2025年に開催される、日本国際博覧会(大阪・関西万博)の想定入場者数は約2,820万人、そのうち約350万人のインバウンド客が見込まれていますが、万博を起点として日本各地に訪日観光客を呼び込み、観光振興を図るにはどうすればよいのでしょうか。
広域連携DMOである関西観光本部では、エリア内を巡るインバウンド向けの旅行商品の開発や、旅行者をサポートする受け入れ態勢づくりを進めるとしていますが、インバウンド訪問率が高い大阪、京都、奈良、兵庫の地の利を活かしながら、半日、日帰り、1泊2日など、周遊ルートの提供やツアー商品の開発が必要になると思われます。
2025年の万博開催は、大阪・関西だけではなく我が国全体のイベントです。全国レベルの経済的波及効果が期待できるような、全国各地の地域を訪れる必然性が生まれる仕組みを作り出し、国内外旅行者の分散を図ることが必要です。
また、約半年の万博開催期間内に、地域特性を活かした誘客や付加価値のあるツーリズムを展開提供することで、関西を起点とした広域観光基盤を確立し、ゲートウェイとしての周遊ルートや、旅行商品をレガシーとして次の時代に継承することが重要ではないでしょうか。
そのためには、万国博覧会が開催される「舞洲」のメイン会場に対して、既存の地域特性を活かしながら、関西各地をサブ会場と位置付け「関西全体を万博会場」と見立てるような、各地域を大阪・関西万博に連携させる大胆な発想が必要なのかもしれません。
2023年10月にティザーサイトが先行オープンした、万博の公式観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」は、2024年4月に開設され、日本語、英語、中国語、韓国語に対応することで、インバウンド観光客は入場予約日の前後で興味のある商品を購入することが可能になります。
しかし、万博を契機に訪日するインバウンド客が全国各地を周遊し、地方の地域が潤っていく好循環を作り出すためには、DX化や個々の観光客のニーズに合わせた、コンテンツの高付加価値が必要となります。さらに向上させるためには、旅行者と住民、そして地域の事業者をつなげるデジタル基盤の構築が必要となります。
2025年日本国際博覧会協会は、大阪・関西万博の「EXPO2025 デジタルウォレット」サービスを2023年11月1日から開始することで、会期前から、さまざまな企業と連携し、デジタルウォレットを通じて万博と利用者が「つながる」機運醸成サービスを実施していくとしています。
「EXPO2025 デジタルウォレット」は、サーバー管理型のWeb2とブロックチェーンのWeb3の管理手法を用いたデュアル方式によるウォレットアプリで、App StoreおよびGoogle ストアでダウンロードが可能になっています。
そして、電子マネーの愛称を「ミャクペ!」、ポイントを「ミャクポ!」、「NFT」を「ミャクーン!」と呼称し、サービス開始は2024年5月を予定していますが、利用状況に応じて、利用者に特典を提供する「ミャクミャク リワードプログラム」も展開するとしています。
「NFT(Non-Fungible Token)」は、日本語では「非代替性トークン」と呼ばれ、ブロックチェーン技術を利用して唯一性を証明する手段として注目されていますが、大阪・関西万博では「NFT」を利用した電子チケットを発行することが公表されており、これを契機に国内での「NFT」利用に弾みがつくと期待されています。
観光分野における「NFT」の利活用が、新たな市場創出につながると期待されていますが、新規性を活かした認知拡大効果が大きいことから、既存の観光商品にはない、新たな収益獲得が実現できると思われます。
また、「X(旧ツイッター)」等のコミュニケーションツールとの親和性が高いことから、フォロワーの獲得やユーザー接点の多様化など、ネットを活用したオンラインでのユーザー接点増強にも寄与すると考えられます。
タイ国政府観光庁「TAT」では、旅行者が専用アプリをダウンロードした後、バンコク周辺の5つの観光地に設置したQRコードを読み取ることで、ランダムにデジタルアートの「NFT」を入手できるシステムを構築し、スタンプラリー的な活用によって旅行者の周遊需要喚起に取り組んで成果を上げています。
これに加えて、「NFT」にはそれぞれ異なる特典を用意したり、「NFT」を3つ以上集めると航空券やホテル、飲食代の割引を受けられたりする特典も設定しています。
また、スロベニア政府観光局では、ドバイ万博のスロベニアパビリオンで、スロベニアの観光や文化、遺産等の画像を「NFT」化したものを配布し、誘客プロモーションを展開しています。
この際の「NFT」配布枚数は1万5,000枚ですが、同観光局ではこの経験を活かして、潜在的な旅行者たちと継続的なコミュニケーションを図るため、現在は会員組織を作り独自のマーケットプレイスを設置して「NFT」の配布を継続しています。
中華圏の活用事例では「中国敦煌研究院」が、世界遺産「莫高窟」の文化財保護活動の資金集めのため「NFT」を活用し、莫高窟壁画を「NFT」化して販売したところ、1万枚を完売する成果を上げたといわれています。
この、世界遺産「莫高窟」の事例では、1年間で3,500万人が閲覧し、購入者の70%を20~30代が占めるなど、若い世代を中心に大きな反響を呼んだことは、注目すべき事実ではないでしょうか。
日本国内の事例では、北海道・ひらふスキー場「ニセコパウダートークン」が、旧態依然のスキー場のビジネスモデルに「NFT」を絡ませることで、リアルな体験価値と新たなキャッシュポイントの創出を目指しています。
また、愛媛県今治市ではNFTコミュニティ「LLCA」とのコラボにより、今治タオルと「NFT」の意外な組み合わせが注目されたことで、「LLCA」「愛媛県今治市」「ふるさと納税NFT」の3ワードがX(旧ツイッター)でトレンド入りし、2023年7月のリリース時には、1点3万5,000円、222点が当日中に寄付受付完了になっています。
先ほど、海外の事例としてタイ国政府観光庁「TAT」の取り組みをご紹介しましたが、世界経済フォーラムが発表した世界各国の観光競争力と潜在性に関する調査「Travel &Tourism Development Index 2021」では、海外観光客数でタイは世界9位の3,956万人、日本は11位で3,188万人。観光収入ではタイが世界4位で605億米ドル、日本は7位で461億米ドルとなっています。
タイの観光に関する全体の方針、戦略、施策は、観光・スポーツ省「Ministry of Tourism and Sports」が策定し、その傘下のタイ政府観光庁「TAT」が観光地の開発方針、ハード面での開発、観光業者の登録・管理、観光統計の分析や、観光イメージの立案、国内外のセールス&プロモーションを担っています。
「TAT」の施策は、タイの国際観光客増加のプロモーションと国内観光の活性化、そして、国内観光産業の発展に向けた支援が主なものですが、ここで注目すべきは、ターゲットとして重要な海外29カ所にマーケティング拠点を設置し、現地の旅行代理店と連携して情報収集とプロモーションを行っていることです。
そして「TAT」の主な役割はマーケティング戦略の立案ですが、その根幹を成すのはセグメンテーションとターゲティングではないでしょうか。単に国レベルで優先順位をつけるのではなく、その国の中でどのような層を対象にするかという観点から、きめ細やかなターゲティングを設定していると思われます。
例えば、日本では富裕層の子どもや孫などをターゲットにした、リッチファミリー戦略、インドはウエディング、韓国はゴルファー、ノルウェーやスウェーデンなど北欧は老後のロングステイを主なターゲットに設定しているようです。
このようなタイの観光が目指すものは、これまでの量を求める戦略から、より高付加価値・高価格な質と金額を求める戦略にシフトしたことを思わせますが、マーケティング拠点を活用した情報の収集と、綿密なコミュニケーションをベースとした緻密なターゲットのセグメント化が背景にあると思われます。
大阪・関西万博では、全面キャッシュレス決済が導入される予定ですが、ツーリズム産業が抱える収益率の向上や、収入源の多様化、外部人材の活用、旅行者の関係人口化などの課題は、「NFT」の活用が解決に役立つとも考えられます。
万博オリジナル「NFT」の事例としては、ミャクーン!の「サービス登録完了記念NFT」、各地域のゆるキャラとコラボした「ミャクミャクのコラボNFT」、万博開催期間中にリアル・バーチャル万博や各地で開催されるイベントに参加することで獲得できる「NFT」などが考えられます。
万博の公式観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」では、中国や台湾を中心にアジア、アメリカ、イタリア、ドイツ、中東地域などをターゲット市場に設定し、訪日旅行のプロモーションを展開するとしています。
タイの観光事例で挙げたように、各国のマーケットを分析することで、ターゲットを緻密にセグメント化した戦略を立案し、それに「NFT」等を活用した施策を関連させることで、インバウンド旅行者にとって付加価値の高い、「CX(カスタマーエクスペリエンス)」の提供を目指すべきではないでしょうか。