「生成AI」と「エージェントAI」の未来
~特性を活かした相互補完に向かって~

変容と混沌の時代に情報化戦略を考える [第3回]
2025年3月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

2024年はChatGPTやGeminiなど、チャット型の「生成AI」が大きな話題になりましたが、2025年以降さらに進展すると注目されているのが、自律的にタスクを遂行する、「エージェントAI」の動向です。

入力されたテキストに対して答えを提示するタイプのChatGPTなどの「生成AI」に対して、「エージェントAI」は、自らが情報を集めて判断し、タスクを実行する、自律型であることが大きな特徴になっています。

2025年1月ラスベガスで開催された先端技術見本市「CES2025」の開幕セッション、「CES2025 Tech Trend to Watch(注目すべきテクノロジー・トレンド)」においても、「エージェントAI」は、モビリティとともに、主要テーマの一つに位置づけています。

「生成AI」のデータ生成の仕組みは、事前に大量に収集されたデータセットを用いた学習結果に基づき、そこから得た知識から新たなコンテキストを生成しますが、このプロセスには、トランスフォーマーモデルや「GAN(生成型敵対ネットワーク)」などの技術が利用され、確率的推論を活用することで適切な出力を生成します。

「生成AI」が注目される理由の一つとして、その汎用性と効率性が挙げられますが、自治体における活用事例としては、チャットボットや資料の自動作成などの業務効率化に貢献すると思われます。

また、行政サービス分野では、住民対応業務の負担軽減、観光プロモーションでは多言語翻訳やコンテンツ生成、減災・防災分野ではシミュレーション教材の作成など、限られたリソースの中で質の高いサービス提供へ向けた取り組みが進められています。

自律的に行動する「AI」の登場

「エージェントAI」の特徴として、自らが目標や環境を理解し、タスクを計画・実行できる利点があります。旅行プランを考える場合、従来の「生成AI」では、観光地のランドマークを中心に、移動手段の提案など、旅程を計画するまでが限界でした。

しかし、「エージェントAI」はその一歩先を目指して、宿泊ホテルやフライトの予約から支払い等の決済まで、ユーザーに代わって実行することが可能になっています。

既に、この分野にはマイクロソフトの「Copilot Studio」等、多くの企業が参入し、顧客が自律型エージェントを自由に作成できる環境を提供していますが、アマゾンは買い物アシスタントとしてAIエージェント「Rufus」の日本導入を準備中で、アップルもスマホ上でアプリの操作や情報収集を学習するアシスタント機能を強化しています。

また、OpenAIは研究者向けプレビューとして「エージェントAI」を公開予定で、競合するAnthropicでは既にウェブ検索からデータ入力、さらにはコンピュータ画面の自律操作までを実現する「Claude」の提供を開始しています。

「エージェントAI」は、特定の目的に基づき、自律的に情報を収集、処理、意思決定を行うシステムやソフトウェアを指します。これらのエージェントは、人間の介入を最小限に抑えながら、収集したデータを分析し、最適な行動を実行します。

その範囲には、ルーティン業務の自動化や、複雑な問題の解決を支援する用途まで含まれると解釈すると、市民からの問い合わせに迅速かつ的確に対応するAIチャットボットも一種の「エージェントAI」といえるかもしれません。

更なる「AI」の利活用に向けて

自治体での「AI」の活用事例として、大分県別府市では「住民サービスの効率化」に向けて「生成AI」を活用したチャットボットが窓口業務をサポートし、千葉県千葉市においては、「エージェントAI」の「QURIOS AGENT」を導入することで、多言語での窓口対応や市民とのコミュニケーション円滑化を目指しています。

さらに、今後は観光プロモーションや防災教育の分野においても、「エージェントAI」を活用することで、多言語作品の翻訳や災害時の情報発信を自動化するなど、迅速な対応が可能となると思われます。

「生成AI」の特性は、膨大なデータをもとにテキスト、画像、楽曲の生成など、創造性やコンテンツ生産での活用が進んでいますが、「エージェントAI」は、特定のタスクやプロセスを自律的に管理・最適化する技術で、条件に基づく判断能力が強みです。

例えば「生成AI」によって、行政サービスに関するパンフレットを生成する一方で、「エージェントAI」は、サービスに対する市民からの問い合わせ対応や、記載内容の適切性を確認することで役割を果たします。

このように、両者は共に自治体などの効率化に貢献しながら、それぞれ異なる特性と役割を持っています。それぞれの技術が持つ強みを組み合わせることで、より複雑なタスクや高精度な意思決定の支援が可能になると思われます。

「生成AI」と「エージェントAI」を組み合わせることで、住民向けのパーソナライズされた行政サービスの提供が現実のものとなる可能性があります。このような相互補完的な技術の導入は、住民の利便性向上と自治体業務の効率化を同時に実現する可能性を秘めています。

行政分野における活用事例

住民の年齢、収入、生活状況に応じて、利用可能な補助金やサービスをAIが自動的に提案するシステムを構築することで、パーソナライズされた住民支援が実現すると思われます。

児童手当等を申請する際には、「エージェントAI」は提出された書類をスキャンし、不備がないかを自動的に確認することで、不備があれば即座に申請者へ通知を送ることが可能になり、業務プロセスの効率化に繋がります。

また、大量の住民データを収集し、地域ごとの課題を抽出することで、高齢者の医療ニーズが高い地域を特定し、その地域に医療リソースを優先的に配分する政策を提案するなど、データ分析による政策立案の支援が可能になります。

この他、道路や橋梁のセンサーからリアルタイムでデータを収集し、劣化や異常を検知することで、修繕が必要な箇所を特定し、迅速に対応するなど、社会インフラの保守管理分野での活用も検討されています。

自然災害が発生した際に「AI」が気象データや交通情報を解析し、最適な避難経路を住民に提示する避難誘導の支援や、災害時に必要な物資を効率的に配布するため「AI」が需要予測と在庫管理を行うことで、支援の偏りや不足を防止する支援物資の管理と配布が可能になります。

「AI」の進化と今後の展望

「生成AI」が住民向けの回答文を作成し、「エージェントAI」がその回答をもとに、住民対応を行う仕組みを作り出すなど、「生成AI」と「エージェントAI」は、異なる特徴や用途を持ちながらも、互いに補完し合える技術ではないでしょうか。

また、互いが持つシステム特性を掛け合わせることで、災害対応時の情報発信や状況把握の迅速化など、より高度で汎用的なサービスを提供できるなど、自治体のリソース不足を補いながら、住民サービスの質を向上させることが期待されています。

「生成AI」はその高い生成能力や多様な応用性から、さまざまな分野での活用が期待されていますが、自治体では住民からの問い合わせに対応する際の、24時間利用可能なチャットボットでの活用など、行政サービスの効率化に向けた運用が注目されています。

さらに、観光業や地域振興でも生成AIの可能性は広がっています。SNS投稿のアイデア生成、多言語対応の翻訳機能などにより、観光地の魅力を広く発信できます。これらの分野における更なる進化により、より効果的で効率的な社会運営が実現すると考えられます。

今後の利活用に向けて

「エージェントAI」は、プロセス支援や判断支援において特に強みを発揮しますが、さらに高度なデータ分析を活用し、住民ニーズをより的確に把握する、インテリジェント・エージェントの進化には大きな期待が寄せられています。

「AI」が過去の政策の成功事例等を分析し、将来の政策提案に反映するシステムが構築される可能性があります。例えば、地域別の人口動態や経済データをもとに、次世代の都市計画を最適化するなど、高度な政策形成支援が考えられます。

スマートシティの実現に向けて、エージェントAIは交通渋滞やエネルギー使用量のリアルタイムモニタリングを行い、効率的な都市運営の基盤となる、リアルタイムの社会インフラ管理についても可能性があると思われます。

「エージェントAI」は、行政分野において大きな可能性を秘めており、効率化や住民サービスの向上に寄与することが期待されます。

しかし、技術の導入に伴う課題を克服するためには、慎重かつ計画的なアプローチが不可欠です。技術革新とともに、住民との信頼関係を築きながら、より良い社会の実現に向けて歩んでいくことが重要です。

「生成AI」と「エージェントAI」の融合は、それぞれの技術が持つ特性を組み合わせることで、より複雑なタスクや高精度な意思決定の支援が可能になると思われます。

そして、このような相互補完的なシステム運用によって、パーソナライズされた住民サービスの提供と、自治体業務の効率化を同時に実現する未来に繋がります。

そのような時代にこそ、「AI」等のシステムを使いこなす、我々の力量が問われているのではないでしょうか。

上へ戻る