2024年10月に発足した石破内閣では、地方こそが成長の主役として「地方創生2.0」を掲げ、これを実現する政策として地方創生の交付金を当初予算ベースで倍増させた上で、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、今後10年間集中的に取り組むとしています。
振り返ると、2014年に安倍政権が打ち出した「地方創生」では、「まち・ひと・しごと創生法」によって、「地域の持続的な発展を目指し、地域内の人々がその土地で安心して暮らし、働き、育てることができる社会を創り上げること」を提唱していました。
この2014年の「地方創生」と比較すると、今回の石破政権が目指す「地方創生2.0」では、今一度、「地方に雇用と所得」そして、「新しい地方経済」を生み出すとして、「しごとづくり」がより前面に出ているのが特徴となっています。
過去10年間、政府は自治体とともに地方創生を推進するため様々な施策を展開してきました。地方創生交付金の活用や移住促進キャンペーンが展開され、これによって一部の地域では雇用創出や観光需要の拡大などの成果が現れています。
しかし、全体的に見ると短期的な支援策が多く、事業の継続性を確保するまでには至らなかったことや、一部の自治体では成功を収めたものの、その成功事例を他の自治体へ横展開する仕組みが不十分であったことも課題として指摘されています。
人口減少は地方経済や社会構造に深刻な影響を与えていますが、労働力不足に伴う生産力低下や事業継続の困難さ、公共サービスの縮小は、地域の持続可能性を大きく脅かす要因となっています。
これらの課題に対応するためには、先進的な取り組みを行った地域の成功事例に、多くのことを学ぶ必要があると思われます。例えば、移住促進政策が成功した地域では、地域の魅力を効果的に発信し、多様な人材の受け入れを積極的に展開しています。
また、デジタル技術を活用したサービスの拡充や、産官学の連携を推進して地域の産業を活性化させた事例もあります。さらに、「SDGs(持続可能な開発目標)」を効果的に取り入れた地域では、持続可能な社会作りへの取り組みとして、エネルギーの地産地消や環境負荷の低減に成功しています。
このような、先進的な自治体の成功事例と呼ばれる施策について、何故成功したのかその構成要素や仕組み作りなどを、しっかりと咀嚼して、自分達の地域に落とし込んで比較検証することで、新たな展開が見えてくるのではないでしょうか。
これまでの「地方創生」の取り組みの中では、十分なエビデンスに基づかない施策展開が少なからずありましたが、今回の「地方創生2.0」においては、政策形成の要点として「EBPM(Evidence-Based Policy Making)」に注力しています。
「EBPM」は確かなエビデンスに基づき政策を計画・実行する手法で、地方創生の効果を最大化するため不可欠な要素として、人口動態や出生率などの地域固有のデータを解析することで、地域課題の課題解決に繋がるとされています。
また、AIやIoTなど先端技術の導入によって、地域社会が抱える課題に対処できるだけでなく、地域のデータを収集・解析し、効率的な資源配分や政策立案を行うなど、デジタル技術やデータ活用が導き出す可能性に多くの期待が寄せられています。
そして、「地方創生2.0」の政策における重要な要素の一つが、「SDGs」との連携です。例えば、エネルギーの地産地消や地域内循環経済の構築といった取り組みが、持続可能性を実現する重要な要素となっています。
特に「地方創生」と「SDGs」には、環境保護、経済成長、社会的課題の解決という共通の目標がありますが、この相乗効果を生むためには、「SDGs」の目標を地域レベルに落とし込み、実現可能性の高い施策として結実させることが求められます。
さらに、「SDGs」の理念に則った取り組みを進めることで、自治体の施策が客観時にも評価され、地域・自治体の「ブランド化」が進展することで、観光や移住の促進、関係人口の増加など、「地方創生2.0」の波及効果が期待されています。
生産力低下や事業継続課題、公共サービス縮小が、地域の持続可能性を脅かす要因となる一方で、テレワークやリモートワークの普及によって、都市から地方への移住が現実的な選択肢となり、これらの「働き方改革」は、新たな住民の獲得や二拠点居住者の増加に繋がり、地域コミュニティの活性化に貢献していると思われます。
「ワクワクする地方の未来」へ向けての取り組みが求められる中、デジタル技術を活用することで、教育や医療、交通インフラの整備の拡充や、地域での安心・安全な生活環境を提供することで、地域の独自性を活かした成長戦略を描くことができるのではないでしょうか。
そして、「地方創生2.0」の成功に向けて留意すべきは、地方自治体同士が単独で取り組むのではなく、近隣地域との共同事業、物流・観光のネットワーク形成、行政サービスの共有化など、地域間連携を強化していく「協働・協創」の思想が必要ではないでしょうか。
人口減少型社会の進展と高齢化の進行によって、様々な業態で事業の継承が困難になり、新たな労働力の確保が急務となっていますが、そんな中、これからの時代に持続可能な地域社会の形成に向けた方策として、「スマートシュリンク」が注目されています。
「スマートシュリンク」戦略では、人口減少の中で住民の生活水準を維持しながら、公共サービスを向上・効率化していくために、都市や都市機能を賢く縮小させていくことを目指しています。
賢くスマートに「縮小・凝縮」する。このように考え方を転換することで、私達がこれまで常識としてきた、社会の慣行や制度上の課題に対して、課題解決に向けた方策が見えて来るかもしれません。
人口が減少していく中で、緩やかな経済の縮小を受け入れながら、先端技術の利活用やDXを通じて、自分達が幸せになる「ウェルビーイング」な暮らしに向けての道筋を描いていくことが、これからの時代のトレンドになるのではないでしょうか。
例えば、小・中学校の統廃合に関する問題や、公共交通機関の維持に関する課題、高齢者の通院・買い物難民に対する公的支援などに対して、人口減少に伴う公的投資の方向性や重点分野の議論が加速すると思われます。
そしてこれらの議論は、昭和の時代から続く拡大を前提とした、過去の成功モデルを今後も継承していくのか、現在の状況を踏まえて規模の縮小を受け入れるのか、相反する気持ちの中で、自分達がどの方向へ進むべきかを決断する大きな命題です。
今後、「スマートシュリンク」した地域においては、中心市街地の賑わい創出に向けて、歩行者の性別・年代等をカメラ画像から取得するシステムによって、データを収集・分析することで、街なかで活動する人々の動態把握が可能になると思われます。
これに加えて、「交通系ICカードの利用実績」や、「まちあるきアプリ」等のGPSデータ、「Wi-Fiスポット」の接続ログ等を分析することで、地域全体の活性化へ向けた、公共交通機関の利用推進等に活用することも考えられます。
また、高齢者への生活支援サービスや移動サポートなどについても、今後進展が期待されるロボット技術や自動運転に関連するテクノロジーの進展によって、現在の環境を大きく改善できる可能性もあります。
このように、先端技術を活用した課題解決の手法は、近い将来には都市政策の策定プロセスの定石となり、従来のアナログ調査では把握不可能な、動的で詳細なデータの収集・分析に基づいた施策の検証によって、新たな生活支援サービスが誕生しているかもしれません。
多くの人々は、人口が減少すると聞くと、ネガティブな世界をイメージするかもしれません。しかし、一部の地域では、中心部への集約化・コンパクト化など、人口減少下においても、地域の「ウェルビーイング」を追求する、「スマートシュリンク」へ向けた動きが始まっています。
西暦2050年(令和32年)には、日本の総人口は1億人を割り込み、9,515万人になるとされていますが、拡大を前提とした価値観が完全に崩壊したとき、自分達が目指す方向性や明確なビジョンを持っていることが重要になります。
これからの人口減少型社会をどう生きるか、「スマートシュリンク」はその問に対する選択肢の一つですが、その前提にあるのは、戦後の高度成長期に構築された拡大・成長こそを是とする価値観からの「脱却」にあると思われます。
そして、経済合理性と個人の幸福度の整合性を担保しながら、「ウェルビーイング」を高めていく戦いの中で、規模の拡大よりも、コミュニティ構築の重要性など、住民の一人ひとりが心豊かに暮らせる地域の実現に向けた、地方創生モデルの確立が必要なのではないでしょうか。