前回コラムでは、スマホを活用したモバイル決済システムの可能性について考えてみましたが、今回はその続編です。
過つてスティーブ・ジョブズが2007年に「iPhone」を発表した時、彼はそのプレゼンで電話を再発明すると定義して、三つの機能を紹介しています。
ジョブズのプレゼンでは、「3」という数字は大きな意味を持っています。
彼がプレゼンする時、一番重要なものを「3番目」に持ってくることは、お約束として、みんなが知っていました。
(この重要な案件を「3番目」に提案する技法はプレゼンの「王道」です。)
この時も、ジョブズの頭の中では「革新的なインターネットディバイス」として、スマートフォンが未来を快適にする、そして、パソコンでは実現できなかったことを実現する媒体として「スマホ(iPhone)」を認識していたと思います。
「iPhone」は「iPod」と携帯電話を合体させたものではなく、インターネットへの常時接続が可能な、いつでも使えるコンピューターと位置付けていたのです。そして、ジョブズが頭の中に描いた未来は、現実のものになります。
これ以降、「iPhone」の好調な人気とともにスマートフォンの概念は広く普及して、インターネットとコンピューターは、一部の人達だけが利用するものではなく、誰でも使えるツールになり、いま我々はあたりまえのように「スマホ」を日常生活で活用しています。
今回のコラムでは、このジョブズのプレゼンにならって、前回ご紹介した「NFC(近距離無線通信)」と「HCE(Host Card Emulation)」、そして今や社会インフラの一つとして機能している、公共交通機関の非接触決済システムを掛け合わせた、新たなビジネスモデル展開の「試案」について考えます。
今回ご提案する三つの機能は以下のとおりです。
最も重要な三つ目の要素「革新的サービスモデル」では、「NFC」対応のスマホ(グローバル端末)を利用した「HCE」によるネット上の決済システムを構築し、一般の店舗や飲食店、観光施設、公共交通機関などで利用できる環境を整備して、インバウンド観光(外国から我が国を訪れる観光客)に向けたサービスモデルの「試案」をご提案します。
インバウンド観光については、人口が減少することで縮小していく国内需要の補完に加えて、外貨の獲得や地域における雇用機会の創出などが期待できることから、唯一今後の伸びしろが期待できる成長分野だと考えています。
また、インバウンド観光を推進することが、海外での日本ファンの獲得、地域の産品やコンテンツの輸出増加にもつながると思っています。
世界的に見ても、観光産業はその裾野の広さと今後のグローバル市場の拡大から、経済の成長や地域経済の活性化に影響を与える重要産業の一つとして、世界の国々で自国の競争力向上と、成長市場獲得に向けた取り組みが行われています。
2020年にオリンピックを開催する東京都では「NeXTOKYO構想」を策定し、「情報」という新たなレイヤーを加えた未来型情報都市TOKYOをキーワードとする「インフォメーションシティ」を重要なテーマの一つとして、インフラとコンテンツの間にある「情報レイヤー」の整備を通じて、都市としての回遊性と魅力を向上させることを掲げています。
また、「京都市」では2020年の東京オリンピック開催までに、外国人宿泊客数を昨年の3倍近い年間300万人にする、新たな観光振興計画案を策定しています。
この計画では、イスラム圏からの旅行者を取り込むため、豚肉やアルコールの飲食を禁じるイスラム教の戒律「ハラール」への対応や、礼拝所の設置、外国人に対応したコールセンター、無線LANの環境整備、伝統品の制作体験に関する情報発信など、インバウンド観光客に対するきめ細やかな対応を盛り込んでいます。
いま、アジア地域の旅行需要は増加を続ける傾向で、今後の観光産業の成長を牽引していくと予想されていますが、情報化・ICTの進展がそれに拍車をかけています。
ネットにアクセスすることで、個人や少人数のグループでも、旅行を自由自在にアレンジ出来るようになり、それが海外個人旅行客(FIT)の増加を促しています。旅行者個人がネット上で発信する情報やニーズが、サービスの品質を向上させ、サービスの変革が海外個人旅行客の増加に繋がる好循環を生み出しているのです。
いま目指すべきは、誰でもが日常的に使用しているスマートフォンを活用したネット上に構築された共通基盤を利用者が共有して、サービスを享受するようなビジネスモデルを創出することで、スマホに対応した新たなサービス事業の展開が、海外個人旅行客を呼び寄せる誘因になると考えられます。
今回の「試案」は、我が国の公共交通機関で利用されている非接触決済システムと、「NFC(近距離無線通信)」、「HCE(Host Card Emulation)」の要素技術を組み合わせて、スマホ(グローバル端末)をインバウンド観光客向けの周遊・決済系ツールとして利用するサービスモデルのご提案です。
JR東日本の「Suica」、関西で「スルッとKANSAI」が提供する「PiTaPa」などの交通系ICカードを利用したサービスは、公共交通機関の利用をを中心として、一種の社会インフラとして定着しています。
公共交通機関の非接触決済システムと、新たに構築したモバイル決済環境が連携することで、外国人観光客に便利で快適な日本観光を満喫してもらうことが、他の国にはない、日本独自の観光コンテンツの創生に繋がるのではないでしょうか。
もちろん、この「試案」実現には多くの課題が山積していることは認識しています。我が国の「Suica(FeliCa)」の要求仕様100msをどうようにして、「HCE」で実現させるのかなど、前回のコラムでも触れたシステムの処理速度の問題は大きな課題です。
しかし、この問題については発想を転換して、処理速度は現状のままで対応策を考える。
例えば、一般の店舗などでは、250ms程度の処理速度で対応が可能だと思いますし、駅の改札機については、外国人観光客専用レーン(開札)などを設置することで処理速度250msのまま、運用を工夫することで課題を克服できると考えています。
スマホなどのモバイルデバイスの利用によって蓄積されたビッグデータからは、乗降履歴や買い物などの購買履歴が把握できるだけではなく、観光客の行動特性や消費行動の分析など、マーケティング分野での活用も可能になり、更なるビジネスモデル創生の指針になると思われます。
今回のコラムでは、ネット環境が整備され、交通系の決済基盤が高度に発達した我が国の特性を活かしながら、新たな要素技術を掛け合わせることで、縮小していく国内市場を補完するような、海外からのインバウンド観光客に向けた新たなビジネスモデルについて考えてみました。
最後に「スタンリー・キューブリック(映画監督)」の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。
「世の中に、馬鹿げた考えなどというものはない。」
それでは、次回をお楽しみに・・・