1977年公開の「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」から、現在に至るまで大ヒットが続く「スター・ウォーズ」の最新作がついに公開されます。日本の公開日はアメリカやイギリスと同日の12月18日(金)18:30に、全国一斉公開となります。ちなみに、世界最速の公開日はイタリアの12月16日だそうです。
最新作となる本作はエピソード6「ジェダイの帰還」から30年後の世界が舞台となり、タイトルは「スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒」となっています。ルークとダース・ベイダーの戦いは終止符が打たれたはずですが、銀河帝国軍と反乱軍の戦いは今もなお継続しているようです。
なお、エピソード7では帝国軍は「ザ・ファースト・オーダー(The First Order)」、反乱軍は「レジスタンス(Resistance)」という名称で呼ばれています。公開前の現時点では、詳細はヴェールに包まれていますので、作品の全貌は明らかになってはいませんが、ハリソン・フォード扮する「ハン・ソロ」が「チューバッカ」とともにスクリーンに戻ってくるなど、前作のエピソード3から10年の時を経て、新たな作品への期待は高まるばかりです。
さて、この「スター・ウォーズ」シリーズ、1977年の公開から38年の歳月が経過した現在も新たなファンを増やし続けている秘密は「物語(ストーリー)」を発信することの重要性をしっかり認識しているところにあります。
私は以前このコラムの中で、「システム」を語るのではなく「志」を伝えることの重要性、自分達がどのような「理念・志」を持って事業に取り組んでいるのか、システムやサービス提供を考える時、まずは「理念・志」について伝えるところから始めてはと提案させていただきました。この「理念・志」を伝えるということは、換言すれば自分達が拠りどころとする「物語(ストーリー)」を語ると言うことでもあります。
「スター・ウォーズ」は1977年5月(日本では1978年)に公開され、同時期に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の「未知との遭遇」とともに、世界的なSF映画ブームを巻き起こし、それまで一部のマニアックな人達が見るB級映画と思われていたSF映画を、第一級のエンターテインメント作品へと昇華させました。
シリーズ全体を構想・製作総指揮するジョージ・ルーカスは、「スター・ウォーズ」の世界観を比較神話学者のジョーゼフ・キャンベルの思想を元にした「神話の法則」に基づいて「物語(ストーリー)」を構築したのです。
この「神話の法則」に基づくストーリーでは、遥か銀河系の彼方にある辺境の惑星タトゥイーンに住む一人の少年が、伝説の「フォースにバランスをもたらす者」としてジェダイによって見出されます。その少年の名はアナキン・スカイウォーカー、師オビ=ワン・ケノービの許でジェダイとなり、銀河を二分するクローン大戦を戦い抜く騎士の物語が語られていきます。
そして、「自由と正義の守護者ジェダイ」と「悪と恐怖の信奉者シス」との攻防の末、銀河規模の共同国家である銀河共和国から銀河帝国への移行を経て、その後銀河帝国の圧政に対する反乱により再び復活した「新共和国」への変遷を描く壮大なストーリーが展開されていきます。
このように、ハリウッド映画を中心にヒットした作品「スター・ウォーズ」や「バックトゥザフューチャー」、「タイタニック」などはどれも「神話の法則」に基づいた、ストーリーで構成されています。これらの作品には、ある一定の「物語の型」があり、その「型」に私達は一喜一憂し、時には涙して感動し、幸せな気持ちになるのです。
私達が子供のころ聞いた「桃太郎」の話は、誰もが知っていて忘れることはありません。それは何故なのでしょうか。そこには一定の法則「型」が存在しています。
人間は、はるか昔から、ストーリーが大好きな生き物です。いくつもの神話があり、おとぎ話があり、どれだけ時代が移り変わっても受け継がれてきた物語があります。
そこには、「神話の法則(ヒーローズジャーニー)」があり、その原理原則が「スター・ウォーズ」や「バックトゥザフューチャー」、「タイタニック」などの作品にも重要な要素として活用されているのです。
「スター・ウォーズ」では、辺境の惑星に住む少年「アナキン・スカイウォーカー」がジェダイにより見出されたように、「神話の法則」では「Call to adventure」によって冒険がはじまります。この「Call to adventure」こそが、「人生の(成功)パターン」への第一歩なのです。
そして、「神話の法則」では、この人生のパターンを「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」として、ヒーロー(主人公)が、旅を通して成長する過程を、いくつかのステージ(段階)に分類しています。
このステージ(段階)沿ったストーリーを要約すると以下のようになります。
平凡な「日常の世界」で毎日を過ごしていると
ある日、何らかのかたちで「冒険への誘い」を受け
最初は「拒絶」しますが、メンター「賢者」と出会い、新たな世界へ行く準備をして
冒険へ踏み出し、「第一関門」を突破し(ここからスペシャルワールドが始まります)
「試練」を経験したり「仲間」や「敵対者」と出会う事で
スペシャルワールドのルールを学び
仲間たちとともに「最も危険な場所へ接近」し
奈落の底に落ちて恐怖と直面し「最大の試練」を迎えます
その後、死の危機を乗り越えて「報酬」を手にしますが
「帰路」で敵の追撃に会い、死線を彷徨います
しかし、一命を取りとめ「復活」して「宝を持って帰還」します
ここで、補足しておきますが「賢者との出会い」は、ストーリー展開によっては、事故や自然災害などを要因とするイベントの発生に換わることがあります。
「復活」については、一度、死んだかの様に見えて、そこから生還する事で英雄になるステージですが、これは必ずしも「本来の死」である必要はなく、古い人格が死に、新しい人間として「復活」するパターンもあります。
また、「宝を持って帰還」もリアルな金銀財宝だけではなく「愛や友情」、「教訓」、「人生への希望」、あるいは「世界の平和と秩序」などにも置き換わることもあります。
私は以前のコラムで、アップル社が「我々は世界を変えるという信念で行動しています」と提唱しているように、自分達の理念や「物語(ストーリー)」を語ることで、その製品・サービスに人々は共感することを書かせていただきました。
「物語(ストーリー)」を語ることは、映画や小説の世界だけのことではありません。「神話の法則」は、「人生の(成功)パターン」なのです。
考え方を換えれば、我々の身辺に起こる様々な事柄を、「冒険への誘い(コールトゥアドベンチャー)」だと認識する事ができるのではないでしょうか。
ここまで、映画「スター・ウォーズ」を例に考えてきましたが、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」の「型」を参考にしていると思われる、その他の事例についても少し触れておきます。
TBSテレビ系で10月にスタートした連続ドラマ「下町ロケット」が、他のテレビドラマの視聴率が低迷する中、高視聴率を記録しています。物語前半の区切りとなる、第5話の平均視聴率は20.2%と大台に乗り、瞬間最高視聴率は26.0%を記録しました。
この「下町ロケット」では、阿部寛演じる主人公の佃航平が、宇宙開発の研究員として自らが開発したロケットエンジンによって、打ち上げ失敗の責任を取らされ退職した後、父親の遺した中小企業の「佃製作所」の後継ぎとして大企業と衝突しながら、いくつもの苦難に立ち向かい、それを乗り越え、夢に向かって突き進むストーリー展開になっています。
原作者の池井戸潤氏が「神話の法則」を意識して執筆したかは定かではありませんが、「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」を踏襲したストーリー展開は、「何気ない日々に希望を見出したい」視聴者に向けて、閉塞感漂う現状を吹き飛ばすカタルシスを提供していると思われます。
このように見方を変えると、「神話の法則」をベースとして「物語(ストーリー)」を語る「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」の事例は、様々なかたちで応用することが可能になります。
先月投開票された大阪府知事及び大阪市長の任期満了に伴う、大阪ダブル選挙において「おおさか維新の会」は、「過去に戻すか、前に進めるか」を選挙のキャッチコピーとして、選挙を戦いました。
自分達は前に進める「改革勢力」であり、自分達に対抗するのは過去に戻そうとする「守旧派」というように、対決の構図を単純化したストーリーにして、選挙戦を展開したのです。
このように単純化された対決の構図だけが、今回の選挙での「おおさか維新の会」圧勝の要因だとは断言できませんし、このような対立軸を鮮明にして単純化する手法はポピュリズムを助長することにつながると認識していますが、物事を単純化したストーリー展開として、自分たちの主張をアピールする手法には活目すべき点があります。
システムやサービス提供を考える時、独自の世界観で自分達の「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」について伝えるところから始めては如何でしょうか。そして、それを反映させるようなシステムやビジネスモデルを創生することが、「人の心を動かす」ことに繋がるのではないでしょうか。
今回のコラムでは「神話の法則」を例として、新たなビジネスモデルを展開する際にコアとなる、独自の世界観や「物語(ストーリー)」を語る重要性について考えてみました。
今後もこのコラムでは独自の視点で、システムやサービスのあり方、ビジネスモデルに関するユニークな事例等についてご紹介しながら、読者の皆さまと共に考察したいと思っています。
最後にアメリカの比較神話学者「ジョーゼフ・キャンベル」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。
「私たちはこの冒険をひとりで冒す必要はない。今までの英雄たちが、私たちの先へ行ってくれているからだ。迷宮の道順はすでに解き明かされている。」
それでは、次回をお楽しみに・・・