メディア的観点から「スマホ」について考える
~スマホはメディアを席巻していくのか~

情報化モデルとICTを巡るポリフォニー [第1回]
2015年4月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

スマホをめぐる動向について

「歩きスマホは危ないからやめましょう」
「スマートフォンの普及に伴い、駅のホームで電車に接触するなどの事故が多発しています」

こんなポスターが貼られている駅の構内から、電車に乗り込んで車内を見渡すと、ほとんどの乗客がスマホの画面を見つめていたので驚きました。

かつての通勤風景では、電車内の読み物は新聞・雑誌・文庫本が主流でした。ところが、いまでは車内の男女が手にしているのはスマホばかりです。

スマホで「LINE」しているのか。スマホでゲームなのか。音楽を聴くのもスマホなのか。スマホで動画を見ているのか。どちらにしても、スマホで様々なコンテンツを楽しんでいるのです。

こうした風景を見ていると、もはやスマホは新聞・テレビなどと同等のメディアと呼べる存在になったと感じることがあります。

それに、我々が日常生活の中で、これほど特定のツールを肌身離さず「携帯」して四六時中使ったことは、過去にはなかったと思います。もはや、生活インフラと呼べるレベルに達したと思うのは、私だけでしょうか。

若い頃どんなメディアに親しんでいたのか、これは重要なポイントです。我々の感性は、多感な時代に慣れ親しんだメディア体験の上に形成されるといっても過言ではありません。

学齢期から思春期の時代に、スマホを肌身離さず使い続けた世代が年齡を重ねて、社会全体のマスボリュームとなれば、「スマホによって培われた習慣」を基盤とする、「スマホに起因した生活習慣のテンプレート」が近未来の社会生活に反映されていくと思われます。

もちろん、スマホは汎用性や携帯性には優れていますが、画面が小さいなど、「完璧なメディア」とまでは言い切れないのが現状です。

しかし遅かれ早かれ、こうした弱点を自ら克服したより上位のインターフェイスや新たな機能・サービスなどが誕生してくると予想されます。

『人間というのは保守的なもので、新しいものが出てくると面食らってしまう。未来を見ることは好きだが、未知の未来は怖い。』
『それゆえ、過去を見ながら、過去の慣習の延長上にしか未来を見ることができない。だから「未来に向かって、後ろ向きに進んでいく」のだ。』

これは、メディア論の父「マーシャル・マクルーハン」の言葉です。

こういった「未来に向かって後ろ向きに進んでいく」人間である我々としては、批判するばかりではなく、今後はスマホをめぐる動向について、注目すべきではないでしょうか。

モバイルゲーム市場の終息

いま、スマホの世界では「ゲームから非ゲーム」へのビジネスシフトが進んでいます。

サイバーエージェントは、主力事業「アメーバ」の人員を削減し、同社のリソースをトークアプリ「755」や音楽サービス「AWA」など新事業へ投入しています。
グリーは託児保育を支援するアプリ「スマートシッター」の開発や、住宅リフォーム市場に参入しようとしています。

そして、「DeNA」は昨年10月、「iemo」や「MERY」といったキュレーションメディア(ニュース配信サービス)を買収しました。
その「DeNA」は先月17日「任天堂」と業務提携して、「マリオ」などのキャラクターを含む、任天堂の知的財産を活用したゲームを共同開発すると発表しました。

こうした一連の動きは、モバイルゲーム市場が「ゴールドラッシュの時代」を経て終息に向かいつつあることを暗示しています。

かつてモバイルゲーム業界は、多くのメガベンチャーを生み出してきました。しかし、多くのヒット作が出揃ったいま、一発当たれば大儲けできる市場は終焉を迎え、ユーザーを驚かせるような斬新なゲームは現れていません。

「モンスターストライク(モンスト)」を大ヒットさせた、ミクシィは一時期の凋落を脱して黒字を計上していますが、勝ち組は一部に留まり、それ以外は開発と販促を繰り返す中で、体力を失いつつあります。

ヒットが見込めるIPタイトル(既存のタイトルや知的財産を活用したゲーム)が増えていますが、これは成熟期を迎えた業界に見られる現象で、モバイルゲーム市場はいまだ成長はしているものの、確実に臨界点に近づきつつあります。

では、ゲームに興じていた人達はどこへ向かっているのでしょうか。

コミュニケーションの自由化

YouTuber(ユーチューバー)の出現、生放送アプリ「ショールーム」、フリマアプリ「メルカリ」など、ゲーム以外のアプリケーションの可能性がスマホの将来を予測する材料になるかもしれません。

利用者自らがネットへ情報を発信して、ユーザーとコミュニケーションを創り出す、そんな「コミュニケーションの自由化」がスマホを中心に沸き起こっているのです。

2012年から急速に普及したスマホは、ガラケーや既存の携帯ゲーム機を駆逐し、ゲーム市場を根底から覆しました。

コミュニケーションの主流であった携帯メールも、パブリックな繋がりは「Facebook」、プライベートな繋がりは「LINE」に置き換わり、パソコンで見ていたWebサイトも、いまではスマホでアクセスしています。

そんな中、LINE株式会社は、同社の「LINE(ライン)」で、法人・個人を問わず、あらゆるユーザーが無料で利用できるサービス、「LINE@(ラインアット)」の提供を2015年2月から開始しました。

この、「LINE@」を使えばLINEで繋がりのある人達へ、メッセージの一斉送信やタイムラインへの情報発信が可能になります。企業などが利用すれば、繋がりのある顧客のLINEにメッセージを送るなどのプロモーションが簡単にできてしまいます。

同社の資料では、国内利用者数は5,000万人超、毎日の利用者は約3,000万人と、発表されています。(「2014年4-9月媒体資料」広告事業グループ広告事業部)

このLINE利用者に向けて、企業・店舗・ブランドなどの情報発信や顧客との連絡、サービス利用予約やビジネスシーンで利用する他に、アーティストがファンとのコミュニケーションに活用するなど、様々な用途での利用が可能になるのです。

Googleの検索順位のスマホ対応について

そして、ついにGoogleが動き出しました。
2015年4月21日からは、Googleのモバイル検索結果の順位にも、スマホに対応しているかどうかが影響することになります。つまり、スマホに対応していないWebサイトやホームページは、検索順位を大きく落としてしまう可能性があるということです。
※詳細については、Google社のサイト(注1)をご確認下さい。

Googleは昨年11月、そのサイトがスマートフォンに対応していれば、「Mobile-friendly(モバイル フレンドリー)」というラベルを、モバイル検索結果に表示する仕様に変更しました。
日本では、翌12月に導入され「スマホ対応」ラベルが表示されるようになっています。

そしてこの4月、Googleのランキング要因として「スマホ対応」が世界全ての言語に対して摘要されます。

Googleのサイトでは、以下のように表記されています。
「will have a significant impact in our search results」

“significant”(重要な、意義深い、大きな影響を与える)と強めの表現を用いて、影響度を説明していますので、今回のアルゴリズム変更は、検索結果にかなり大きな影響を与えるものと思われます。

全世界一斉導入なので、当然日本でも影響を受けることになります。
自治体のサイトにどこまで影響があるのか、今後の動向を見守るしかありませんが、多くの市民へ向けた情報発信を考える場合、「スマホ対応」が今後は必須になるのかも知れません。

それでは、既存のサイトをどうすれば「スマホ対応」できるのか?
選択肢は、以下の3つです。

  1. スマホコンバーターサービスを使用する
  2. テンプレートを改造して適用させる
  3. サイト全体をリニューアルする

それぞれの方法について、考えてみます。

スマホコンバーターサービスを使用する

一番手っ取り早い方法ですが、無理やり「スマホ対応」させているので、本質的な改善にはなっていません。
Googleの検索エンジンの評価も期待できるとは思えません。

テンプレートを改造して適用させる

既存のサイトがCMSを利用したサイトであれば、テンプレートを改造して適用させることが可能です。
いま流行りのWordPressで作成したサイトであれば、スマホ対応のプラグインもあります。(この場合はプラグインを導入するだけでスマホ対応が可能です。)

逆にCMSを使用せず、HTMLで作成したサイトの場合は、スマホ対応はかなり厳しい状況になります。

サイト全体をリニューアルする

これは、サイト全体を作り直してしまうという方法です。
WordPressを利用してサイトを構築し、スマホ対応のプラグインを導入する。

いまお薦めするなら、この方法が長い目で見て一番良い方法だと思います。
一時しのぎの対策より、しっかりとした対応をするべきではないでしょうか。

今回のコラムでは、メディア的な観点から「スマホ」を取り巻く動向について考えましたが、今後もこのような独自の観点で、システムや情報サービスのあり方、その先にあるビジネスモデルなどについて、考察したいと思っています。

最後にもう一度、カナダの哲学者「マーシャル・マクルーハン」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。

「われわれが道具を形作り、その後道具がわれわれを形作る」

それでは、次回をお楽しみに・・・

注1:「検索結果をもっとモバイル フレンドリーに」(Google社のサイト)

ユーザーファースト視点で考えるシステムの本質

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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