「生成AI」はドラえもんの夢を見るのか
~「ChatGPT」の可能性について考える~

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略 [第4回]
2023年7月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

いま、様々なメディアで対話型「生成AI」の動向が報道されていますが、2023年4月には「ChatGPT」を運営するOpenAI社のサム・アルトマンCEOが来日し、岸田首相と電撃会談したことは大きな話題となりました。

イタリアなど欧州で「生成AI」の利用を規制する動きが広がる中、5月に開催された「G7広島サミット」の議長国である日本を訪問することで、急速なテクノロジーの進展を抑止する動きに対して、一定のプレゼンスを示そうとしたのでしょうか。

2022年11月30日からサービスを開始した「ChatGPT」は、2023年1月に1億人のアクティブユーザー数を記録するなど、史上最も急速に成長しているネット上のサービスと呼ばれ、日本国内でも利用者数が急増しています。

アルトマンCEOは、多言語化を目指す「ChatGPT」の戦略として、日本語を利用して多言語習得の知見を集積したいとの思いから、最初に訪問する国として日本を選んだのかもしれません。

現在、OpenAIの「ChatGPT」には、「ChatGPT3」と「ChatGPT4」2つのモデルが存在しますが、「ChatGPT4」では、タスクに対する生成物の質的向上に加えて、画像等のビジュアル情報の理解が可能になるなど、処理能力がより進化したといわれています。

「生成AI」の覇権を握るのは誰か

Microsoftでは、「ChatGPT」を展開するOpenAIに出資することで、検索サービス「Bing」や「Microsoft 365」を進化させようとしています。「Bing AI」と呼ばれる新たな検索システムでは「AI」と会話するような感覚で、Web上の最新情報に基づいた回答を得られるようになっています。

「Bing AI」では、「Edge」ブラウザ上でメール作成の補助や、PDF・Webサイトの要約、テキストから画像を生成するAI機能「DALL-E2」など、単なる検索AIではなく、アプリやサービスの「Copilot(副操縦士)」と位置付け、「Microsoft 365 Copilot」の名称でWord・Excelなど、既存アプリとの連携を強化しています。

2023年3月には、Microsoftの検索エンジン「Bing」の1日のアクティブユーザー数が1億人を超えたという報道もあり、「GPT-4」の導入によって、これまで検索エンジンの世界でトップに君臨してGoogleの検索シェアに肉薄していると思われます。

このような状況の中、Googleが2023年5月10日に開催した開発者向けイベント「Google I/O」では、スンダー・ピチャイCEOがサプライズ登壇し、基調講演の大部分をAI関連の発表に割くなど、「AI」の先駆者として長年取り組んできたGoogleの強い思いを感じさせるイベントになりました。

また、今回の基調講演では、英語からドイツ語、フランス語、スペイン語に拡大してきた対話型「生成AI」、Google「Bard」が日本語と韓国語に対応したことが発表されています。

Googleは「Bard」を発表した一方、既存の検索サービスの延長線上にある「GSE(Generative Search Experience)」や、音声でやり取りする「Googleアシスタント」も存在しますので、「調べる」という点において3つのサービスを混在させながら、今後どのような展開を図るのでしょうか。

これまで、Googleはプラットフォーマーとして他社を圧倒してきましたが、今後はGoogle検索の代わりに「Edge」や「ChatGPT」を使う人が増加すると思われます。音声アシスタントの分野では、Appleは「Siri」を進化させる必要性に迫られ、iPhoneは今後のOSアップデートで大きな成果を具体化させる必要があると思われます。

Amazonのアレクサについても同じような状況で、今後は対話型のデバイスにも、「ChatGPT」と同等の性能が要求されることが考えられます。これら大手プラットフォーマーの企業間競争に中国の「百度」などが加わり、対話型「生成AI」の覇権を競い合う熾烈な戦いが予想されます。

「知能のようなもの」の出現

「AI」について考えるとき、人間の脳の神経細胞「ニューロン」の仕組みをプログラム上で再現したモデル「ニューラルネットワーク」の仕組みが語られますが、人間の脳は、ネットワークのように繋がった「ニューロン」で構成されています。

一つひとつの「ニューロン」は、複数の接合部から送られた入力信号に対して、出力する単純な仕組みでしかありません。そんな「ニューロン」が集まっただけで、なぜ「知能」や「自意識」が生じるのかに関しては、いまだ解明されていません。

いま解かっていることは、人間が進化する過程で脳中の「ニューロン」の増加に伴い、「知能」や「自意識」が、出現したという事実です。つまり、人工知能においても、人間の脳と同様に、「ニューロン」の数が増えた結果「知能」のような存在が発生するかもしれません。

OpenAIのTechnical Reportの中では、「出現(emerge)」という言葉が使われていますが、「GPT」は途中で終わっている文章に最も適切な言葉を追加することが得意な人工知能として開発され、「ニューラルネットワーク」の規模を大きくするに従い、「知能のようなもの」が出現したのです。

そう考えると、今後、さらに「AI」人工知能が進化することで、その中に「自意識」や「知能」のようなものが出現する可能性は否定できないと思われます。

「AI」活用のリスクと可能性

インターネットが誕生したころには、「原子爆弾の作り方」などの情報にアクセスできるようになってしまったことや、3Dプリンターが登場したときには、ネット上で「銃の設計図」が公開されたことが社会問題として指摘されましたが、同様のことが「生成AI」に関しても考えられます。

「AI」人工知能のリスクに関しては、OpenAI社等も認識しており、同社の「GPT-4 Technical Report」には、そのリスクに対する考え方や取り組みも記載されています。

人工知能のリスクは、大きく分けると、人工知能が人から職を奪うリスク、フェイクニュースや、フェイクビデオ(Deep Fake)が蔓延するリスク、差別発言のリスク、犯罪への応用リスク、人工知能の暴走リスクなどが挙げられます。

このような論議の際にいつもいわれるのは、新たな仕組みやシステム・ツールを利活用するのは我々で、大きな可能性を秘めた対話型「生成AI」についても、指示を与える「人間」の側に、使いこなすだけの度量が求められることです。

今後「DX」の先にある、人工知能の急速な進展による「AIX」ともいえる、「AIトランスフォーメーション」を成功させるには、「AI」を使いこなす人間が「AIX」によって変革を起こす気概を持つことではないでしょうか。

「ChatGPT」に代表される、自然言語を理解する「LLM(Large Language Model)」型の人工知能を使用する際に重要なのは、「プロンプト」と呼ばれる、AIへの「指示文章」の書き方であり、この「プロンプト」作りが出力結果のクオリティに直結します。

特に、専門知識が必要な分野では「プロンプト」の設計だけではなく、人工知能が出力した「解答」のクオリティを判断する能力が必要になり、そこではエンジニアリング・スキルよりも、その道の専門的知識の重要度が増してきます。

例えば、行政分野の「Q&A」サービスを作る場合、「AI」人工知能へ指示することは、「行政の専門家として、市民・住民からの質問・相談に、専門知識を活用しながらも、誰にでもわかるように回答してください」等の、「プロンプト」を与える必要があります。

しかし、人工知能からの「解答」が適切なものか判断するには、行政分野における知見や法律・法令等の専門知識が必要になり、エンジニアリングに関するスキルだけでは、より良いサービスの提供には繋がりません。

自治体ごとに異なる法令・条例等がある場合には、関連する法律の文章を「プロンプト」に含めた上で、「この法律に基づいて、市民からの相談に応えてください」と指示を与える必要があります。この手法は「Context Injection」と呼ばれて、法律相談のような専門知識が必要なサービスにおいては、必須ともいえるテクニックです。

「生成AI」はドラえもんの夢を見るのか

世界の情報化戦略は、北米の「GAFAM」など巨大IT企業を中心に、EUはプライバシー重視のルール形成を志向し、中国は国家によるトップダウン型で、インドはボトムアップ型に分類されると思われます。

この先、「AI」人工知能の利活用が急速に発展・進展していく中で、世界の国々が置かれている状況、政治・経済・イデオロギーなどによって、戦略や受容する態勢など、その進捗に差異は現れるのでしょうか。

「AI」人工知能やロボットについて連想するのは、SF作家アイザック・アシモフが自らの著書の中で提示し、現実のロボット工学にも影響を与えた「人間への安全性、命令への服従、自己防衛」を目的とする「ロボット三原則」が思い出されますが、日本は世界の他の国と比較して受容度が高いように思われます。

筆者のように「ガンダム」や「マジンガーZ」と共に育った世代も含めて、日本人が思うロボットの姿は、SF映画「ターミネーター」に登場する不気味な存在ではなく、手塚治虫の「鉄腕アトム」で天馬博士が交通事故で亡くした息子に似せて創った、「アトム」ではないでしょうか。

ロボットアニメの名作「機動警察パトレイバー」や「新世紀エヴァンゲリオン」に登場するのは、人が操縦する作業機械の「レイバー」や、汎用人型兵器ですが、いまや国民的アニメともいわれる「ドラえもん」は、のび太の兄弟か親友のような存在です。

これからの時代、もし共に過ごすとすれば、兄弟姉妹や親友のような存在でしょうか。人口減少が急激に進展し「極超高齢化」社会になりつつある我が国では、世界で最も早く「AI」やロボットを受容する環境が到来しているのかもしれません。

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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