなって荷物を預かることを可能にしたCtoCサービスの「monooQ」が注目を集めています。この「monooQ」では「ホスト」である「個人」が追加サービスとして、荷物の受け取り場所や引き渡し場所を設定することができる仕組みを特色にしています。
このサービスを利用すると「利用者」と最寄りの駅で待ち合わせて荷物を預かることや、預かった荷物を返却する場合に別の場所に届けたりすることも可能になります。
「ホスト」が「利用者」からの預かり予約を承認すると、チャット画面が開き、そこで「利用者」と「ホスト」は受け取り場所など詳細を連絡することができるシステムです。
「monooQ」はCtoCサービスですので、「利用者」側からすると荷物の紛失や損害が心配になりますが、そのような場合に対応できる保険の対応とヘルプデスクも常設されています。
このように、さまざまな分野で新たな価値観を生み出し、社会に浸透しつつあるシェアリングエコノミーですが、今回ご紹介したように新しい旅のスタイルが誕生する段階を迎えています。
シェアリングエコノミーが一般化すれば、消費者同士が直接連携するエンドユーザーレベルでの取引が拡大し、従来のように企業がサービスや商品を提供して、それを消費者が享受するという経済構造が変革していく可能性があります。
数年後には、シェアリングエコノミーサービスを活用した、利用者主体の安価で快適な「手ぶら旅行」を、誰もが満喫できる環境が実現しているのかも知れません。