2025年の崖を越える「自治体DX」とは
~協働・協創する地域社会へ向かって~

変容と混沌の時代に情報化戦略を考える [第2回]
2025年2月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

国民の5人に1人が後期高齢者(75歳以上)に到達し、人口構造が変化することで、労働力が減少するなど、日本の社会や経済等の広い領域に深刻な影響を及ぼすことから「2025年問題」と呼ばれる一年が始まりました。

そして、少子高齢化の進行による生産年齢人口の減少が、日本経済に大きな影響を与えています。労働力の不足は、企業の生産性を低下させるだけでなく、税収の減少にも繋がり、経済全体の成長を鈍化させる要因となっています。

少子高齢化のこれまでの推移を考えると、第2次ベビーブームの時代は、年間約200万人が誕生していましたが、その世代が第3次ベビーブームを作ることができなかったことが指摘されています。

第2次ベビーブーム世代の人々は、平均2.5人の子供を持つことを希望しながら、第3次ベビーブームが期待された2000年前後の出生率は1.5未満となり、就職氷河期の後期に出生率が一瞬微増したことを除いて、現在まで改善されたことはありません。

新生児の出生者数が減少すれば、当然のように労働人口は縮小しそれに伴って住宅や耐久消費財、日用品などの需要が減少していきます。景気が悪化することで子育てに対する意欲がなくなり、さらに人口が減少するという負のスパイラルに陥る可能性があります。

急速な高齢化により、医療、介護、年金といった社会保障費が年々増加していますが、現状の社会保障制度を維持するには、財政の抜本的な見直しと共に、効率化と人的負担の軽減を目的とした「DX(デジタルトランスフォーメーション)」による革新が必要ではないでしょうか。

問題解決のカギは「DX」にあり

2025年問題を乗り越えるための重要なカギは、技術革新にあります。特に「DX」は、様々な分野の労働力不足対策において大きな可能性を秘めています。

例えば、AIやロボットを活用することで業務の自動化を進め、限られた人材の効率的な配置が可能になり、デジタル技術を活用することで、より持続可能で柔軟性のある社会を構築することに繋がると期待されています。

医療分野においては、診療記録のデジタル化やAIを活用した病状診断ツールにより、医療現場の業務負担軽減が期待されています。また、介護分野においては、ロボットによる移動支援やセンサー技術を活用した認知症ケアなど、「DX」を取り入れることで質の高いサービスの提供が可能となります。

生産年齢人口の減少が大きな問題となっていますが、「DX」の導入はこの課題解決の重要なカギです。例えば、生産現場ではIoT(モノのインターネット))やAIを活用して設備点検や在庫管理を自動化し、限られた労働力でも高い生産性を維持することが可能になります。

また、一般事務の分野においても、業務プロセスを「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」を導入することで、人員をより戦略的な業務に振り向けられるようになります。

地域「DX」の推進に向けて

地方における高齢化と人口減少は、日本社会全体の課題ともいえますが、「DX」を活用した取り組みは、こうした地域社会にも変化をもたらしています。例えば、遠隔医療システムを用いることで、高齢者が自宅にいながら専門医の診療を受けることが可能となり、通院の負担を軽減します。

また、自治体がデジタル技術を応用した交通サービスや地域情報共有システムを導入することで、住民の生活の質が向上し、地域コミュニティの活性化にも繋がります。これらの事例は「DX」が地域社会を支える具体的な手段であることを示しています。

「DX」によって得られる恩恵を社会全体に拡大するためには、統一された基盤作りが必要になります。自治体と事業者等が連携することで、地域コミュニティや個人レベルでも「DX」を理解・活用できる仕組みを整えることが重要ではないでしょうか。

地方自治体では、ICT(情報通信技術)やIoT技術を活用して地域課題を解決する都市運営モデル、スマートシティの構築が進んでいますが、交通、福祉、防災など多方面で効果を発揮することが期待されています。

交通分野においては、AIを活用したオンデマンドバスの運行によって、高齢者の移動を支援することや、防災分野においてはIoTセンサーを用いた河川や地盤の監視が徹底され災害リスクの軽減が図られるなど、住民生活の質的向上にも寄与すると思われます。

社会全体の意識改革が求められる時代

労働力不足や医療・介護の課題が顕在化する「2025年問題」に対応するためには、社会全体の意識改革が不可欠です。これまでのような従来型の働き方や固定概念にとらわれるのではなく、デジタル技術を活用した柔軟な発想が必要とされています。

また、「DX」を推進する上で、技術への理解や適応意識を社会全体で共有することが重要です。テクノロジーとの共存を目指した教育や啓発活動が不可欠であり、持続可能な成長を後押しする環境を整備することが求められます。

労働力不足や高齢化社会が進む中で、「DX」による課題解決は新たなサービスモデルの創生にも繋がると考えられます。具体的には、AIやIoTを活用した医療・介護の効率化や、スマートシティ構築に向けたデータの利活用などが注目されています。

また、労働力不足を補うオンライン教育ツールやリスキリングプログラムの展開も、有望な市場として拡大しています。このように、「DX」は単なる技術革新にとどまらず、社会課題解決を通じて持続可能な事業モデルの創出を可能にすると思われます。

持続可能な未来を築くためのロードマップ

2025年以降も高齢化が進展する中で、現世代が次世代に向けて持続可能な社会を築く責任がありますが、これを実現するためには、自治体と事業者等が連携して、中長期的な視点を持ちながら、変革を進めることが不可欠ではないでしょうか。

事業の持続性・継続性を確保するためには、まずは、短期的な目標として、既存業務の仕組みを見直しながら、AI等のデジタルツールの導入を進め、即効性のある「DX」施策の展開を図ります。

中期的には、自治体と事業者等がデジタル連携を深めると共に、地域と地域、事業者と事業者が「協働・協創」することで、包括的な成長基盤の構築を目指します。

そして、長期的には、教育システムの改革や持続可能なエネルギー利用を含めた多面的な施策を展開し、社会全体の成長に向けて、計画的かつ継続的な取り組みを実行することで、「2025年問題」への対策が未来社会の発展に繋がると思われます。

「2025年問題」のその先にあるもの

2025年の後も超高齢化社会の進展は容赦なく進行し、2040年頃に団塊ジュニア世代層(1971年から1974年生)が65歳を超え、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が約35%に達する「2040年問題」が顕在化するといわれています。

「2040年問題」に対応するためには、様々な事業者が持つ高度な技術力を活用した、民間企業とのパートナーシップが重要な役割を果たすと思われます。特に、AIやRPA、ビッグデータ解析などの先端技術は住民サービスの質を高めるだけでなく、少ないリソースでの効率的な事業推進を可能にすると思われます。

住民サービスを高度化に向けては「AI」以外にも、インフラの維持管理や災害時の対策には「IoT」や「ドローン」を利用し、それらが収集したデータをもとに状況を可視化する「デジタルツイン」などの技術を積極的に活用するべきではないでしょうか。

公共施設等の点検は人手に頼っていますが、ドローンで撮影した映像を解析することで、補修個所の判断が可能になり、道路の点検もドライブレコーダーの映像を収集し解析するなど、路面のひび割れ陥没の状況を把握することが可能になると思われます。

また、監視カメラなど多様な「IoT」のデータをリアルタイムに処理することで、逆走などの異常を迅速に検知し道路管理者へ通報することで、事故を未然に防ぐことができるかもしれません。

自治体と事業者が効果的に協力するためには、自治体は地域住民への深い理解と責任を持ち、住民のニーズを的確に把握する一方で、技術面やイノベーションにおいては事業者側がリードすることで、新たなソリューションが実現します。

この共同作業は、自治体がサービスの質を向上させられるだけでなく、事業者にとっても自治体とのコラボレーションを通じて技術の実用化や市場拡大の機会を得ることができるなど、特に「2040年問題」を見据えた課題解決型の取り組みでは、こうした協力体制がより一層価値を増すのではないでしょうか。

地域社会全体を巻き込む「協働・協創」に向けて

「自治体DX」を効果的に進めるためには、自治体と事業者だけではなく、地域社会全体を巻き込む「協働・協創」の仕組みが必要です。例えば、自治体は市民や地域のNPO団体等と協力し、地域の潜在的ニーズを掘り起こしたり、政策の実現性を高めたりすることが可能になります。

また、民間事業者は地域で長期間運用できるサービスや技術を住民と共に設計することで、デジタルトランスフォーメーションの導入効果を確実なものにします。このような取り組みは、地域住民と自治体、民間事業者の三者が相互に貢献するエコシステムを構築し、持続可能な地域社会の実現に繋がると考えられます。

いま、時代は凄まじい速さで進展しています。このような時代背景の中で、地方自治体が事業の継続性を確保するためには、行政運営の在り方そのものに対する、聖域なき「改革」が必要になります。

2040年はまだ先に思えますが、多様化・高度化していく地域住民のニーズに対応するためには、自治体の政策推進そのものを「守りのDX」から「攻めのDX」へ変換する必要があるのではないでしょうか。

変容と混沌の時代に情報化戦略を考える

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

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