2025年の崖を越える「自治体DX」とは
~自治体システム標準化の先にあるもの~

変容と混沌の時代に情報化戦略を考える [第1回]
2025年1月

執筆者:NPO法人 地域情報化推進機構 副理事長
ITエバンジェリスト/公共システムアドバイザー
野村 靖仁(のむら やすひと)氏

「2025年の崖」とは、基幹システムの老朽化やブラックボックス化が進行し続けることで、2025年を境に経済や社会に大きな影響を及ぼすことを示唆したキーワードですが、この概念が注目される背景には、日本の社会が直面する様々な課題があります。

「自治体DX」が目指すものは、住民サービスの向上と、事務処理の効率化ではないでしょうか。行政内部での情報共有を促進することで、組織横断的なデータの利活用によって、新たなサービス展開が可能になり、結果的に住民サービスの向上につながります。

現在、日本には1700以上の自治体があり、それぞれが独自に情報システムの開発・運用・保守を行っています。このような状況は「自治体システム1700個問題」とも呼ばれ、システム開発・保守コストの重複、自治体間での情報連携の複雑化、運用負担の増大、サービス品質の自治体間格差等が問題になっています。

政府は2026年3月までに、住民記録など20の主要業務について標準化・共通化を目指しているのはご存じのとおりですが、この期限内に目標が達成される見通しは不透明で、計画自体の今後の進捗についても予断を許さない状況です。

このような現状を打開するためには、「標準化・共通化」という曖昧な表現ではなく、同じ仕組みのシステムを各自治体が共同で運用するような、「統一システムの共同運用」などの明確な目標を掲げるべきではないでしょうか。

1700の個別システムの存在

いま、我が国には1741の自治体(2024年10月1日現在)があり、その全てが独自にシステムを開発・運用していますが、極言すれば、住民票を発行するシステムが1700、税金を賦課・徴収するシステムが1700という具合に、同じ機能のシステムが自治体の数だけ存在しているともいえます。

このような状況のその先には、膨大なコスト負担、システム開発費の重複、保守・運用費の無駄、システム更新時の重複投資など、多くの問題が山積しているのが現状です。

そして、自治体の予算規模による品質差や、サービス内容の地域による違いや、対応速度の差、オンライン化の遅れによる利便性の違いなど、行政サービスの地域間格差が生じる要因になっています。

統一されたシステムの共同運用という選択肢

「統一システムの共同運用」を実現するため、人口規模による3つのモデルの導入が想定されますが、人口規模に合わせたシステムを提供することで、各自治体の特性を活かしながらの自治体側の負担軽減と住民サービスの向上が期待されています。

政令指定都市は人口が多く、多種多様な行政サービスを提供する必要があり、システムはより複雑で柔軟性のあるものが求められますが、政令指定都市向けモデルでは、業務プロセスの標準化を図ると共に、大量データを効率的に処理する能力が重視されると思われます。

中規模程度の自治体では、政令指定都市ほどではありませんが、幅広い業務をこなす必要がある一方で、リソースが限られている場合が多いため、中規模自治体向けのモデルでは、シンプルで効率的なシステム運用が必要になります。

小規模自治体向けモデルでは、中規模の自治体より人口が少なく、リソースがさらに限られている自治体向けのシステムですが、このモデルでは、維持管理が容易で、導入コストを抑えることが重視されると思われます。

このように、システムの設計思想としては、自治体の規模に応じて、機能を実装する「政令市バージョン」、中核市規模の自治体向けの機能を実装した「中規模自治体バージョン」、小規模自治体に対応した「小規模自治体バージョン」の3種類のモデルが考えられます。

統一化する中での独自性確保に向けて

システムを統一化し共同運用することで、各自治体の独自性が損なわれるという意見もありますが、人口規模ごとの3種類のモデルを基準にした、カスタマイズ可能なテンプレートや、業務特性に応じたパラメーターを設定することで、柔軟な対応が可能と思われます。

さらに、各自治体の独自施策の条件式を公開することで、他の自治体が参考にすることも可能になります。新しい施策を導入したい自治体は、似た条件式を探して適宜修正することで、システム開発や改修コストの削減につながります。

自治体システムの標準化・統一化を進めることにより、近隣自治体との連携が強化され、広域的な施策にも迅速に対応できる環境が整備され、地域住民に高水準のサービスを提供することが可能になるのではないでしょうか。

例えば、現行の仕組みで転入・転出時の処理を見ると、転出元自治体が転出処理を実施し、転出証明書を発行、そして転入先自治体が転入処理を実施し、各種システムでデータを更新する手順が必要ですが、統一化されたシステムでは、データベース上の住所情報を更新し、履歴データとして前住所を保持するだけで処理が完了します。

自治体システムの統一化・共同運用は、大きな挑戦ではありますが、この変革は避けて通れない道でもあり、人口減少と高齢化が同時に進行し、社会のデジタル化が進展する中で、行政サービスも進化・変容するべきと考えます。

人口減少社会における広域連携の可能性

人口減少社会において、各自治体が単独でこれまで同様のサービスを提供し続けることは困難となり、こうした状況では、自治体間の協力と連携が一層重要となり、広域連携は地域の存続と発展に欠かせない要素となっています。

例えば、複数の自治体が連携し、広域的な行政サービスや公共インフラを効率的に管理・運営することで、資源の最適化を図り、限られた人的・財政的資源を共有しながら、住民に対するサービスの質を維持、向上させることが可能になります。

市町村間の広域連携の代表的な例として、複数の市町村が共同でごみ処理施設を運営することで、コスト削減と効率化を図っています。このような協力体制は、財政的に厳しい状況が続く地域にとって非常に重要な戦略と思われます。

また、観光資源を有効活用するために、広域的な観光ルートを市町村が協力して設定し、共に観光客誘致を進める取り組みもあります。都市や地域における連携が、市民にとって利便性が向上する結果をもたらしています。

都道府県間での連携・協力の例としては、広域的なインフラ整備があります。特に、交通ネットワークの整備では、複数の都道府県が連携し、高速道路や鉄道の整備を進めることで、地域間のアクセス向上を図っています。

これらの取り組みは、地域社会との連携・協働を深化させ、地域経済の活性化にも寄与しています。さらに、自然災害への対応においても、相互支援の協定を結び、災害時に迅速かつ効果的な支援ができるよう、平時からの関係構築が重要になると思われます。

広域連携を推進するための課題

広域連携を進める上で、遠隔地間の効果的な連携を実現するためには、情報通信技術を活用した施策展開が不可欠になりますが、インフラの整備や共通のプラットフォームの導入など、いくつかの技術的な課題が存在します。

さらに、自治体間の協力と連携を深めるためには、技術に精通した人材の育成も大きな課題であり、都市や地域における連携を強化するために、これらの技術的課題をどのように克服するかが重要となります。

また、法令・条例等が異なる都市や地域間での協力・協働を円滑に進めるためには、超えなければならない法制度上の障壁をクリアすることや、自治体間での財政管理やデータの共有に関する法制の整備が必要になります。

地域社会との連携・協働を促進するための法改正や、共通の課題に対して協働で取り組むための法制度を整備することで、地域の実情に応じた連携モデルを柔軟に運用できる環境が整い、自治体間の効率的な協働が可能になると思われます。

デジタル社会における自治体の役割

自治体は地域住民に最も身近な行政機関として、独自の役割と責任を果たすことが求められていますが、未来の地域社会のビジョンを具現化するためには、分権型社会への移行は重要なテーマではないでしょうか。

自治体間の協力と連携を強化することで、住民を中心とした生活圏に根ざした地域社会全体のサービス提供を効果的に行うことが可能になり、地域特性に即した政策を策定することで、分権型社会の実現に貢献できるのではないでしょうか。

経済的な課題を抱える地域では、産業振興を中心にした連携を図り、観光資源が豊富な地域では観光振興を軸にした協力が考えられます。

また、行政サービスの効率化を目指す連携も重要であり、資源を共有することでコストを削減し、住民へのサービスを向上させることが可能になります。そして、これらの取り組みを通じて、地域が持つポテンシャルを最大限に引き出し、持続可能な未来の地域社会を形成していくことにつながります。

自治体システムの統一化は、単なる業務効率化の手段ではありません。それは、デジタル時代における新しい行政サービスの在り方を実現するための重要な基盤・プラットフォームになると思われます。

システム統一化までの道のりは険しく、乗り越えるべきハードルも多々存在していることは事実です。しかし、この取り組みは、より質の高い行政サービスを実現し、真の意味での「デジタル社会」を実現するための重要な要素の一つと考えられます。

私たち一人ひとりが、この変革の意義を理解し、より良い行政サービスの実現に向けて行動するべきではないでしょうか。そして、2025年がその第一歩を踏み出す時ではないでしょうか。

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