「電話」というテクノロジーは何処へ向かうのか?
~ 連絡手段のパラダイムシフトについて考える ~

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質 [第12回]
2018年4月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「スマホ」を活用した様々なサービスの誕生

東京ディズニーランド・東京ディズニーシーでは、「スマートフォン(以下、スマホ)」などで購入したパークチケット「ディズニーeチケット」でそのまま入園できる新たなサービスを2018年2月20日から開始しています。

このサービスでは、「東京ディズニーリゾート・オンライン予約・購入サイト」で購入した「ディズニーeチケット」をスマホ画面に2次元コードで表示し、入園ゲートに設置したリーダーに読み取らせるだけで、入園することが可能になっています。

また、「eチケット」を家族・友達などのグループでまとめて購入した場合でも、メールやLINEで共有(シェア)して、それぞれのスマホ画面に2次元コードを表示させて入園することや、「ディズニー・ファストパス」「ショー抽選」にも対応しています。

これまで、チケットをネットで購入した場合は、購入したパークチケットを印刷するか、印刷したものを郵送してもらう必要がありましたが、今後は「スマホ」だけ持っていれば購入・決済から入園まで対応できるようになったのです。

この東京ディズニーリゾートの「ディズニーeチケット」2次元コード化のように、「スマホ」を活用したサービスが次々と誕生しています。そして、「スマホ」はかつて「電話」が持っていたツールの範疇を遥かに超えた存在になりつつあります。

「電話」から離れていく若者たち

いま私達は、一日中肌身離さずに「スマホ」を持ち歩き、日常的に使用するデバイスとして利用していますが、基本機能である「電話」については、世代間によってその印象は異なったものになりつつあるようです。

情報サイト「しらべぇ」では、2017年11月に、全国20代から60代の会社員の男女481名を対象とした「会社の電話について」の調査を実施していますが、そのデータによると、若い世代ほど仕事上における電話での対応について、苦手意識を持っている傾向が表れています。

この「しらべぇ」の調査結果によると「電話は時間泥棒である」といった意見や、「通話相手が一方的に相手に連絡を行う」行為そのものが、迷惑がられているなどの記載もあり、生活シーンの中でフルに「スマホ」を活用する若者たちは「電話」としての機能そのものに「否定的」な感情を抱いているように感じられます。

たしかに、冷静に考えてみると「電話」という連絡手段は自分勝手なものなのかもしれません。自分自身が「電話」をかける時、連絡する要件が最優先であり、相手の都合は考慮していないこともあります。もちろん、一般常識である、早朝・深夜には「電話」すべきではないなど、最低限のマナーはまもっていますが、それ以外の仕事中の時間帯であれば、この時間帯なら問題ないだろうと一方的な思い込みで「電話」することもあります。その時「電話」された方の相手は重要な打ち合わせ中であったり、会議でプレゼンしている最中なのかも知れないのです。

受信者が何らかの都合で「電話」に出ることができない場合、貴重な時間を無駄に費やすことになり「電話」をかける行為そのものが、賢明な連絡手段であるとは思われません。このような場合、伝言サービスなどはあるものの、通話できない場合には再度かけ直す必要があるなど、リアルタイム性が高い連絡方法である「電話」機能が持つデメリット面が強調される結果になります。

過去を振り返ってみると、メールやSNSが登場する以前は「電話」によるコミュニケーションに対して、私達が強い不満を抱いたことはありません。なぜなら、離れた者どおしが連絡する手段として「電話」以上に便利なコミュニケーション方法がなかったからです。

しかし、いま我々はメール・SNS・オンラインチャットなど、新たなテクノロジーがもたらした様々な連絡手段を利用することが可能な環境で生活しています。その結果、メリットがリアルタイム性のみの「電話」という名のツールは、デメリットばかりが強調される状況になってしまったのです。

ネットが変えたコミュニケーションの在り方

スティーブ・ジョブズが「電話」を再発明(reinventing)すると発言し、「初代iPhone」を発表した2007年1月を境にして、我々のコミュニケーション方法は大きな変革の時を迎えることになります。それ以前も、スマートフォンと呼ばれる「電話」は存在していましたが、この「初代iPhone」の登場によって「ケータイ」から「スマホ」へ、コミュニケーションツール首位の座は移り変わったのです。

世界のスマートフォン売上は年間8%のペースで伸び続け、2017年の第4半期には過去最大の1200億ドル(約13兆円)に到達して、モバイル広告は2021年には2000億ドルを超える市場に成長すると見られています。また、調査企業「eMarketer」では、世界のモバイルコマースの売上が2018年には1.8兆ドル(約191兆円)に達すると予測しています。ここから見えてくるのは「スマホ」がプラットフォームとなった市場が進展することで、モバイル経由で発生する売上が巨大なものになるという事実です。

先ほどの「しらべぇ」の調査結果にもどると、50代後半~60代以上の年齢層の人達は、SNS・チャットアプリなどに馴染みが薄く、そのような連絡手段を積極的に活用する世代ではありません。一方で、40代以下の年代層は「スマホ」の発展とともに人生を過ごしてきた世代であり、コミュニケーションに関連するテクノロジーの進化を最も早く自分達の生活シーンに取り入れた世代ということもできます。

当然ですが、若い世代になるほどその傾向は強まっていくことになり、SMS・メール・チャットアプリ・SNSなどをコミュニケーションの用途ごとに使い分け、自分を表現するツールして各種のサービスを駆使する世代でもあります。20代の若者達は、LINE・Twitter・Facebook・Instagramなど、自分が発信したい内容に応じて、サービスを使い分けることが日常的に行われています。

このような、SNSなどの「テキストを主体」とするコミュニケーションにおいては、連絡した内容をお互いが読み返すことができて、タッチミスによる書き間違いを確認・訂正することも容易に可能など、旧来の「電話」にはないメリットが複数存在します。

連絡手段が記憶に依存しないため、「言った、言わない」など些細なことから始まる連絡ミスを軽減することもでき、非リアルタイム通信であるため、受信する側の都合を邪魔することもなく、相手側も好きな時に返信することが可能になります。

また、緊急時に連絡するような場合でも、伝えたい内容を再確認しながら送信することで、トラブルの発生を未然に防ぐこともできるのです。

一方で、旧来の連絡手段である「電話」にもメリットはあります。災害時などの緊急連絡が必要な状況においては、敢えて直接「電話」をするという行為そのものが、事の重大さをアピールする効果を発揮します。また、そのような場合「相手の声を直接聞いて」安否が確認できるのは「電話」の最大のメリットなのかもしれません。

かつて、私達がパソコンを所有する理由は「インターネットに接続するため」が主流の時代が続いていました。しかし、スティーブ・ジョブズが「電話」を再発明すると発表し「初代iPhone」が登場してからは、「スマホ」はインターネット接続環境をパソコンより簡単に、しかも日常的に携帯可能なかたちで実現することに成功しました。

パソコンが「スマホ」に淘汰され消滅するとは考えられませんが、既存のメディアがそうであったように、新たに出現したメディアと既存メディアの機能が重複した場合、オールドメディアは駆逐されるか、重複のない機能部分で生き延びるか、あるいは新しい機能を再定義する道を探ることになります。

連絡手段のパラダイムシフトが始まっている

「電話」は1800年代中頃に登場し、瞬く間に世界を動かす基幹テクノロジーとして発展してきました。以来100年以上にわたり生活インフラの根幹を成す最大のコミュニケーション手段として利用されてきましたが、「スマホ」の登場によってその役目の大半の部分は終焉を迎えようとしています。

現代社会においては、即時性や正確性が要求される状況は日常的に存在し、私達はその生活シーンに即した多種・多様な連絡手段を適材適所で使い分け、活用していく時代を迎えたといっても過言ではありません。

テクノロジーは日常生活のあらゆる場面に深く浸透し、我々の社会生活全般を変容させつつあります。かつて電気の発明によって人々の生活が飛躍的に向上したように、ネットワーク化の進展とデジタルイノベーションの恩恵によって、新たなサービスが次々に誕生しているのです。

このように、様々なかたちでテクノロジーが登場し淘汰されていく中で、情報通信技術とコミュニケーション手段もまた、パラダイムシフトの只中にあるのだと思われます。

「電話」という技術がレガシーテクノロジーとなり、その役割を一部の機能として残しつつ、新たなテクノロジーと住み分けていく時代を迎えているのです。

いまや、モバイル通信端末を「ケータイ電話」や「スマホ」と呼ぶのではなく、今後は新たな名称として「HSD(Handy Smart Device)」などと、呼称する時代が到来しているのかもしれません。

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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