先日、「AI(人工知能)関連の能力を有する人材募集」という求人広告を見ましたが、このようなジャンルの募集・告知が求人欄に掲載されることを、数年前に予見した人はいるでしょうか。
ここで求められているのは、生成型AI技術を活用するための戦略を構築し、遂行できるスキルを持った人物と思われますが、今後本格的にAIを業務で活用する時代に突入すると、このような求人広告は日常的なものになるかもしれません。
これまで、テクノロジーの進展によるイノベーションの変遷は10年単位で推移していましたが、画像認識やIoTなど、様々な領域におけるAI関連のイノベーションは、数週間から数日単位で進化しています。
生産性向上の視点から単純に考えても、AIの利活用によって、誰かに尋ねることや、「検索」に費やす時間が削減され、過去の知見を組み合わせることで、新たな価値を生み出すことが可能になるのではないでしょうか。
マイクロソフトは、全ての製品に「Copilot(副操縦士)」という概念で、AI技術を組み込んでいくことを明言していますが、今後、あらゆる業務の領域において生成AIが組み込まれていくと思われます。
AIのスペシャリストといえば、「ML(機械学習)」から「LLM(大規模言語モデル)」まで、AIに関して広範な知見を持つ人材をイメージしますが、今後はそれに加えて、様々な実務領域にも精通した「AI運用+α」の高度な専門的技能・スキルを持つ人材が求められるのではないでしょうか。
現状では、プロンプトエンジニアリングも、生成AIの進展とともに急成長した、ホットで新たな職種と思われます。しかし、プロフェッショナルとして長期にわたってキャリアを訴求できるかどうかは今のところ未知数ではないでしょうか。
プロンプトエンジニアリングに対する需要は高いが、インターフェースが対話的になり、人間同士の会話に近づいていく中、状況が変化する可能性もあり、新しいキャリアパスとして存続するのか、それとも一時的な存在で終わるのか現時点で判別することは困難です。
近い将来のことを考えると、AIアプリケーションの導入と管理に特化した、「AI運用+α」の技能を保有するスペシャリストが誕生し、彼らは「AIトレーナー」や、「AI監査人」などと呼ばれているかもしれません。
これらの職種においては、低レベルのコーディングや、レガシーコードのアップデートなど、多くの作業がAIによって陳腐化されていくだけではなく、事業展開全般に規模を拡大させ、AI利活用そのものが事業活動の核心に迫るものになると思われます。
AIが絶えず進展する時代には、ディープラーニング(DL)や、自然言語処理(NLP)など、AIを深く理解するとともに、技術的手腕と創造的な経験を兼ね備えたスキルを持つ「AIプロフェッショナル」ともいうべき人材が求められるのではないでしょうか。
年々セキュリティリスクが高まり続ける中で、専門性の高いサイバーセキュリティ人材は希少になり、その人材確保が世界的な課題となっている現在、AIを活用してセキュリティ確保に関する作業を省力化・効率化することは、喫緊の課題です。
最近、セキュリティ対策の分野で、膨大なアラートへの対応に忙殺されるなど、セキュリティ関連業務の負担軽減や、専門人材の獲得難などの課題を解決する手段として、AI技術を活用した自動化ソリューションが注目を集めています。
セキュリティ分野でのAI活用は、古くはウイルス対策での機械学習によるマルウェア解析に始まりますが、今後はディープラーニングなど複数のAI関連技術を駆使して、セキュリティ確保に関する脅威の兆候を自動的に解析する運用が日常化するかもしれません。
例えば、AIの利活用によって脅威に関する調査を行うことで、アラートやレポートなどを作成するプロセスの多くが自動化され、セキュリティ担当者はそれらのレビューに集中することが可能になり、脅威の検出から対抗策を実施するまでのフローが劇的に改善されると考えられます。
近年、サイバー攻撃の巧妙化・多様化は、全ての事業体にとって多大な脅威となっていますが、限られたリソースの中で、膨大なログデータを分析し、迅速な対応を行うのは容易ではなく、そこで期待されているのが、AIによるインシデント対応です。
AI利活用によって、過去の攻撃データを学習することで、類似する攻撃パターンを検知し、データの統計的な異常性を察知することで、従来のセキュリティツールでは見落としてしまうような、未知の脅威に対しても迅速に対応することができると思われます。
また、インシデント発生時には、複数のセキュリティツールを連携させ、システム・データを隔離、修復、復旧を行うなど、自動化された対応を実行することで被害拡大を抑制し、復旧時間を短縮することが可能になります。
AIの活用によって、公開情報やダークウェブ上の情報を収集・分析し、最新の脅威動向を把握することで、ネットワークやシステムのログデータの解析と、不正アクセスやマルウェア感染などの異常な活動を検知するなど、セキュリティインシデントに対応する仕組みの自動化を図ることができます。
今後は、セキュリティインシデント発生時に、迅速な初動対応(インシデントレスポンス)が適切に行えるような組織や仕組みを整備しておくことは、ITが社会基盤を構成する重要な要素となっている現在、必須の要件ではないでしょうか。
そして、ランサムウェアの被害などが大きな社会問題となっている現在、セキュリティインシデントが発生した際に、組織内のデータを解析して痕跡や証拠の有無を明らかにする「デジタル・フォレンジック」の重要性が高まりつつあると思われます。
2023年は「生成AI」が大きく注目されましたが、2024年以降は過熱したブームが収束に向かい、時流に乗った実験的導入の段階から、業務の現場で使用に耐えうる、実践的なAI活用のフェーズへ移行していくと思われます。
AI技術の進化によって、セキュリティインシデント対応はさらに効率化・自動化が進展し、将来的には人間が介入することなく、AIがインシデント発生の兆候を自動的に検知し対応する時代が到来するかもしれません。
Google Cloudは、今年4月に開催された年次カンファレンスにおいて、生成AI「Gemini 1.5 Pro」について、最大100万トークンコンテキストウインドウ、オーディオ/動画/コード/テキストなどを扱う、マルチモーダル仕様になると公表しました。
そして、同社では生成ATが牽引する、AIプラットフォームのその先を見据えて、次世代のハードウェア・AIインフラの中核となる、同社初のArmベースのCPU「Google Axion」を発表しています。
そうした状況下で我々が持つべきマインドは、AIを包含する情報化施策を展開する中で、何を成すべきかを突き詰めて思考する、そして、本来目指すべき事業の本質に向けて、新たな情報化モデルを創生することではないでしょうか。
システムやサービスを提供する場合、地域住民や顧客・ユーザーに対して、自分達がどんな想いで事業に取り組んでいるのか、なぜそのサービスを始めたのか、顧客に対してどのような想いで接しているのかなど「理念」を伝えるべきではないでしょうか。
我々が目指すデジタル社会の本質は、都市生活者の「UX(ユーザーエクスペリエンス)」の向上です。自分たちがどんな環境で暮らしたいのかという住民の想いが原点にあって、それを実現するのにデジタルを活用するのであり、体験を創出していく取り組みは必ず人に寄り添ったものでなければなりません。
AIシステムが進展したその先に、同じような都市が出現するのではと懸念する意見もあります。しかし本来は、地域が持つ特性を活かして、デジタル化を推進することで、自分たちの街・地域の魅力を見極め、特長となる差異化要素の高度化を図るべきです。
いま、私たちに求められているのは、サービス受給者である住民を中心とした、デジタル技術の活用による包括的な取り組みであり、様々な生活支援サービスを連携させる体制の確立や、より良い人生を生きるための都市設計の観点で考える、「暮らし価値」向上の実現ではないでしょうか。
AIに限らず、今後のITシステムの運用はその事業体が志向する、競合他者が真似することのできない、自分達だけが実現できるベネフィット「コアコンピタンス」の提供に回帰すると思われます。
AIを活用した事業展開を加速させるためには、「AIを使って何をしたいのか」、「AIの利活用によってどのような価値を提供したいのか」を明確にするという、極めて根源的な「志(こころざし)」ともいえる、強い思いが必要ではないでしょうか。