京都市観光協会「DMO KYOTO」は、2023年10月の京都市内110ホテルの客室稼働率が82.9%となり、コロナ禍以降の最高値を記録した前年11月の稼働率80.2%を突破し、前年同月の63.7%からは19.2ポイント増加したと発表しています。
このように、インバウンドが堅調に回復する中、旅行業界に特化したデジタルマーケティングを展開する「Sojern(ソジャーン)」社と、「DTTT(デジタルツーリズムシンクタンク)」では、世界の300を超えるDMOを対象に調査したレポート「デスティネーション マーケティングの現状」を発表しています。
このレポートでは、ほぼ半数49%のDMOが「AI」の影響が最も顕著になるのはコンテンツ作成で、さらに40%が予測分析、38%がデータ分析に「AI」が大きな可能性があると回答するなど、「AI」の急速な進展が観光産業におけるマーケティング手法にも多大な影響を与えることを指摘しています。
SNSでは、Instagram 45%、Facebook 35%が依然として重要なプラットフォームと認識し、重要なチャネル形式では、ネイティブ広告またはスポンサー付きコンテンツが94%、ディスプレイ広告等が85%、インストリームビデオ広告が78%など、マーケティング目標を達成する要素として有料メディアへの投資を挙げています。
そして、多くのDMOが持続可能性を重視する観点から、欧州のDMOでは62%が気候変動、56%%が生物多様性を優先事項と捉えている一方で、カナダでは気候変動 29%、生物多様性 24%、米国では生物多様性 33%、気候変動 8%など、サステナビリティの目標に向けて事業展開を図っていることも示唆しています。
また、このレポートによると、78%のDMOが地元の事業者と提携した取り組みを実施し、地域におけるマーケティング投資の増加 58%、視聴者リーチの拡大 54%、費用の負担 46%など、共同マーケティングに積極的な現状も明らかにしています。
株式会社マイクロアドが全国300の自治体において実施した、「訪日外国人観光客の誘致を目的としたWebプロモーションの課題とニーズ」に関するアンケート調査では、地方自治体の40%が何らかの観光施策を展開し、その中で最も多く利活用されているのは「SNSの公式アカウント運用」で、実施率は35%になっています。
それに続いて、2位は「HP・多言語サイト」の運用が17%、3位は「YouTube」10%、以下「Instagram/Facebook」広告、「インフルエンサー」の活用、「メディアタイアップ」施策などが続いています。
なお、自治体のインバウンド施策に係る年間予算は、「51〜300万円」が16%で最も多く、それに続いて「予算なし」が14%であるのに対して、「1,000万円以上」の自治体が12%を占めるなど、自治体間で予算編成に温度差があることに驚かされます。
また、インバウンド向けプロモーションを実施しない理由を聞くと、「観光資源が少なく、必要性がない」が27%、「予算がない」が20%。「新型コロナウイルス感染症の影響」と回答したのは5%に留まっています。
効果的なプロモーション施策の課題は何かという設問に対しては、「費用対効果の図りにくさ」「ターゲットへのアプローチ方法が不明」が同率の16%を筆頭に、「運用方法・体制」「ターゲットが不明瞭」が続き、他には「他自治体との差別化」や「訪日客のデータ収集」「外国人の消費金額が不明」などの回答が寄せられています。
このように、訪日外国人観光客向けのWebプロモーションを実施しているものの、実証後の効果測定や費用対効果の定量化・定性化など、継続的な施策の実行に向けて、それらを可能とする支援サービスが求められていることが推測されます。
これまでに実施した施策の成果や費用対効果を検証し、データによる「見える化」を徹底することで、施策の各段階における進捗のモニタリングや成果測定を行い、「EBPM」をより進展させ、観光分野での「DX」を加速化させる必要があると思われます。
市場調査会社「イプソス」では、2008年から毎年、国家イメージ分野における世界的権威サイモン・アンホルト氏と共同して、国家ブランド力を評価するグローバル調査を実施し「国家ブランド指数(NBI)」を公表しています。
この調査では、世界60カ国を対象に「文化」「国民性」「観光」「輸出」「ガバナンス」「移住・投資」6つの指標で魅力度を指数化し、ランク付けしていますが、2023年版の「アンホルト-イプソス国家ブランド指数(NBI)」では、日本が第1位に輝いています。
日本は2018年にそれまで過去最高の2位を記録しましたが、翌2019年に5位に後退し、その後2020年に4位、2021年に3位、2022年には2位になり、2023年は6つの指標で軒並み順位を上げ、今回初めて60カ国中のトップに立ちました。
2023年の調査で、日本は6つの指標全てでトップ10入りを果たしましたが、評価が最も高いのは「輸出」で、科学技術への貢献、創造的な場所であること、製品の魅力という3つの属性で1位を獲得し、「国民性」と「観光」の指標でも高い評価を得ています。
ドイツは2016年以来初めて、国家ブランド指数で2位に後退しましたが、各指標内でのドイツの評価は高く、スポーツの卓越性、製品の魅力、世界の貧困削減への貢献などが好意的に評価され、「輸出」「移住・投資」「ガバナンス」「文化」の各指標で5位以内にランクインしています。
カナダは2022年と同様3位でトップ3にランクインしていますが、世界的評価は高く、「国民性」「移住・投資」の各指標では1位を維持し、イギリスは2022年にNBI史上初めてトップ5から外れ6位になりましたが、今年は「ガバナンス」に対する評価が好転したことで、4位に復活しています。
「国家ブランド指数(NBI)」が示すように、日本に対する海外からの評価は高く、それに伝統文化や食など、他の地域では体験できない日本独自の魅力が加わり、円安の状況なども勘案すると、今後も日本への関心度は高まることが予想されます。
国の持つ国際的なイメージは、貿易、観光、投資、人材の誘致に大きな影響を与えると思われますが、日本が2023年の国家ブランド指数で1位を獲得した事実は、我々が新しい時代に突入したことを示しているのかもしれません。
そしてその一方で、都市圏内や地域間の交通インフラについては、インバウンドの急速な回復と、多様な働き方やQOL重視などライフスタイルの変化を踏まえた、新たな社会的課題への対応が叫ばれています。
我が国の人口は、2050年には全国の居住地域の約半数で50%以上減少との予測もあり、中小店舗の減少や、医療機関の統廃合・移転、学校の統廃合等により、買い物、通院・通学など日常生活における「移動」の問題が深刻化しています。
公共交通事業者の財務状況は、長期的な利用者の減少、新型コロナウイルス感染症の影響による急激な落ち込みによる経営環境の悪化など、その後も回復の見通しが厳しいことから、今後の安定的な公共交通サービスの提供が課題になっています。
情報化技術の進展は、需要を供給に合わせるのではなく、供給を需要に合わせる市場モデルを可能にしたといわれていますが、モビリティ分野においても、ユーザー側の需要データをベースとした、利用者に寄り添ったサービスモデルへの転換が図られるべきではないでしょうか。
また、地域と地域が交流する広域圏の形成に向けて、既存の公共交通ネットワークの有効活用を図るとともに、デジタル・IT等も活用することで、交通関係者とモビリティサービス事業者の連携・協働を進めることも必要です。
いま、国内の様々な観光地において、地域に活力を送り込む「観光」と、その移動に欠かせない「交通」にデジタルを掛け合わせた「観光DX」や「観光MaaS」が注目され、多くの実証実験が行われていますが、「モビリティ」そのものは、我々の暮らしの基盤であり、住民生活の重要な要素のひとつです。
今後は、自治体や事業者・NPO法人等が連携して、施設・車両・人材など、地域内のリソースを最大限活用し、公共施設等を中心に交通結節点の機能強化を含めた、マルチタスク化を図ることで、デジタルを活用した「AIオンデマンド交通」「自動運転」など移動サービスの提供を推進することが重要です。
いまこそ、「観光」を戦略領域として再認識し、自分達のエリアにおける地域づくりとは何か、自分達は何を目指しているのかについて考え直す必要があると思われます。
観光はその土地が持つ魅力や、世代を超えて受け継いだ大切なものを、未来へ繋げていくことではないでしょうか。そして、地域住民と観光客の便益を両立させ「共存共栄」の関係性を作り出すことが、新たな「観光リソース」の創生に繋がると思われます。
我が国が世界に誇るものは、長年にわたり地域の人々が大切に受け継いできた、歴史・文化や、美術的要素が融合した日本独自の特異性です。人が長く豊かに暮らすという「地域づくり」が基盤にあり、その地域の魅力を求めて観光客が訪れます。
人口規模は小さくとも、世界の人々に尊敬され、尊重される国・地域として、世界を絶えず意識し、世界に通用する「地域特性」を磨き上げていくその先に、緩やかに縮小していくだけではない、未来の予想図が見えてくるのではないでしょうか。