デジタル社会と呼ばれる現代においては、利便性向上と相反する要素として、ライフスタイルの変化による地域コミュニティの弱体化や、かつての近所付き合い、住民間の繋がりの希薄化が指摘されています。
そんな中、地方創生を加速させるヒントとして、アメリカの政治学者、ロバート・パットナムが提唱した概念「ソーシャル・キャピタル(social capital)」が再び注目を集めています。
日本語では「社会関係資本」と表現される「ソーシャル・キャピタル」ですが、社会を円滑に機能させるために有益な、人々の信頼関係や結びつきを表す概念とされています。
そして、「ソーシャル・キャピタル」が蓄積された社会では、治安・健康・幸福感が醸成されることで、行政効率が高まるとされるなど、より良い地域社会を形成していくために欠かせない重要な社会的要素と捉えられています。
ロバート・パットナムの定義によると「社会関係資本(social capital)」は、「物的資本 (Physical Capital)」、「人的資本 (Human Capital)」 と並ぶ新しい概念で、「信頼」「規範」「ネットワーク」などの特徴があり、人々の協調行動が活発化することによって、社会の効率性が高まるとしています。
また、米国における研究では、「ソーシャル・キャピタル」が高い地域ほど犯罪発生率が低下している結果が示されたことから、社会全体の健全性や安全性を高める大きな要素であることがわかります。
「ソーシャル・キャピタル」は、地方創生における「つながりのチカラ」でもあり、住民や自治体、企業など多様な主体が協働することで、その可能性を最大限に引き出すことが可能になり、それが地方創生に繋がると思われます。
少子高齢化や過疎化が急速に進展する中で、地域社会の繋がりが弱まり、課題解決が一層困難になっている現状ですが、「ソーシャル・キャピタル」の醸成を通じて、住民同士の信頼や協力関係を再構築するべきとの指摘もあります。
また、自治体と住民、企業と住民の連携をICTの利活用によって強固にすることが、地域活性化の基盤構築に繋がり、地域の持続的な成長が可能になると考えられます。
住民間の対話機会の減少や世代間の断絶、地域イベントの衰退が相次ぎ、結果として地域社会の脆弱化が進んでいます。これは、地域の活力を奪い、住民の孤立感を深める要因といわれています。
また、多くの地域で若年人口が都市部へ流出し、地域社会の維持が厳しくなっていますが、この傾向は人口減少社会の進行とともにさらに加速化することで、特に地方自治体にとっては喫緊の課題となっています。
このような状況から、ロバート・パットナムが提唱したように、信頼性や互酬性、市民参加型のネットワーク形成など、「ソーシャル・キャピタル」の醸成は、地域社会の結束力と持続可能な成長に欠かせないと思われます。
いまこそ、自治体と住民が連携を図り地域のDXを加速化させ、地域におけるネットワーク形成を促進し、地域の結束力を強化することで、新たな地域活性化の可能性が見えてくるのではないでしょうか。
また、「ソーシャル・キャピタル」が持つ「信頼性」や「互酬性」を活かすことで、地域間や世代間の関係性を深め、コミュニケーションを促進することで、持続可能な地域へ向けた、住民を中心にした多彩なプレーヤーの連携に繋がると思われます。
真の地方創生を達成するには、行政と住民の双方が適切な役割を果たすことが重要ですが、自治体は、住民活動を支援するための環境整備や政策策定に注力する一方、住民主体の活動を支援し、その自立性を尊重する必要があります。
例えば、コミュニケーションツールを活用した地域情報化を促進することが、住民参加型のネットワーク形成に繋がり、一方では、住民が自主的にコミュニティ活動を展開することで、「ソーシャル・キャピタル」の醸成が期待できると思われます。
持続可能な地域社会を構築するためには、地域経済の活性化が欠かせませんが、その基盤となるのは単なる経済活動だけではなく、地域の人々の活発な交流や信頼関係に基づく人間関係の形成が必要になります。
「ソーシャル・キャピタル」による地域ネットワーク形成は、経済やコミュニティを支える重要な要素となり、このネットワークが拡大することで、地域内での連携が深まり、地場産業や観光業などの地域資源を活用した新たな可能性が生まれるのです。
そして「ソーシャル・キャピタル」の構成要素として重要視されるのが、「信頼」と「互酬性」ですが、地域社会における信頼関係が高ければ、互いに協力しサポートし合う風潮が根づくと考えられます。
この相互扶助の仕組みは、持続可能性の高いコミュニティづくりに大きく寄与し、信頼関係に基づくネットワークは、人々の幸福感を向上させ、地域全体の一体感を強める効果を発揮するのではないでしょうか。
また、持続可能な地域社会を実現するためには、都市部と地方部がそれぞれの強みを活かしながら連携することが重要になり、都市部の技術力や資金力を地方に提供し、地方部の地域資源や人々のネットワークを組み合わせることで、新たな価値を創造することが可能になると思われます。
このような連携は、地域活性化や格差是正にも繋がり、都市住民と地方住民の対話や交流を促進することで、相互理解が深まり、共生社会への第一歩となります。
「ソーシャル・キャピタル」の視点から見ても、このような連携は「共通のアイデンティティ」や「相互の信頼」を育成する機会となり、持続可能な地域づくりに向けた可能性が高まると考えられます。
地域毎の異なる課題を克服するためには、各地域の特性や住民のニーズを的確に理解し、それに対応した実践的なアプローチが求められます。都市部においては、「孤独の解消」が課題であり、コミュニティカフェや交流スペースの創設が効果を上げると思われます。
一方、地方都市においては、人口減少といった課題がある中、空き家を活用して若い世代を誘致するなどの取り組みが進んでいますが、これらの活動は、地域社会における「ネットワーク」や「信頼」を取り戻す試みでもあり、それぞれの課題解決に向けては、「ソーシャル・キャピタル」の役割が重要な要素となることを忘れてはなりません。
そしてまた、テクノロジーの進化は、「ソーシャル・キャピタル」の醸成を下支えしていると考えられ、オンラインプラットフォームやSNSを通じた新しい人間関係の形成が、地域社会の維持と発展に寄与していることも事実です。
特に、遠隔会議やオンラインイベントは、地理的な制約を超えたネットワーク作りを可能にしました。また、AIやビッグデータの活用により、地域の課題を可視化し、適切な施策を講じることが容易になっています。
このようにテクノロジーの進化は「ソーシャル・キャピタル」の醸成による、持続可能な地域づくりを支えるツールの一つとして、大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。
地域間連携は、異なる地域同士が互いの強みを活かし、共通の課題を解決する手法です。一つの地域だけでは限界がある場合でも、他地域と協力することで、より大きな成果を生み出す可能性があります。
また、「ソーシャル・キャピタル」の醸成によって、遠く離れた地域同士でも信頼関係や互酬性を基盤に強い連携を築くことが可能になり、例えば、都市部と農村部が特産品の販促や人材交流で協力することにより、経済効果を高めることができると思われます。
「地方創生2.0」が目指すものは、単なる地方の活性化策ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策であり、その先にあるのは、多様性の時代と呼ばれる現代において、暮らしの中で幸福度を向上させるための方策ではないでしょうか。
これからの地方活性化では、地方と大都市圏が連携の強化を図り、都市部の資源や人材を地方に取り入れるだけでなく、地方が保有する歴史・風土、地域特性や魅力を積極的に発信することで、お互いの強みを活かした成長が可能になると思われます。
そのためには、ICTを活用した効率的な情報発信とプラットフォームの構築が重要であり、大都市圏の企業が地方自治体と協力して地域の課題解決に取り組むなど、新たな価値観の創生に向けた、大都市圏と地方都市の「協働・協創」の相乗効果が、「地方創生2.0」を加速化し、持続可能な社会の実現に繋がるのではないでしょうか。