最近、「Web3.0(ウェブスリー)」というキーワードを耳にする機会が多くなったように感じますが、この概念はイーサリアムの共同創設者である、英国のコンピュータ科学者ギャビン・ウッド氏によって2014年に「次世代の分散型インターネット」として提唱されたものです。
前回のコラムでもご紹介しましたように、「Web3.0」を構成する要素として、「暗号資産(仮想通貨)」や「NFT(非代替性トークン)」がありますが、「暗号資産」は、「Web3.0」を語るうえで欠かせない技術ではないでしょうか。
そして、仮想通貨「ビットコイン」のシステムで活用されている、「ブロックチェーン」は、同じデータをネットワーク上の複数の場所で保管することから「分散型台帳」とも呼ばれ、改ざんが不可能で安全性が高いため、電子証明書「トークン」の発行にも使われています。
代替不可能な価値を「ブロックチェーン」技術によって付加されたデータの「NFT」ですが、例えばデジタルの画像・イラスト作品を「NFT」と紐づけることで、イラストがコピーされたとしても、本来の所有者情報や作品固有の番号は改ざんできないため、原本としての価値を保つことが可能になっています。
また「ブロックチェーン」を利用した、分散型自立組織「DAO(Decentralized Autonomous Organization)」と呼ばれる組織など、管理者がいなくても運営が成立する新しい組織体制も誕生しています。
この新たな組織形態では、コミュニティが発行した「トークン」が投票権となり、所持するメンバー全員で意思決定する仕組みが構築され、「スマートコントラクト(契約の自動執行)」によって駆動されているため、「トークン」のやり取りも定められたルールで運用され、管理者が存在しない民主的な組織体制が確立されています。
世界の国々では、投票によって方向性を決定しながら資金調達する組織もあれば、映画を制作する団体もあり、「DAO」の統計プラットフォーム「DeepDAO」によれば世界中で4,834団体のコミュニティが活動しているといわれています。
World Wide Webが誕生した、1990年代後半から2000年代初頭の「Web1.0」の時代は、ネット上に公開されたWebページに、誰もがアクセスできるようになりましたが、コンテンツは「読み取り専用」で、インタラクティブ性はなく、ユーザーはコンテンツの消費者でした。
インターネットの黎明期ともいえるこの時代、アクセス環境は常時接続ではなく、ダイヤルアップ回線を用いてインターネットに接続する従量課金制が一般的です。接続速度も非常に低速なもので、現在のアクセス環境から考えると隔世の感があります。
またこの頃、「Google」「Amazon」など、検索エンジン・ECサイトを本業とする大手サービス提供事業者が登場し、インターネットを活用して事業収益を確保する、新たなビジネスモデルが誕生しています。
2000年代初頭からの「Web 2.0」の時代は、SNSやブログなど一般のユーザーが気軽に参加できるサービスが登場しています。「Web 1.0」の時代、基本的に情報を閲覧するだけのネットユーザーが、情報発信するようになったのが「Web 2.0」の特徴です。
SNSの登場によって、Webは閲覧するだけではなく「参加する」ものになり、誰もがクリエイターになれる、インタラクティブでソーシャルな世界が実現したのです。
代表的なサービス、YouTube、Facebook、Twitter、Instagramなど、「Web 2.0」の時代になると、人々が常にインターネットにつながった状態で日々の生活を送ることが、もはや当たり前になっています。
しかし、よく考えてみると、世界中の人々がネット上にアカウントを持ち、様々なサービスを利用していますが、サービス提供事業者が中心で、私達はあくまでユーザーとしてサービスを利用することでデータや個人情報をサービス提供者側に掌握されているのが現状です。
現在のネット社会では、「GAFAM」と呼ばれる、Google、Amazon、Facebook(現Meta)、Apple、Microsoftなど巨大プラットフォーマーに、日々大量の検索履歴やパーソナルデータが収集され、より良いサービス提供の名のもとにマーケティングデータとして利用されています。
一方では、世界最大級のプライバシー事件ともいわれる「ケンブリッジ・アナリティカ問題」などの情報漏洩事案の発生や、最近ではダークウェブ(闇サイト)を通じてパーソナルデータが売買されるケースなど、組織犯罪化している側面もあります。
このような状況の中で、現在の中央集権的な仕組みから分散型ネットワーク環境へ転換を図り、分散テクノロジーを活用してデータを分散管理することで、ユーザーが主体となった民主的システム構築を目指す「Web3.0」という新しい概念が生まれました。
「Web3.0」を構成する技術として、分散型ネットワーク「IPFS(InterPlanetary File System)」が注目されていますが、「Web3.0」時代のキーワードは、システムの分散型運用ではないでしょうか。
「IPFS」とは、現在インターネットで一般的に利用されている「HTTP」に代わって、「P2P(Peer to Peer)」ネットワーク上の通信を中央集権的なサーバーを介して行うのではなく、対等な関係にある端末同士を直接接続して行う通信プロトコルです。
従来のHTTPプロトコルは、サーバーを介してインターネットにつながる中央集権的な構造ですが、「IPFS」は単独のサーバーに依存するのではなく、ブロックチェーン技術を活用して、複数のノード(ネットワーク上の装置)からデータを取得する方式で、データを共有するP2Pネットワークを構築します。
今後、アプリケーションの主流は現在のクラウド型から、ブロックチェーンなどの分散型フレームワークを基盤とした、分散型アプリケーション「DApps(Decentralized Application)」に移行していくと思われます。
現に、2019年Twitterは「Web3.0」へのステップとなる、新しい分散型ソーシャルメディアシステム「Bluesky」を構築するための専門チームを結成しました。このプロジェクトは、Facebook、Instagram、Twitterなどの従来の中央集権型ソーシャルメディアに代わる選択肢を提供することを目指しています。
そして、2021年11月にはブロックチェーンと「Web3.0」に関する中核的研究拠点になることを目指して、暗号技術専門チームの立ち上げを発表しましたが、近い将来、私達が日常的に利用するサービスが「DApps」に置き換わっているかもしれません。
例えば、金融の世界ではこれまで信頼に基づいてお金を受け渡す役割を担い、資金を管理運用することで手数料を得るビジネスモデルを成立させてきた、銀行など既存の金融機関の存在意義が問われる未来がやって来るといわれています。
実際に、分散型金融「DeFi(Decentralized Finance)」と呼ばれる、ブロックチェーン上で自律的に動くプログラムによって、金融機関などの中央管理者を介せずに金融サービスを実現した動きが拡大し、その市場規模は約1,000億ドル(約11兆円)に達しています。
現状の「Web2.0」の世界は、巨大プラットフォーマーを中心とした中央集権的な構造によって成り立っていますが、こうした恣意的な権威から、より合理的な自由主義モデルへと移行するために必要なのが「Web3.0」で、その鍵となるのがオープンな環境と透明性の確保ではないでしょうか。
例えば、私達は普段ネット上で情報を検索・閲覧するなど、日常的にWebサイトを利用しますが、この時Google、Yahoo!等のサービス提供事業者は、ネット上の行動履歴や検索履歴を収集し、広告表示などに役立てることでマネタイズに繋げています。
そんな中、ネット上での行動履歴・検索履歴を収集せず、トラッキング広告も表示されない「Brave」というブラウザが徐々に広がりを見せています。この「Brave」では、広告をブロックする機能がある一方で、ユーザー自身の判断で広告表示を許す選択も可能になっています。
しかも、広告を閲覧するユーザーに対するベネフィットとして、「Brave」が発行する仮想通貨「BAT」を付与する仕組みもあり、正に「Web 3.0」時代のブラウザといえるものになっています。
「Web 3.0」が実現すると、これまでの社会で重要な役割を担ってきた企業や、ビジネスモデルが新しいものに代替される可能性がありますが、その在り方を巡っても様々な論争が繰り広げられています。そして、新しい技術やシステムの登場は希望がある反面、課題もあり実現にあたっては、多くのハードルが残されていることも事実です。
少数のプラットフォーム事業者による寡占構造となった、「Web 2.0」に対して、「Web 3.0」の時代のサービスは、プログラムやデータをパブリック型のブロックチェーンによって運用することで「非中央集権的」になると思われますが、明確な定義が定まってはいません。
今後、「Web 3.0」が進展し社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進んでいく中で、ユースケースにはどのようなものがあるか。また、システムを構築・利活用する者は、その用途を踏まえてどのような点に留意すべきか。引き続き、注視していきたいと思っています。