シティプロモーションの展開に向けて
~次世代の自治体広報戦略を考える~

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略 [第8回]
2023年11月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

自治体の広報活動といえば、広報誌を中心としたイメージがありますが、現在では自治体が運営するWebサイト、SNSや動画など様々な媒体を用いて、住民が求めている情報をタイムリーに発信することが求められ、大きな転換点を迎えていると思われます。

従来の広報は役所からの「お知らせ」が主体で、自治体側が伝えたいことを告知・広報する形態が主流でした。しかし、広報の語源となる「PR」は、「パブリックリレーションズ(Public Relations)」の略語で、公衆とより良い関係を形成するための方策で組織と人をつなぐ考え方や活動を示すものです。

原点に立ち返って考えると、自治体広報が目指す役割は、「地域の住民に必要な情報を伝える」ことと、「住民の街づくりや政策への参画意識の醸成」です。そして、昨今では、人口減少に対応するため「地域外の人にも地域の魅力を伝える」ことで転入者の増加につなげる役割が期待されています。

また、最近では「戦略的広報」という言葉が使われるようになり、地域の魅力をアピールし、移住者を増やすことなどを目的として、SNSとの連携や「ゆるキャラ」の活用など、様々な手法を採り入れることで、戦略的な広報に注力する自治体が増加しているように思われます。

変容する住民意識への対応

ゲッティ・イメージズが提供する画像・動画素材サイト、「iStock(アイストック)」が日本を含む、世界25カ国の7,000人を対象にした「ビジュアルGPS」リサーチによると、Webサイトを訪れた人々に影響を与えるのは静止画像よりも動画で、動画コンテンツへの関心が高い傾向が明らかになりました。

この調査は、マーケティングにおける購買決定に、画像や動画がどのように関与しているかをリサーチしたものですが、回答者の75%は、旅行や観光の広告・PRを見た時、自分自身や家族が楽しんでいる姿をイメージし易いビジュアル・コンテンツに惹かれると回答しています。

Webコンテンツで最も好まれているのは動画で、写真が重要だとする回答の30%を上回る53%の回答者が動画コンテンツを支持しています。このような結果を踏まえて「iStock」では、インパクトのあるマーケティング用ビジュアル・コンテンツを選ぶためのアドバイスとして、以下の要点を挙げています。

象徴的な景色よりは地域の文化や伝統、ユニークな体験の紹介と、体験をビジュアル化することの重要性や、見る人の共感を呼ぶことを優先させる。そして、人の感情に強く訴えかけ、現地を訪れたいと思わせるような、本物の体験を伝えるリアルな動画を使用することで、人々の関心と共感に繋がるとしています。

メディア別コンテンツの動向

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所は、毎年実施している「メディア定点調査」の2023年の結果を公表していますが、それによると、メディア総接触時間は443.5分(1日あたり/週平均)となっています。

メディア別では、「携帯電話/スマートフォン」が2022年から4.7分増えて151.6分、「テレビ」は2022年から8.2分減の135.4分となり、メディア総接触時間における「携帯電話/スマートフォン」 のシェアは34.2%になり、2022年に「携帯電話/スマートフォン」が「テレビ」を上回った後、モバイルシフトが続いています。

テレビのインターネット接続は、2022年から3.5ポイント増加し54.9%となり、テレビをネット上の動画コンテンツ再生機器として利用する等の、ストリーミングデバイスの所有は2022年より9.3ポイント増加の 33.7%になり、テレビ受像機のモニター化・ネット化が加速しています。

民放公式テレビポータル「TVer」の利用はさらに拡大して約4割(39.5% 昨年比7.5ポイント増) になり、2022年伸びが鈍化した「サブスクリプション」定額制動画配信サービスの利用は再び増加し過半数(54.6% 昨年比7.1ポイント増)を超えています。

また、2023年は「見逃し視聴サービスによるテレビ番組視聴」(26.2% 昨年比8.5ポイント増)と躍進し、見逃し視聴サービスの存在感が増すなか、「録画したテレビ番組視聴」(64.4% 昨年比7.1ポイント減)は減少する一方、スマホ画面でのテレビ番組視聴は28.0%と約3割に近づく結果になっています。

世代別プロモーションの重要性

「ニールセンデジタル」が公表した、Z世代に含まれる18~24歳のスマートフォン利用動向によると「デジタルネイティブ」と呼ばれ、SNSや動画サービスを自由に使いこなす、この世代へのアプローチは、デジタルメディアを活用したコミュニケーション施策のなかで重要な要素になると思われます。

スマートフォンからの主要メディア利用者数トップ15で興味深いのは、利用率がどのサービスでもZ世代のほうが高く、特に「X(旧Twitter)」では、全年代65%に対して18~24歳87%、「Instagram」全年代62%、18~24歳81%など、20ポイントほど高くなっています。

18~24歳は、主要動画7サービスの利用時間も全年代の14%を10ポイント上回る24%になり、動画配信サービスの「Amazon Prime Video」や「Netflix」ではその差異は拡大し、Z世代では多様なサービスを使いこなしながら、多くの時間を動画コンテンツの視聴に費やしている傾向が顕著です。

このような結果から、Z世代に向けた情報発信については、主要メディア上で差異化を図りながら、他のメディアをうまく活用して効率的にリーチ・拡大する方策を採るなど、ターゲット世代のメディア視聴状況を理解した上でのコミュニケーション設計が重要になります。

そして、今後はこのようなメディアの特性を理解した上で、世代別にターゲット層をセグメント化した、広報戦略の立案が求められると思います。

広報戦略の策定に向けて

まずは、広報戦略の目標を明らかにし、達成したい具体的な結果を設定すべきではないでしょうか。例えば、「子育て世代」の転入者を増やす、特定の施設の利用者数を増加させる、地域イベントの参加者を増やす、「関係人口」を増加させるなど、明確な目標設定が必要ではないでしょうか。

これには、ターゲットとなる地域住民の年齢、性別、職業、趣味、情報取得方法など、様々な要素と、頻繁に利用すると思われるメディア・プラットフォームを精査した上で、メッセージを伝えるための最適なチャネル選択が必要です。

自治体のWebサイト・ホームページは、情報提供の主要プラットフォームで、24時間いつでもアクセス可能で、住民が情報を必要とするタイミングで利用できるメディアの特性を理解した上で、最新のニュース、イベント、行政サービスなど、地域住民が知りたい情報を積極的に提供する必要があります。

「X(旧Twitter)」、「Facebook」、「Instagram」などのソーシャルメディアは、タイムリーな情報を迅速に発信し、住民と直接コミュニケーションを取るための有効な手段として、また、広範囲に情報を拡散・共有できることを踏まえて、運用することが肝要です。

電子メールについては、今更の感を持たれるかもしれませんが、特定の情報を特定の人々に直接発信する効果的な方法で、最も安定したメディアでもあります。自治体の側から定期的なニュースレターを電子メールで送信することや、最新のニュースやイベント情報を地域住民に確実に知らせることが可能です。

ブログは、ホームページ・Webサイトと、SNS・電子メールの中間的なメディアとして、新しいプロジェクトや新たに推進する施策に関する、より詳細な情報やバックストーリーを共有するための媒体として、地域住民との繋がりを深めることができる特性を持つツールとして活用すべきと考えます。

セグメント化したプロモーション戦略

若者向けの戦略については、この世代はデジタルネイティブであり、SNSやWebサイトを通じて情報を得ることが前提になっています。自治体は、「X(旧Twitter)」、「Instagram 」などのSNSを活用し、動画やビジュアル面を強化した情報発信を行い、コミュニケーションすることで共感を醸成することが重要です。

中高年世代に向けた戦略では、この世代は新聞やテレビ等の旧来のメディアから情報を取得することが多いため、情報発信する自治体側は、新聞・テレビなど既存のメディアとの連携を図り情報発信することが有効で、これと並行して公共施設での掲示板の活用やパンフレット配布なども有効な手段となります。

高齢者に向けた戦略としては、地域のボランティア団体や社会福祉協議会と協力して、情報を伝えるなど、直接的なアプローチが効果的と思われます。また、高齢者向けのイベントや講座を開催することで、施策に対する関心を高めることも可能になります。

このように、自治体の広報戦略は、世代間での情報取得方法や価値観の違いを考慮した、適切なメディア選択が肝要で、それを前提にセグメント化した施策を展開することで、より効果的なシティプロモーションに繋がると思われます。

シティプロモーションの展開に向けて

一例を挙げると、千葉県流山市では、30代~40代前半の子育て世帯を対象に「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズでPR活動を展開し、住み続けられる街としてのブランディングに注力されています。

具体的には首都圏に勤務・在住する「子どものいる共働き世帯」をターゲットに、駅広告やWeb上でのPR活動を展開することで、首都圏からの転入者を増加させ、その結果、市内の0歳~9歳及び30歳~49歳の人口も年々増加傾向を示し、人口増加率は、2017年~2020年の4年連続で全国1位を記録しています。

さらに、市民が集まるイベントの実施や「ママ友作りコミュニティ」の立ち上げなど、市内で活動する「コア市民」を中心に、子育て世帯の定住を意識したプロモーション活動も実施されています。

この流山市の「子育て世代」へのアプローチのように、今後はターゲットをしっかり設定したシティプロモーションを実施することが重要であり、これと併走した実施後の見直しと、施策をフォローするプロモーション展開にも注力する必要があります。

今後、人口減少が進展すると人口獲得に向けた自治体間競争の激化が予想されます。ソーシャルメディアを通じてメッセージを拡散し、価値観やビジョンを共有・共感することが自治体イメージを形成し、それが自治体ブランドの形成に繋がると思われます。

変革と共創する時代の情報化トレンド戦略

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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