サブスクリプションと他サービスとの連携
~シェアリングエコノミーが自治体にもたらす可能性を考える~

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略 [第10回]
2019年4月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

はじめに

トヨタ自動車では、2019年2月6日「サブスクリプション(定額制)」でクルマを貸し出す新たなサービス「KINTO」の提供を東京都内で開始しました。

トヨタグローバルニュースルームの発表では、「欲しくなったら簡単にクルマライフをスタートし、違うクルマに乗りたくなったら乗り換え、不要になったら返却する」などユーザーの多様化するニーズに対応するため、新サービスの名称は人気アニメ『ドラゴンボール』の主人公、孫悟空が自在に操る「筋斗雲」をイメージして「KINTO」と名付けられました。

まずは、以下のサービス提供からスタートとしています。

  • 「KINTO SELECT」
    3年間6種類のLEXUSブランド車を乗り継げるサービス
    月額料金19万4400円(税込み)
  • 「KINTO ONE」
    3年間5車種(プリウス・カローラスポーツ・アルファード・ヴェルファイア・クラウン)から1台を選択するサービス
    月額料金4万9788円~10万6920円(税込み)

今夏以降サービスを全国展開するとしています。この「KINTO」のサービスでは、車両の定期メンテナンスもパッケージ化され、車両の使用状況(安全運転、エコ運転等)をポイント化して支払へ充当することが可能な「愛車ポイントサービス」についても秋以降に導入する予定です。

利用者の意識は「所有から利活用へ」

「サブスクリプション(subscription)」の語源については、本来は雑誌の「予約購読」「年間購読」を表す言葉でしたが、それが次第に「期間限定の使用許可」を意味する単語になり、コンピュータのソフトウェアの利用形態として一般的なものになっていきます。

2013年「アドビシステムズ」では、従来CD-ROM等の媒体でパッケージ販売していた主力製品について、サブスクリプション方式への転換を始めて、2015年には2014年比で22%増の売り上げアップを記録しています。

その後、クラウドコンピューティングの進展に伴い、「Microsoft」の Office 365や「サイボウズ」のグループウェア サイボウズOfficeなどについても、従来パッケージ製品として提供されていたソフトウェアをインターネット経由で提供・利用する形態のサース「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれる、製品を買い取るのではなく、利用権を借りて利用するサブスクリプション型のサービスモデルが普及していきます。

企業が自社内でのサーバ運用からクラウド「SaaS」ベースでの運用にシフトしたように、消費者の消費活動も所有からサービスを利用する方向へ移行しています。音楽産業の分野でもCDなど物理メディアの売り上げは頭打ちになり、楽曲を所有しない音楽ストリーミングサービスが主流になっています。

音楽配信サービスは「Spotify」「Amazon Music Unlimited」「Apple Music」、動画配信サービスでは「Netflix」「hulu」「Amazon Prime Video」などがよく知られています。そのユーザー数は増加を続け現状では音楽配信は5人に1人、動画配信では4人に1人のユーザーが利用していると言われています。

若年層のクルマ離れや超高齢化社会の到来などで需要が縮小する我が国の自動車市場は、トヨタが始めた「サブスクリプション」サービス「KINTO」の登場によって、保有の長期化や効率的なクルマの利用といった価値観の多様化への対応策が求められているのかもしれません。そして、我々の日常のアシとしてのクルマを通じて、利用者の意識が「所有」から「利活用」へ「モノ」から「コト」へと大きくシフトしていくのでしょうか。

「MaaS(Mobility as a Service)」という考え方

モノを所有するのではなく共有して利活用する「シェアリングエコノミー」の世界では、交通分野における「MaaS(Mobility as a Service)」モビリティ・アズ・ア・サービスの概念が大きな広がりを見せています。

「MaaS」はフィンランドの技術庁と運輸通信省によって、モビリティサービスのオープンイノベーションプラットフォーム開発で提唱された概念で、「MaaS」の考え方を端的に言えば「サービスとしての移動」という意味になります。

レンタカー、タクシー、バス、電車、飛行機からレンタサイクルまで、さまざまな交通・移動手段を利用者のニーズに合わせて最適化・パッケージ化し、それを定額料金で利用可能にするサービスモデルを表しています。

交通分野の「シェアリングエコノミー」では、「Uber」などライドシェア単体のサービスに注目が集まっていますが、将来的には複数の移動手段・サービスを組み合わせることで、都市全体の「移動の最適化」が行われると考えられます。

トヨタの「KINTO」は「MaaS」との共生を目指すのか

「MaaS」が普及すれば、自動車を保有しなくてもよい時代が到来すると思われます。その時、自動車メーカーの戦略は何を目指すのでしょうか。トヨタ自動車では、ライドシェアで利用することを想定した箱型ボディに4輪または8輪のタイヤを装備した、自動運転対応のコンセプトカー「e-Palette Concept」を開発しています。この動きと連動するように、2018年8月には「Uber」に対して約5億ドル出資することを発表しています。

今後、様々な乗り物やサービスが「MaaS」によってつながり、移動が利用者の目線で最適化されることで、自動運転で移動するクルマはモビリティサービスを構成する一つの要素として取り込まれていくと思われます。自動車メーカーはそんな時代の到来に向かって、生き残りを掛けた新たなビジネスモデルに挑戦しているのかもしれません。

「多拠点居住」という考え方のシェアリングサービス

ネットワーク上のインフラを基盤として、遊休資産の利活用を図る「シェアリングエコノミー」呼ばれる経済活動は、今後トレンドの主流となる1990年代後半以降に生まれたデジタルネイティブ世代が持つ「所有」よりも「共有」する考え方と親和性が高いと言われています。これに「サブスクリプション」型のモデルをプラスすることで、より魅力的なサービスが誕生しています。

「多拠点居住」サービスを展開する「ADDress (アドレス)」では、月額4万円から利用可能で何処でも住み放題の「サブスクリプション」型のシェアリングサービスを、2019年4月から稼働させると発表しました。この「ADDress」が事業展開する「コリビング(co-living)」サービスでは、物件オーナーとユーザーとをマッチングして遊休住宅資産を活用することで、地域の活性化や空き家問題の解決にもつなげるなど、都市部と地方との「人口シェアリング」を実現させることも視野に入れています。

料金体系は、家具や家電、Wi-Fi、水光熱費、アメニティ、共有スペースの清掃も含め、年会費として月4万円の48万円。月会員は月5万円。法人会員は月8万円で1カウントを企業内で共有利用することも可能になっています。

まずは、千葉県内の自治体を含め全国11カ所で4月からサービスを開始するとしています。提供する物件については、空き家を所有者から購入してリノベーションする方法や、サブリースする形態のほか、遊休別荘、ホテル、旅館、民泊、ゲストハウスなどとの連携も視野に入れています。これにより、観光拠点としての役割に加えて、移動しながら現地に住んで仕事をするライフスタイルを提供することで「働き方改革」につなげることも想定しています。

また「ADDress」では、各種シェアリングサービスと連携することで、地域での2次交通手段として、カーシェアリングやシェアサイクルなどとも手を結んでサービスを進化させる予定です。

自治体におけるシェアリングエコノミーの利活用ポイント

地方の人口が減少し需要が減衰していく中で地域の人口を増加させることは難題です。しかし、自治体の側から見ると、現行法ではさまざまな制約はあるものの「多拠点居住」であれば「定住人口」「交流人口」に加えて、地域に関わる「関係人口」を増やすことが可能です。「関係人口」の増加によって、地域住民との交流や経済効果についても期待できるなど、遊休資産が眠る地方とそれを求める都市部との間に新たな流動を創生させると可能性があります。

我が国の地方都市では、人口減少・高齢化・過疎化等の社会全体の構造変化に起因する様々な課題を抱えています。その山積する課題に対して、行政が多額の公費を投入して解消する手法は、社会資本を効率的に運用する観点から、現実的な選択肢ではありません。

地域の中にある遊休資産を効率的に活用する方向へ考え方をシフトすることで、シェアの概念に基づくサービスが地域のインフラとなれば、行政からの支援に依存せずに持続可能な生活支援サービスの展開が可能になります。

「シェアリングエコノミー」の概念と「サブスクリプション」型サービスが連携したサービスモデルが誕生することで、利用者のベネフィットが増大し、さまざまな分野で新たな価値観を生み出すような、新たなライフスタイルが誕生する段階を迎えています。

従来のモノを「所有」するという考え方から、社会的リソースをシェアして「共有」する概念へ転換することで、既存サービスを革新するようなビジネスモデルを創出できるかもしれません。

「まちづくり」と言う名の自治体ブランド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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