日本政府観光局(JNTO)は、昨年11月の訪日外国人数が前年同期比41%増の164万8000人に達したと発表しました。
国籍・地域別では中国がトップの36万3000人(前年比75%増)となり、次に韓国35万9800人(前年比50.5%増)、台湾29万6500人(前年比25.4%増)、香港13万800人(前年比53.4%増)と続き、この東アジア圏からで全体の約7割を占めています。
株式会社ジェイティービーは、このようなインバウンド観光客の堅調な増加傾向と、為替レートが円安基調で訪日旅行がし易い諸条件が継続すると見て、「2016年の旅行動向見通し」では、訪日外国人数が2350万人に達すると予想しています。
今回のコラムでは、この好調な外国人観光客の訪日の動向と、ネットの特性を活かしたインバウンドマーケティングについて考えてみたいと思います。
インバウンドと言えば、中国人による「爆買い」が必ず話題になりますが、観光庁のデータによると、中国本土からの旅行者の旅行消費額は2015年1~9月だけで、1兆1千億円を突破し、2014年旅行消費額の倍の数字を記録しています。
この「爆買い」する訪日中国人が利用しているのが、”中国版ツイッター”として有名な「微博(ウェイボー)」です。「微博」は2010年にサービスを開始し、2014年末時点でのユーザー数は1.75億人と言われていますので、世界的に見ても大手「SNS」のひとつに数えられます。
中国からのインバウンド観光客は、行動がある程度制限されるツアーで来日していることから、訪日前に「微博」の口コミ情報を集めて、お土産でなにを買うのか「お買い物リスト」を作るのが、いまでは定番になっているようです。
そして、購入後の感想を「微博」にアップすることで、その情報がネット上でシェアされ、「旅行者」と「旅行者予備軍」がその口コミ情報を共有することになります。
このように、中国の人々も我々と同様に旅行の計画を立てる時にはインターネットを利用して、宿泊地を中心とした観光地やショッピングスポットの情報を検索していますが、この訪問先の情報を「検索」している段階に、その「旅行者予備軍」に対してどのようにアプローチするかが重要であり、インバウンドマーケティングの核になる部分だと言われています。
なお、この「微博」については、世界最大級のEC(ネット通販)企業「アリババ」が、「微博」の発行済み株式を約30%保有していますので、今後は「微博」の口コミ情報のトレンドを2つのサイトで情報連携させ、ターゲティング広告に活用するなどして、日本商品の掲載情報を増加させることで、「アリババ」の事業展開を加速することも予想されます。
そうなれば、日本旅行中に購入した商品を気に入った顧客が、その商品をネットで購入したいと考えた場合に向けて、日本企業が「アリババ」のECサイトに出店して中国国内の顧客に直接アプローチするなど、インバウンド観光で認知度を上げた我が国の商品を、直接中国の顧客に対して販売することや、将来的には来日予定の無い顧客層に対しても販売することが可能となってきます。
ちなみに「微博」のつぶやきで、中国人が買ったものランキングのベスト3は「雪肌精」、「酵母&ビフィズス菌ハラハチ習慣」、「夜遅いごはんでもDIET」だそうです。
このベスト3の商品から考えても、たまたま店頭で商品を見て気に入ったから買ったのではなく、事前にしっかりネットでリサーチして、商品を購入していることが理解できます。
かつては、中国人の意識の中の日本企業は、トヨタやソニーなどの大手企業に偏っていましたが、「微博」等のネット上のサービスが進展することによって、最近はファッション・化粧品・食品などの分野において、個別のアイテムに対する関心が高まっていますので、このネットを活用する訪日中国人の動向は、日本のどこでどのような商品を買えるのか、その商品を購入したらどうだったのか、などの口コミ情報がネット上に発信され共有されていくことで、今後は大きな潮流となってインバウンド市場を形成していくものと考えられます。
この観光関連の動向では、昨年末にGoogleが興味深いデータを公表しています。
Googleの2015年(1月1日~11月30日)の年間検索トレンドによると、海外で英語検索された日本に関わる検索キーワードを「ファッション」、「食」、「日用品」、「コンテンツ」、「観光」の5つのカテゴリに分類すると、最大の特徴は「観光」カテゴリの成長率がトップで、30%増となっていることです。
世界全体では、同カテゴリの増加が11%であった一方で、日本に関する成長率が30%増となっていることで、世界的にも日本の観光が注目されていることが解ります。
そして、昨年「日本」に関して英語検索された成長率の高いキーワードには、2つの特徴がありますが、それは「宿泊関連キーワード」の上昇と、「大阪」の急上昇です。
「宿泊関連」の「施設名」と「地名×宿泊」で検索されたキーワード、「日本×hotel」では46%の増加を示すとともに、「Ryokan」でのキーワード検索も増加して、「Ryokan」という呼称の知名度が上昇しています。
民泊に関連したキーワードでは、「日本の地名×Airbnb」の検索が95%と急増していますが、昨年の傾向としては東京以外のキーワードでの検索が80%と大幅に増加し、その中でも、「大阪」の成長率は高い傾向で、東京の22%に対して33%と高い数値を示す結果となっています。
そして、また中国の話題にもどりますが、昨年12月に中国のポータルサイト「網易」では、「日本に行ったら必ずやるべき10のこと」の標題で、以下の10項目が訪日観光に関するオススメ情報として紹介されました。
このトピックの中で「桜の木の下でピクニック」では、我が国のお花見について、日本のドラマで見る光景をぜひ体験してみようと提案し、「東京探検」では、東京を歴史と現代が融合した世界で最も安全な繁華街であり、東京は中国人にとって魅力的な街であり、おいしい和食も堪能できることをアピール。
「北海道でスキー」では、北海道でスキーをするのは、生きているうちに必ずすべき一大イベントだと表現し、「大阪で食い倒れ」では、天下の台所と呼ばれた大阪は、中国人にとって日本の庶民グルメの宝庫、たこ焼き・お好み焼きなど、ミシュランの星はなくても食欲をそそられる店が街中に溢れていますと、地方の魅力やグルメ情報にも触れています。
「相撲を見る」では、日本の国技である相撲観戦は中国人にも興味深く、年6回の場所はすぐ満席になるので必ず予約しようと呼びかけ、「姫路城を見学」では、江戸時代の城の様式を体現し、四季折々の魅力がありその美しさに息をのむ、「温泉」では、温泉は日本各地にあり日本旅行では外せない場所、「伝統文化を体験」では、日本は中国とは異なり伝統文化の継承に力を入れているので、茶道・生け花・書道など、旅行のついでに「授業を受ける」のも良い思い出になると、体験型の観光を提案。
「お遍路」では、四国八十八箇所をめぐるお遍路で古代建築に囲まれ時空を遡ったような感覚を味わうことを、そして「京都のお寺巡り」では、 京都の街は中国から伝来した文化と日本文化が融合して生まれた都市、歴史に関心を持っている人なら楽しめることは間違いない、と文化観光についても紹介しています。
このように、海外での訪日観光に関連した動向や「検索キーワード」のトレンドを見ていくと、「SNS」等のネット上のサービスを上手く活用して訪日外国人旅行者を地方に呼び込み、地方都市にインバウンド観光を軸とした新たな成長の基盤を創生することが、真の意味での「観光立国」につながるという思いが強くなってきます。
最後に、もう一つ国内の事例として先進的な取り組みをされている、京都「清水寺」のWebサイトをご紹介したいと思いますが、このサイトではまず最初に、縦書きのメニューで寺院が持つ世界観をしっかり表現したビジュアルが目に飛び込んできます。
そして、このWebサイトの素晴らしいところは、閲覧者が必要とする一般的な情報以外に「清水へ参る道」という名称の特設コンテンツが、非常に高いクオリティで提供されているところにあります。
「清水へ参る道」ををクリックすると、スムーズに特設コンテンツの動画再生が始まり、サイト訪問者を一気に「音羽山 清水寺」の世界へと誘います。
この特設コンテンツでは、清水寺をより深く知ってもらうための「感じる清水寺」「読む清水寺」「観る清水寺」という3つのパートで構成されています。
それぞれのパートが「YouTube」の動画を活用した「感じる清水寺」、ブログ記事としての「読む清水寺」、「tumblr」を利用したフォトギャラリーの「観る清水寺」となっていますので、私が知る限りでは、寺院のサイトとして最も先進的なサイト構成になっていると感じています。
このサイトのコンテンツを見ていると、「清水寺」に対して理解が深まるだけではなく、自分の頭の中に「清水寺」のイメージがしっかり定着することで、現地を訪ねてみたい気持ちがより強くなっていくのは私だけでしょうか。
なお、このような動画などによる情報発信だけではなく、お馴染みのコンテンツとしてPDF形式でのフリーペーパー「FEEL_KIYOMIZUDERA(PDF)」も配布していますので、これを印刷して持ち歩くことも可能になっています。
その他の「SNS」系のサービスでは、「Facebook」や「Instagram」も積極的に活用するなど、サイト訪問者が必要とするコンテンツの提供にプラスして、自らが発信した情報をネット上のサービスを活用してレバレッジを掛ける(増幅させる)ような「清水寺」サイトのコンテンツ構成は、他のサイト運営者にも大いに参考になると思われます。
そして、このサイトの上手いところは、サイト閲覧者が「必要とする情報」を提供するだけではなく、「清水寺を訪問したくなる」ストーリーを、ネット上の動画・写真などを活用して疑似的に体験してもらうところです。
このようなサイト展開は、インバウンドの外国人観光客のみではなく、国内の観光客を集客する意味でも学ぶべき点が多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは、「SNS」等の既存のネット上のサービスを活用することで、縮小する国内市場を補完するような、インバウンドマーケティングの可能性について考えてみました。このコラムでは、今後もこのような独自の観点から、システムのあり方や、その先にあるビジネスモデルなどについて、考察したいと思っています。
最後に、古代キリスト教の教父「アウグスティヌス」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。
「世界は一冊の本だ。
旅をしない者は本の最初のページだけを読んで閉じてしまうようなものだ。」
それでは、次回をお楽しみに・・・