節分の日、恵方巻き(巻き寿司)を「丸かぶり」されたでしょうか。
今年の恵方の方角に向かって、お寿司を「丸かぶり」する行事ですが、関西発の風習であることをご存知でしょうか。
この節分に「巻き寿司」を食べる習慣については、大正時代大阪の花街で、節分の時期に漬けあがった漬け物「新香」を「巻き寿司」にして、恵方を向いて食べる、旦那衆の遊びが始まりと言われています。
また、昭和初期に大阪鮓商組合や海苔協会が「節分の丸かぶり寿司」のチラシを配布した記録などもありますので、大阪の一部地域での風習を寿司業界が上手く利用した販促活動(ビジネスモデル)でもあります。
その後、コンビニの「ファミリーマート」が1983年(昭和58年)大阪府と兵庫県で販売を開始し、昭和60年代のはじめには関西圏以外の地方でもキャンペーンが実施され、関東地方では川崎の若宮八幡宮がこの頃から「恵方巻」の行事を始めています。
全国的な展開としては「セブンイレブン」が加盟店オーナーとの会話の中で恵方巻の存在を知り、1989年(平成元年)新たなイベントとして広島市内で販売を開始し、1995年(平成7年)には西日本に販売エリアを拡大、その後1998年(平成10年)に全国展開したことで急速に認知度を高めていきます。
さて、今年2015年の恵方(えほう)は「西南西やや西」の方角ですが、この恵方(えほう)については、古代中国の陰陽五行説「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」10の要素からなる十干(じっかん)に基いて、その年の福徳を司る神である「歳徳神」(としとくじん)の在する方位をいいます。この「歳徳神」は方位の神「頗梨采女」(はりさいじょ)で、「牛頭天王」の后(きさき)であり、方位を司る八将神の母とされています。
「牛頭天王」は祇園精舎の守護神とされる仏教由来の神で、日本では神道の「素戔嗚尊」(すさのおのみこと)と習合し、明治期の神仏分離令まで祇園社(八坂神社)の祭神として祀られていました。そして、「頗梨采女」は「牛頭天王」の后であることから、「素戔嗚尊」の后である「奇稲田姫」(くしなだひめ)と同一視されています。
「恵方巻き」から突然、神話の話になって驚かれているかもしれませんが、「素戔嗚尊」(すさのおのみこと)や「奇稲田姫」(くしなだひめ)が登場する神話の世界の精神構造は、時代は移り変わっても我々の心の中に脈々と流れるDNAのような形になって継承されているのではないでしょうか。
例えば、天照大神(あまてらすおおみかみ)が天岩戸に隠れる天岩戸神話では、岩戸に引き篭った天照大神を「八百万の神」が協力して岩戸の外へ連れ出しますが、難題に対して皆が協力しあって対応するところは、「一神教」的な考え方ではなく「循環的な相互依存関係」いわゆるコミュニティ的な考え方です。
そして、この全員が主役である「全は一、一は全」のような「八百万の神」的関係がネットワーク上のサービスや、ビジネスモデルのトレンドになりつつあります。
皆さんは、女子中高生のスマホをユーザーを中心に急激に利用者数を増やしている、10秒動画コミュニティアプリ「MixChannel」(ミックスチャンネル 通称:ミクチャ)をご存知でしょうか。
「MixChannel」は、CGM(Consumer Generated Media)型のサービスで、既存の保存されている画像、動画、音声などを組み合わせて、10秒間の動画を簡単にネットへ投稿(アップ)することができる、コミュニケーション型のシステムです。
同種の動画系サービス「Vine」と同じように見えますが、動画を撮ってすぐにアップするリアルタイム性に特化した「Vine」とは異なり、「MixChannel」は「デコる」、「コラージュ」などの機能に特化して、既に保存されているコンテンツに手を加えて投稿するシステムを特徴としています。
「MixChannel」は2013年12月にサービス開始しましたが、ユーザーの70%が女性で、主な利用者は16歳~18歳の女子中高生が中心です。直近のデータでは、昨年11月時点で170万ダウンロード、月間訪問者350万人、月間動画再生数は3億8500万回を突破し、急速な勢いで利用者を増やしています。
「MixChannel」最大の特徴は、単なる動画共有サイトではなくコミュニティとして成長しているところで、それを活性化しているのが「リンク」「ファン」というふたつの仕組みです。この機能は「循環的な相互依存関係」に基づいたコミュニティを形成するために重要な役割を果たしています。
「リンク」は投稿者同士の関係性に着目した機能で、さらに細分化された「リメイク」「コラボ」「シリーズ」3つの機能を備えています。
「リメイク」は動画同士を紐付ける機能で、既存の動画を元にして新たな動画を作成する、その名前通り動画をリメイクすることができる機能です。「コラボ」では、既存の動画に新たに作成した音声を乗せて、二つのコンテンツがコラボレーションすることができるようになり、「シリーズ」では、新たに作成した動画を元の動画の続編として投稿する仕組みを提供しています。
もうひとつの機能「ファン」は、リンクで構築した関係性を更に強化します。投稿者のファンになると、その投稿者が新しく動画を投稿した際に通知が届くようになります。
投稿者も自分のファンだけに動画を公開することが可能になり、ユーザー同士の関係性はより強固なものになり、コミュニティとしての結束も固くなっていきます。
またユニークな仕組みとして、Facebookのいいね!に相当する「Like」を連打することが可能な機能があり、「この動画が好き!」という思いを連打で表現できることも他のコミュニティ系サービスにはない特色として、ユーザー同士の結びつきを強くする要因になっています。
このように「MixChannel」では、既存の動画(コンテンツ)を投稿した投稿者も、それに関連した新たな動画を作成したユーザーも、お互いが満足できるような環境を構築することで、より親密なコミュニティを醸成できる仕組みを構築しています。
そして、互いに共感し合いながら、チーム一丸となってひとつのものを作り上げていくような「全は一、一は全」的なプロジェクト展開が、まったく異なる分野においても成功をおさめています。
いつもディズニーの話で恐縮ですが、いま話題のディズニー Pixarのアニメーション「ベイマックス」では、20人のクリエーターをチームにして作品の構成を徹底的に精査し、「どうしたら面白くなるのか」をチーム全員で考え「ヒットに繋がる要素」を盛り込み、「ウィークポイント」を補強し、「不安な要素」を取り除いていく手法が採られています。
彼らのチームでは、作品の企画段階から制作開始までの間、徹底したリサーチや議論を重ね、作業に着手する時点では全てのストーリーやシーンのカット割りなど作品の制作に必要な全ての要素が完璧な形でそろっています。
これが、宮崎駿・庵野秀明などの、一人のカリスマが中心になって作品を作り上げる日本の「作家主義」と大きく異なるところで、ジブリ作品などでは、作品の制作途上であってもストーリーが結末まで出来上がっていない作品もあります。
ディズニー Pixarのチームでは、観客の嗜好を徹底的に研究して、人々が何に感動し、怒り、どんな映像やサウンドを好むのか、いつ誰とどのようなシチュエーションで映画を見るのかなどをシミュレーションして、可能な限りそれらに対応できるような作品を完成させるシステムを作り上げています。
このディズニー Pixarの手法が、昨年の「アナと雪の女王」のようなヒット作品の誕生につながっていきます。
「アナと雪の女王」がヒットした要因については、昨年の私のコラムにも書かせていただきましたが、この作品、登場人物の描き方が過去のディズニー作品とは大きく異なっています。
「ハンス王子」の立場は目まぐるしく変わり、「アナ」が何故あそこまで姉思いになるのかについては意味不明です。また、冷静に見るとストーリー展開には不自然なところもあります。
しかし、「アナと雪の女王」は大ヒットしました。これは、クリエーター達が協力して作品に必要な情報を可能な限り盛り込み、ネガティブな要素を排除していった結果、作品の情報量(構成要素)が増加することで、過去の作品とは異なった良質の作品に仕上がったことが要因ではないかと考えています。
さて、このみんなが協力しあって物事を推し進めていくCGM(Consumer Generated Media)的なプロジェクト展開、これからどちらの方向に向かっていくのでしょうか。
私は、フラットに構造化されたチームの一人一人が、互いに誘発されるような循環的相互依存関係を醸成することで「一つの生命体」のようにチームが機能し、結果として全体のエネルギー量を上げる循環サイクルが生まれるのではないかと感じています。
これからのシステム開発やプロジェクトの進行は、このような形態が主流になっていくのではないでしょうか。
今回は神話の世界観から、根源的な方向「フラットな構造化」「コミュニティー化」に向かっている CGM(Consumer Generated Media)的な動向について考えてみました。
このコラムでは、今後もこのような独自の観点から、システムのあり方や、その先のビジネスモデルなどについて、考えたいと思っています。
最後に「フィリップ・コトラー」(アメリカの経営学者)の言葉をご紹介して、今回のコラムを終わります。
「未来を見通すためには、歴史を知らなければならない。」
それでは、次回をお楽しみに・・・